森会長後任 アスリートなど
構成の委員会で選定へ

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の緊急の会合が開かれ、森会長がみずからの女性蔑視と取れる発言の責任を取って辞任する考えを表明しました。
後任はアスリートを中心としたメンバーで構成する委員会を設置して候補者を選定することが決まり、開幕まで5か月余りに迫った東京大会に向けて早急に新たな体制を構築し、準備を進めていけるかどうかが問われることになります。

大会組織委員会の森会長の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」といった発言を巡り、12日、組織委員会は理事と評議員による緊急の会合を開きました。

この中で森会長は、「大事なことは、オリンピックをきちんと7月に開催することで、私がいることで準備の妨げになってはならない」と述べて、会長の職を辞任する考えを明らかにしました。

会長の後任人事を巡っては、IOCの関係者や一部の理事から透明性の確保が重要だという指摘が出ていて、森会長に打診されいったん引き受ける意向を示した川淵三郎氏は、12日の会合で辞退したということです。

会合では、森会長が退席したあと後任の選定方法について意見が交わされ、男性と女性がほぼ同じ人数になるようにしたうえで、アスリートを中心としたメンバーで構成する委員会を設置し、候補者を選定することが決まりました。

会合の後、記者会見を開いた組織委員会の武藤事務総長は「会長の選任は国民にとって透明性のあるプロセスでなければならず選考の説明責任を果たすべきだ」としたうえで、「大会に向けた準備に1日たりとも遅滞が生じてはいけないので組織委員会が一丸となって全力で対応に当たっていきたい」と述べました。

開幕まで5か月余りに迫った東京大会に向けて、運営を担う組織委員会は早急に体制を構築し、新型コロナウイルスの感染対策などの準備を進めていけるかどうかが問われることになります。

今後の選定の流れは 新会長は組織委「理事」の就任必要に

辞任する考えを明らかにした東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長の後任となる新しい会長は、今後どのようなプロセスで決まっていくのか。

その手続きは、組織委員会が公益財団法人のため活動の規則をまとめた「定款」に定められています。

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長は「定款」では、理事の中から1人を選ぶとされています。

今の組織委員会の理事は、スポーツ界や経済界、国会議員などさまざまな分野から選ばれた35人が就いていますが、新しい会長になるためにはまず理事になることが必要です。

理事になるためには、組織委員会の重要事項を決議する「評議員会」の決議を受けなければなりません。

そして理事に就任したうえで、会長の選定と解職の権限がある理事会の決議を受けて新しい会長が誕生します。

ただ、会長の候補者をどのようにして選考するのか具体的な方法が決まっていませんでした。

こうしたことなどから組織委員会では12日、新しい会長の候補者を選ぶプロセスを明確にしようと候補者を選考する委員会を設置することを決めました。

組織委員会では、新たに設けられた候補者を選考する委員会で活発な議論を交わし会長の候補者の人選をしたうえで、理事会に提案するものとみられます。

菅首相「ルールに基づき透明性の中で決めていくもの」

菅総理大臣は、12日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「森会長はご自身の中で熟慮を重ねたうえで辞意を表明したものと考えている。また、新しい会長は大会組織委員会でルールに基づいて透明性の中で決めていくものと思っている」と述べました。

そのうえで「政府としては国民や世界の皆さんから歓迎される新しい組織ができるだけ早くつくられることを期待し、安全・安心の大会になるように全力を尽くしていきたい」と述べました。

また菅総理大臣は、記者団から「森会長に『後任はもっと若い人や女性がいい』と伝えたのか」と問われたのに対し「国民から信頼され、歓迎されるような組織や決め方が大事だと伝えた」と述べました。

さらに、菅総理大臣は「国会でみずからの考え方を明らかにしなかったにもかかわらず、後任に対する考え方を伝えるのは不誠実ではないか」と問われ「全く違う。私は組織委員会の顧問会議の最高顧問でもあり、決め方についてはやはり透明にルールに基づいて決めるべきだと思っている」と述べました。

組織委理事の日本パラ委員会参事「辞任は残念」

組織委員会の理事を務めるJPC=日本パラリンピック委員会の中森邦男参事は「会議では出席者のほとんどから『森さんの発言は容認できない』という意見が出た」と話しました。

そして、後任の会長選びについては「委員会を作ってきっちり選考プロセスにのっとってやることに決まった。残された5か月で会長の大任を果たすには、国際的な影響力があり、政治の世界も理解して粘り強く交渉できる人でなければならない」と話しました。

そのうえで「森さんは『オリパラは一体だ』と言い、国にも『パラリンピックを頼む』と言ってくれた。森さんが会長になったことで障害者スポーツの振興が進んだと思っている。辞任は残念だ」と話しました。

IOC渡辺理事「発言は非常に残念で容認できない」

会合に出席したIOC=国際オリンピック委員会の委員で、大会組織委員会の理事も務める渡辺守成理事は、NHKの取材に対して「森会長の発言は非常に残念だったし、今の世界ではとうてい容認できないものだった。ただ、森会長のこれまでの貢献と大会への愛情を考えれば、辞任されることは大変惜しい」と述べました。

そのうえで「森会長の発言を発端に、日本がどういう国なのか世界から問われていることを、われわれは認識する必要がある」と話していました。

理事「世界から見られている 透明で公正な形で」

大会組織委員会の男性理事の1人はNHKの取材に「森会長の人柄はよく知っており、女性蔑視のつもりで言った訳ではなかったとは思う。ただスポーツ界が競技団体のガバナンスコードを策定するなど、男女平等へと歩み始めた流れに水を差し、発言が世界に発信される立場としても不用意なものだった。優れた調整力でかわりがいない人だっただけに、発言やメディアへの対応も含め辞任に至る経緯は残念というほかない」と述べました。

そのうえで、新たな会長の選考については、「日本がどういう方向に進むのか、世界から見られている。その意識を持って、アスリートのほかに学識経験者も交えた透明で公正な形で選んで欲しい。1週間で選ぶのは難しいかもしれないが、来月には聖火リレーが始まるので、それくらいのスピード感をもって選ぶ必要がある。新たな会長は大変だが、大会が開催できるよう支えていきたい」と話していました。

組織委理事の都議会議員「女性理事の比率を高めるよう求めた」

組織委員会の理事を務める小山有彦都議会議員は、会合のあと記者団に対し「『森会長の発言はオリンピック憲章に明らかに反している』と発言した。組織委員会がジェンダー平等を徹底し、女性の理事の比率を高め、副会長や会長代行などに女性を登用するよう求めた」と述べました。

また後任の会長については「信頼を回復できるよう、ルールに基づいて理事会の中で決定してほしい。オリンピック憲章の理念を体現できることがいちばん大事だ」と述べました。

組織委理事の都議会議員 “今の体質を変えるしかない”

組織委員会の理事を務める東村邦浩都議会議員は会合のあと、NHKの取材に対し「JOC=日本オリンピック委員会の評議員会で森会長が発言したときにいさめる人もいなかったし、笑っている人もいたことが今のスポーツ団体の体質だ。これを変えるしかないという話をした」と述べました。

また、後任の会長については「今は信頼回復が大事だ。男女平等を推進し、さまざまな差別をアスリートと一緒になって解決していくという意識を持った人に務めてもらいたい」と述べました。

専門家 “近しい方を後継指名など問題ある進め方”

オリンピック・パラリンピックの運営などに詳しい奈良女子大学の石坂友司准教授は、森会長の発言や後任をめぐる対応について「世論の反発を受け辞意が固まってきたところで、本来ならば組織として後任を議論し、オープンにした中で国民の理解を得ながら再スタートを切るべきだった。近しい方を後継指名するかのように決めていくという手法は、古い政治システムを想起してしまう決め方で、対応を含めて後手後手にも回りオープンさも欠いたという意味で、非常に問題のある進め方だった」と指摘しました。

また今後について「オリンピックは単なるスポーツの大会ではなく、開催するに値する国や都市であるかということが試されている大会でもある。今回の女性蔑視の発言は、日本のオリンピックの組織、スポーツ界、日本の社会全体が男女平等や、さまざまな差別に十分取り組んでこなかったことをオープンにしてしまった。いま、多くの方がオリンピックに対し期待をそがれてしまい、その理念に疑念を持っている状況で、なぜ開催するのか、もう一度理念から立て直せる人が会長になって情報を発信し直すということが残された光明なのではないか。後任の会長のメッセージ、後任を選ぶ過程こそが大事だと思います」と話しています。