「脱炭素社会」実現へ 政府
先行地域設け地域に展開へ

「脱炭素社会」の実現に向け、2030年までに集中して行う施策などを示す、政府のロードマップがまとまりました。全国の少なくとも100か所に「脱炭素先行地域」を設けて取り組みを進め、ノウハウや人材をほかの地域にも展開するとしています。

2050年までの「脱炭素社会」の実現に向けて国と自治体が必要な政策を協議する会合が9日、総理大臣官邸で開かれ、「地域脱炭素ロードマップ」がまとまりました。

ロードマップでは、全国で少なくとも100か所に「脱炭素先行地域」を設け、この地域では2030年までに、家庭や企業などの電力消費にともなう温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとしています。

脱炭素先行地域の範囲は住宅街や団地、都市部の市街地、それに農村や漁村、離島などが想定され、こうした地域のノウハウや人材をほかの地域にも展開することで、2050年を待たずに多くの地域で脱炭素を達成すると記されました。

また、公共インフラ施設や住宅やビルなどの建物は寿命が長いため、再生可能エネルギーの導入など脱炭素化を今から進める必要があるとしています。

そのうえで全国で広く進める重点的な対策に屋根などへの太陽光パネルの導入を位置づけ、パネルを設置している公共施設の割合を2030年で50%、2040年で100%とする目標を示しました。

このほか、大量の電力を消費する都市部が、再生可能エネルギーによる発電を行いやすい地方から電力の供給を受けられるよう連携することなども、重点的な対策に盛り込まれました。

地方から電力供給受ける 横浜市の取り組み

全国で進める重点的な対策の1つ、地方から電力の供給を受ける取り組みが始まっているのが横浜市です。

大手喫茶店チェーンの、横浜市青葉区にあるこの店舗では、去年12月から、500キロ以上離れた秋田県八峰町にある風力発電所で発電された電力の供給を受けています。

照明やエアコン、それに冷蔵庫などによる店内の消費電力はすべて再生可能エネルギーでまかなっていて、この発電所から送られた電力が7割を占めています。

毎月の電気代はほとんど変わっていないということです。

「コメダ」サステナビリティ推進室の小野真菜さんは「LEDや効率のいい設備の導入などを進めてきたが、二酸化炭素の削減量が十分ではないと考え、再生可能エネルギーの導入を決めた。最近は環境に関心を持っているお客様が増えているので、選んでもらえる店になるようブランドのイメージを高めていきたい」と話しています。

こうした電力供給の仕組みは、横浜市がおととしから去年にかけて東北地方の13市町村と連携協定を結んで立ち上げました。

人口が密集している横浜市では、市内に可能なかぎり太陽光パネルを設置したとしても電力需要の8%しかまかなえないと試算され、「脱炭素社会」を実現するには外部から再生可能エネルギーによる電力を供給してもらう必要があります。

しかし、現在のところ協定に基づいて東北の電力を使っているのは印刷会社や金融機関、教育施設など38の事業所で、一部にとどまっています。

横浜市温暖化対策統括本部の沼田正樹担当部長は「都市部の温暖化対策に地方との連携は欠かせないが、市内の事業者で電力を再生可能エネルギーに切り替えようという動きはまだ十分ではない。国にはその必要性や啓発などを後押ししてもらいたい」と話しています。

「脱炭素先行地域」屋久島の取り組み

「脱炭素先行地域」として想定されている形の1つが「離島」です。

豊かな自然を生かして再生可能エネルギーによる発電施設を設け、閉じられた島内で電力を効率的に利用することで「脱炭素」が実現できると期待されています。

世界自然遺産にも登録されている鹿児島県の屋久島は、年間の降水量が日本で最も多い場所です。

多様で豊かな森林資源に恵まれた島の中におよそ1万3000人が暮らし、豊かな水と傾斜が急な土地をいかした水力発電によって、島内のほぼ100%の電力をまかなっています。

水力発電は、地元企業の「屋久島電工」が行い、エネルギーの地産地消が実現していて、発電時に二酸化炭素を排出しないことが特徴です。

そこに目を付けたのが、持続可能な街づくりの推進に力を入れようとしていた鹿児島県で、「CO2フリーの島づくり」を目標に掲げ、13年前からさまざまな取り組みを始めました。

まず行ったのが、電気自動車の普及促進で、島内4か所に充電施設を整備し、4年前まで、国と県の補助金を活用して購入できるようにしました。

電気自動車の導入は、今ではタクシー会社やホテルにも広がっているということです。

鹿児島県の担当者は「あともう少しで脱炭素化が実現できるという意味で政府が今考えているゴール地点にいちばん近いところに位置していると考えています。他の地域のモデルとして広まっていってほしい」と話しています。

住民主体へ

屋久島での脱炭素の取り組みは、今は住民主体へ切り替わりつつあります。

住民グループ代表の福元豪士さん(32)は「CO2フリーの島づくり」をもっと広めることができないかと考え、去年6月に「イマジン屋久島」を設立しました。

20代から40代のメンバー30人ほどが集まり、「持続可能な屋久島を実現するためにはどうしたらよいのか」と考えた結果、中高生も含む住民を対象にアンケートを行いました。

その結果をもとに先月、島の将来ビジョンマップができあがり、全戸に配布されました。

この中では、「水源の保全を屋久島から」など16個のビジョンが書かれていて、今、これを元に具体的に動き始めたところです。

福元さんは「屋久島は『周回遅れのトップランナー』と言われますが、特別なことをしている訳ではなく今まで島の人が大切にしてきた暮らしを守っていこうとしている。屋久島のこの取り組みを世界に発信したいし、まねできる取り組みがあるのではないかと思う」と話しています。

ただ、課題もあります。国は2050年までに脱炭素社会を実現させるとしていますが、自然に恵まれた屋久島でも、雨が少ない時期には火力発電に頼らざるをえないのです。

県の担当者は、現状では渇水期や設備の点検で一時的に火力発電に置き換えるのはやむをえないとしたうえで「住民の皆さんの心の持ち方で『CO2フリーの島作り』を進めていきたい」と話しています。

菅首相「再エネを活用し脱炭素化を」

菅総理大臣は会合で「2030年までに少なくとも100か所の『脱炭素先行地域』を創出する目標を掲げ、国による支援を集中的に進めていく」と述べました。

そして、地域への資金支援を複数年度にわたって継続的に行うことや、公共部門で率先して再生可能エネルギーの導入などに取り組む考えを示しました。

そのうえで「再エネの活用は地域活性化の大きな可能性を秘めており、国と地方が一体となって、地域の資源である再エネを活用した脱炭素化を進め、雇用の創出や国土強じん化にもつなげていく」と述べました。
小泉環境相「地域が主役となる脱炭素化を進めたい」
会合のあと報道陣の取材に応じた小泉環境大臣は地域での脱炭素について「今すぐできることは再生可能エネルギーの導入だ。抜本的に人材、情報、資金を強化する観点から複数年度にわたって包括的に支援し、地域が主役となる脱炭素化を国と地方が一体となって進めていきたい」と述べました。

また、会合の中ではふるさと納税の返礼品として再生可能エネルギーによる電力を取り扱えるよう自治体から要望があったということで「菅総理大臣からもこの取り組みを広げるという発言をいただいた。これをできるように条件の明確化も必要だとされた」と述べました。