開の図書館 利用者名の
記入どうする?

緊急事態宣言が解除されたあと各地の図書館が再開に動き出す中で、感染防止策の一環として利用者に名前や連絡先の記入を求めるかどうか、対応に苦慮しています。図書館の再開にあたっては、利用する人の入館記録があれば、館内で感染者が出た場合に接触者を特定するのに役立つ一方で、図書館は利用者のプライバシーを侵さないという前提があることから、各地の図書館で対応が分かれています。

このうち、1日から事前予約制で再開する東京都立中央図書館は、利用者が入館する際に、健康状態とともに名前と連絡先の記入を求めることを決めました。
棚田和也サービス部長は「コロナの第2波、第3波が言われている中で、利用される方々の安全を考えると、利用者の情報をいただくことはやむをえないと思っています」と話しています。

一方、今月19日に再開した長崎県立の「ミライon図書館」は、県内で感染者数が増えていないことや、利用者全員に目的や理由を説明したうえで依頼するのが難しいことなどから記入を求めていません。
渡邉斉志館長は「全員入り口でストップして一人一人事情を説明して個人情報を収集しようとする場合、間違いなく混乱が生じてしまう。さまざまな感染防止策を講じる中で、今の時点では利用者の個人情報の収集は実施しないという判断に至りました」と話しています。

全国の文化施設の情報を取りまとめている有志の団体、「saveMLAK」が全国の図書館のウェブサイトを調べたところ、今月21日の時点で利用者の入館記録を取っていることを明らかにしているのは93館で、少数にとどまっています。

日本図書館協会 ガイドラインの表現見直す

来館者に名前や連絡先の記入を求めるかどうかについては、全国の図書館でつくる「日本図書館協会」も、ガイドラインの表現を見直すなどの対応に追われています。

協会が今月14日に公表した「感染拡大予防ガイドライン」では、具体的な対策の一つとして、地域の事情や感染のリスクなどを検討したうえで、「名前及び緊急連絡先を把握し、来館者名簿を作成する」ことを挙げています。

その後、各地の図書館から意見や質問が相次いだことから、協会は20日、「補足説明」を出し、「すべての項目の実施を機械的に義務づけるものではない」としたうえで、「十分な検討の結果、来館者名簿の作成を行わないことは、十分あり得ます」などと説明しました。

さらに26日にはガイドラインの内容を更新し、「実施の必要性の有無を各図書館が主体的に判断したうえで行う」「保存期間などを来館者に事前に周知したうえで、本人の同意を得て実施する」などと、より詳しい説明を加えています。

専門家「各図書館が主体的に考えて判断を」

文化施設の再開にあたっては、政府の専門家会議が今月4日に示した今後の行動変容に関する提言の中で、「業種によっては万が一感染が発生した場合に備え、入場者等の名簿を適正に管理することも考えられる」としています。

一方、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」では、「図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない」と定められていて、図書館ではこれに基づき、名前や連絡先など利用者の秘密が守られています。

これについて、図書館の事情に詳しい奈良大学の嶋田学教授は「感染症の予防対策とプライバシーの保護はともに公益性があり、各図書館が主体的に考えて判断するということにつきると思う。本当にそれをしなければ致し方ないものなのかよく検討すべきで、実施する場合は目的と取り扱いについて丁寧に説明することが、図書館としての責務だ」と話しています。