救急で「搬送困難」のケース
増加続く 総務省消防庁

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、救急の患者の受け入れ先がすぐに決まらない「搬送困難」なケースが増え続けています。
総務省消防庁が全国の状況をまとめたところ、今月17日までの1週間で3317件と、調査が始まった去年4月以降で最も多くなりました。

総務省消防庁は、患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」として、県庁所在地の消防本部など全国の52の消防機関に、毎週、報告を求めています。

今月11日から17日までの1週間では3317件と、前の週から610件増え、件数の比較調査を始めた去年4月以降、最も多くなりました。

去年11月下旬から7週連続の増加となっています。

また、去年の同じ時期の1530件と比べても2倍以上となっています。

地域別にみると、
▽東京消防庁の管内が1577件で去年の同じ時期の2.5倍(+950件)、
▽大阪市消防局が298件で1.8倍(+132件)、
▽横浜市消防局が280件で3.9倍(+209件)、
▽川崎市消防局が85件で4.3倍(+65件)、
▽名古屋市消防局が54件で4.2倍(+41件)などとなっています。

総務省消防庁は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、病床がひっ迫していることが背景にあるとして、厚生労働省や都道府県と情報を共有し、受け入れ態勢の調整などを要請しているということです。

搬送先決まらず自宅療養のケースも

新型コロナウイルスの感染拡大で急病の患者の搬送先がすぐに決まらないケースが増えていますが、中には搬送先が見つからずやむをえず自宅で療養する患者も出ています。

東京 渋谷区に住む84歳の男性は、今月3日、自宅のトイレで急に倒れました。

70代の妻によりますと、男性は高熱があり呼吸も荒くなっていたため救急車を呼びました。

まもなく救急隊が到着し医療機関に受け入れを要請しましたが、「ベッドの満床」などを理由に6か所が「受け入れが困難」と回答したということです。

1時間半ほどがたっても搬送先が見つからず、救急隊から男性のかかりつけの医師に「自宅で療養する形にしてほしい」と要請がありました。

医師や妻が承諾し男性は結局、自宅に戻りました。

今、男性は酸素吸入装置を使うなどして、自宅で療養を続けています。

男性の妻は「救急車は通報してすぐに来てくれたが入院できるところがないというのは異常だと思った。夫は肺に持病などがあり、これまでにも救急車で運ばれることはあったが、搬送先が見つからないことはなかった。新型コロナの感染拡大の影響でベッドがいっぱいになっていることはしかたがないが、救急患者の受け入れ態勢を改善してほしい」と話しています。

医師「助かる命も助からない事態起きかねない」

体調が急に悪化し救急車を呼んだものの、6つの医療機関が受け入れが困難だと回答し、結局自宅で療養を続けることになった84歳の男性のかかりつけの医師に話を聞きました。

稲村俊明医師によりますと、去年の年末ごろから、担当する患者の搬送先がなかなか決まらないケースが相次いでいるということです。

稲村医師は「新型コロナウイルスに感染する人が急増したうえ、一部の病院でクラスターが発生するなどして受け入れが困難になっている医療機関が増えていることが原因ではないか。受けたい医療が受けられない状況で、もはや“医療崩壊”という段階にきている」と話しています。

そして「搬送先を確保するためにも、新型コロナウイルスの新規感染者の発生を減らすことが最も重要だ。このままでは入院できれば助かる命も助からないという事態が起きかねない」と訴えていました。

救急救命士を派遣 受け入れ先調整の取り組みも

こうした中、千葉市消防局は、救急救命士を保健所に派遣して受け入れ先の調整にあたる新たな取り組みを始めました。

千葉市消防局によりますと、感染拡大で市内の医療機関の病床はひっ迫していて、救急患者でも医療機関への照会が5回以上必要だったケースが全体の1割ほどに上っているほか、搬送にかかる平均時間も去年1年間の平均と比べておよそ5分伸びるなど、今月以降、搬送先を見つけることが難しくなっているということです。

中には、通報から病院到着までに6時間近くかかったケースもあったということで、千葉市消防局は救急搬送をスムーズに行えるよう、救急救命士を保健所に派遣して調整業務にあたる新たな取り組みを始めました。

新型コロナウイルスの患者は保健所の職員が受け入れ先を探していますが、ここに現場での活動経験が豊富な救急救命士5人が加わり、迅速な搬送に向けて、24時間態勢で交代で調整に当たります。

救命士を派遣している千葉市消防局の花見川消防署の小林輝三消防司令は「一刻もはやく医療機関を決めて患者を搬送することがわれわれの使命です。調整員が入ることで少しでも救急活動を円滑に行いたい」と話していました。

名古屋 “搬送が困難な事例”が5倍近くに急増

名古屋市の「搬送が困難な事例」は先月7日からの1週間は11件でしたが、年末にかけて急増し今月11日からの1週間は54件と1か月余りで5倍近くに急増していることが消防局などへの取材でわかりました。

前の年の同じ時期と比べても4倍以上に増えていて、増加の割合は52の消防機関のうち川崎市消防局に次いで2番目に高いということです。

消防局によりますと受け入れがかなわなかった理由として医療機関からは新型コロナウイルスの入院患者を受け入れているため、空いている病床が少ないことや対応できるスタッフがいないことなどが挙げられたということです。

また、搬送に時間がかかった54件うち、新型コロナウイルス以外の患者が45件とほとんどを占めていたということです。

この中には、心筋梗塞が疑われる患者や骨折している患者などがいたということで、通常の救急医療にも影響が出ている実態が浮かび上がっています。

救急搬送先は駆けつけた隊員が電話で問い合わせ

名古屋市で救急搬送先を探す際、どのようなルールになっているのか名古屋市消防局に聞きました。

名古屋市では通常、駆けつけた救急隊員が患者の容体を確認し、現場から症状に合った治療ができそうな病院に電話をして受け入れが可能か問い合わせをしているということです。

患者が意識がないなど重篤な場合は、早急に搬送先を確保する必要があるため、現場の隊員ではなく119番通報を受ける通信指令の担当者が病院を探すこともあります。

自宅療養中の陽性者や濃厚接触者は市の対策班が対応

一方、自宅療養している新型コロナウイルスの陽性者や濃厚接触者の場合、名古屋市では救急隊員ではなく保健センターから連絡を受けた市の対策班が搬送先を探すことになっています。

病院が調整できると対策班が救急隊に搬送を依頼し、防護服やN95マスクなどを身につけた隊員たちが患者の搬送を行います。

ただ、最近は新型コロナウイルスの感染者の急増による病床のひっ迫から、市の対策本班も搬送先を見つけるのに時間がかかることがあり、患者の容体が悪く一刻も早い搬送が必要な場合は、救急隊も現場で受け入れ可能な病院を探しているということです。

現場の救急隊員「現場は異常な状況」

名古屋市消防局の救急隊員がNHKの取材に応じ、搬送先を決めるのに時間がかかっている現状について「現場は異常な状況だ」と話しました。

名古屋市消防局の蛭川宗健さんは本部救急隊に所属し、名古屋市中心部の救急搬送の対応にあたっています。

蛭川さんは最近の救急搬送について「(新型コロナウイルスの感染者の増加で)搬送しようとした病院に入院できるベッドがないという状況があって救急車の受け入れができないと回答を受けることが多くあります」と説明しました。

さらに、息苦しさや発熱などの症状が少しでもあると、消防が新型コロナウイルスの疑いが低いと判断していても、病院から感染の可能性を指摘され受け入れてもらえなくなる傾向があるといいます。

蛭川さんは先月、発熱や息苦しさを訴えた患者についてその症状の程度や感染者との接触がないことなどから、新型コロナウイルスの疑いが低いと判断し、通常の患者として搬送先の病院を探しました。

しかし、病院から感染の可能性を指摘され搬送先がなかなか決まらず、7か所目の病院がようやく受け入れてくれましたが、現場に1時間ほどとどまらざるを得なかったとということです。

また、腰痛を訴えて通報してきた患者のケースでは、患者に熱が少しあったため、30分以上受け入れ先が決まらず、ほかにも過呼吸の患者で受け入れ先がなかなか決まらなかったケースがあったということです。

いずれも病院側は感染している可能性も否定できないとして、患者を受け入れるベッドが足りないとか、対応するスタッフがいないといった理由で引き受けが難しいと説明されたということです。

こうした状況について蛭川さんは「胸が痛いとか息が苦しいとかそういったものは心筋梗塞の症状としてはよくあることなんですけど、どうしても新型コロナウイルスの症状と少し重なる部分があることで医療機関側もなかなか通常の対応が難しいという回答を受ける場合があります」と話しました。

そして蛭川さんは「医療機関の現状やベッドのひっ迫状況を理解している」としたうえで、「救急車というのは命に関わるものでなので、1分1秒でも早く医療機関へ患者様をお連れするのが仕事ですので、現場に長くとどまっているのは異常な状況じゃないかなと考えています。いつ、大きな急変があるか分からない状況ですので、現場の救急隊員としてもそこに強い不安を感じています」と話していました。

名古屋市消防局「医療機関、市の対策班、消防が連携を密に」

名古屋市消防局の鳥居太救急課長は、救急搬送の受け入れ先がなかなか決まらない事例の増加について「新型コロナウイルスの新規感染者が増加しているという中で、病院に入院している人が増えている。そのためすぐに救急搬送の患者を受け入れる病院が少ないということが要因だと思っています」と分析しています。

そして「医療機関にも厳しい現状があり、直ちに有効な解決策を見つけるのは簡単ではない」としたうえで「医療機関、名古屋市のコロナ対策班、消防がしっかりと連携をして情報を密にして対応していくしかない。われわれも少しでも早く119番通報に応えたいと一生懸命活動しているので、少しでも努力していきたい」と話していました。