【全文】岸田総理インタビュー G7広島サミットに向け 戦争被爆国として

岸田総理大臣はG7広島サミットが5月19日に開幕するのを前に、NHKのインタビューに応じ、サミットについて、ロシアのウクライナ侵攻を許さない立場や、法の支配に基づく国際秩序の重要性を確認し、対ロ制裁の実効性を高めたいという意向を示しました。また、被爆地での開催を通じ、核廃絶の機運を高める転機にしたいなどと決意を強調しました。
インタビューの全文を掲載します。

世界情勢への認識は

Q.いよいよ、広島でのG7サミットとなるが、ウクライナや中国の主張をどう見ているか。また北朝鮮の核・ミサイル開発は止まることを知らず日本国民も不安になっている。いまの世界情勢をどう見ているか。

A.ロシア、北朝鮮をはじめ、さまざまな動きがある。激動の国際社会を見る中では、いままでわれわれが常識だと思っていた国際的な秩序が大きく揺るがされている。今後の状況をしっかり注視していかなくてはならないが、やはり国際社会のありようは歴史的な転換期を迎えているのではないか。またエネルギーをはじめ、食料など、国際的な規模の大きな危機にどう対処していくのかが迫られ、大事な時期にあるのではないか。その中で行われるサミットに大変、緊張感を感じているところだ。

広島でのサミットで何を目指す

Q.総理自身、広島が地元だ。また、これまでの経緯を見ても2016年に総理が外務大臣時代、広島でG7外相会合を開き、当時のケリー国務長官が広島に、その後オバマ大統領の歴史的な訪問と続いた。そうしたことなどがあってのことしの広島でのサミットだが何を目指していくのか。議長としての考えを聞かせてもらいたい。

A.今回、サミットを広島で開催するわけだが、かつて原爆によって壊滅的な被害を受け、その後、力強く復興を遂げた。そしていま世界に向けて平和のメッセージを発している、この広島という場所に、世界のリーダーやG7のリーダーたちが集まる、平和や安定について議論する。この意味は大変大きいと思っている。激動する国際社会が歴史的な転換期を迎えている中で、広島ほど、こうした議論をするのにふさわしい都市はほかにないと思っている。

ウクライナ情勢への対応は

Q.国際社会の激しい転換期という話があったが、続いてはウクライナ情勢にどう対応していくのかという点。総理は3月には首都キーウも訪問したが、今回のG7の場でロシア軍の即時撤退を強く求める考えか。G7としては、どんなメッセージを出そうというのか。

A.今、激動する国際社会の中において「領土や主権の一体性を守る」という国連憲章に基づく極めて基本的な原則、これは守っていかなければならない。こういった思いをどれだけ多くの国と共有できるか。これが、今回の侵略をやめさせる上でも大きなポイントになってくるんではないか。法の支配に基づく国際秩序。国連憲章をはじめとする国際法に基づいて国際社会が活動していく。これはやはり弱い立場、脆弱な国にとってこそ大切なルールであると思っている。これを守っていこうということについては、どんな立場の国であっても共有できるのではないかということを考えている。今回のサミットでは、まずは力による一方的な現状変更は許してはならない。また、ロシアが行っているような核兵器による威嚇、ましてや使用は許してはならない。こうしたことを訴えるとともに、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序をこれからも維持し、強化していく。こうしたG7の強い思いを世界に発信していくサミットにしたいと思っている。

Q.まさに現在、ウクライナの反転攻勢はどうなるのか、世界中が見守っている。大変重要な時期になると思うが、ウクライナへの具体的な支援については、G7でどのような話し合いを行い、とりまとめていこうと考えているか。

A.ウクライナ情勢については、長期化が懸念されている。やはりG7としては、そうした中だからこそ改めてウクライナに対する強い連帯を一致して示さなければならないと思っている。厳しい対ロ制裁と力強いウクライナ支援。これをこれからも継続していく。こうしたメッセージを発していくことが大事だと思っている。

Q.支援の話があったが、ウクライナは武器を支援してほしいという声が強い。一方で日本には出来ることと出来ないことがある。従来の枠を越えて日本が防衛装備品の提供を行う可能性は今後、出てくるか。

A.日本はこれまでもG7各国とも連携しながらウクライナ支援を行ってきた。例えば厳しい冬を乗り越えるための発電施設など、さまざまな人道的支援、また財政的な支援など日本らしい支援を行ってきた。その上で日本として今後ウクライナのニーズもしっかり踏まえながらどんな支援を考えていかなかればならないのかという中で防衛装備品についても、さまざまな議論がある。昨年末にまとめられた国家安全保障戦略の中でも、こうした装備品の支援という部分は、日本にとって好ましい国際環境を作り出すためにも、国際法に違反して侵略を受けたような国に対して支援をするという観点においても重要な政策的な手段になりうるという整理をされている。こういった考え方に基づいて、今、与党において議論を始めているという段階だ。丁寧に議論を行った上で、この部分については、日本としての考えを整理しなければならないと思っている。ただ、今の現状、日本に期待されるさまざまな支援は具体的にたくさんあるわけだから、日本としてできる限りのウクライナ支援は行っていきたいと思っている。

Q.ウクライナ侵攻以後、まもなく1年3か月、日本もG7とともに対ロ制裁に積極的に参加してきている。この制裁の効果どう考えるか。

A.おっしゃるように日本もG7との枠組みを通じて協調して制裁を行ってきた。政策の効果についていろいろな議論はあるが、例えばロシアにおいては、輸入依存度の高い自動車産業で急速に活動が低下しており、半導体不足で武器の製造が滞っているなど、さまざまな制裁は一定の効果は出ていると認識をしている。ただその中で迂回をしたり制裁逃れをしているといった指摘もある。第三国による制裁逃れ、迂回の動きなどに対しては、今後ともG7においても連携して実態を把握した上で、第三国に対する働きかけを行うことによって制裁の実効性を高めていく。こうした努力は行わなければならないと思っている。

東アジア情勢など

Q.続いて東アジア情勢について。日本はG7の7か国のうちでアジア唯一のメンバーで、アジア代表になると思うが、総理は現在のこの日本を取り巻く東アジアの情勢について、どのような認識を持っているか。

A.今回のG7においては、アジア、あるいはインド太平洋地域に対し、欧米各国にしっかりと関心を持ち、関わってもらう。こうした手がかりにもしたいと思っている。今、東アジア情勢については、力による一方的な現状変更の試みが東シナ海あるいは南シナ海といった地域でも起きている。ウクライナにおける侵略行動、こうした力による一方的な現状変更は、決してヨーロッパだけの話ではなく、東アジアにおいても真剣に考えなければいけない重要な課題だ。事実、東シナ海、南シナ海などにおいては、力による一方的な現状変更が行われている。さらには北朝鮮による核・ミサイル開発もどんどんと進んでいる。この東アジアの情勢、まさに戦後最も複雑で厳しい安全保障環境にあると言われている。そうした厳しい状況にあるという認識を持っている。

Q.指摘のように今回のサミットで議論は、日本で行われるということで、中国をかなり意識したものになるんではないかと私たちは考えているが、今回のG7で議長としてとり上げる中国の課題は具体的に何か。

A.中国は国際社会において経済をはじめ、さまざまな分野で大きな存在感を示している。こうした中国に対し、まずわが国としては中国との関係において、さまざまな可能性もある一方で、課題や懸念が存在する。そういった課題や懸念に対して、言うべき、主張すべきことはしっかり主張し、そして中国に対し国際社会の一員として責任をしっかり果たしてもらう。しかし一方で、対話は大事にしながら気候変動をはじめとする、協力すべき課題については、協力をしていく。こうした建設的で安定的な関係を中国と双方の努力によって築いていきたい。このように日本は思っているわけだが、こうした考え方については、これまでもG7各国とすり合わせを行い、中国に対して主張すべきことはしっかり主張する、懸念、課題についてわれわれの思いはしっかり伝えていく。そうしたうえで中国に責任ある国際社会の一員として振る舞ってもらう。こういった思いは伝えていこう、一致して伝えていこうという思いについては、これまでも確認をしている。ぜひ今回のサミットにおいても中国に対して、こうしたわれわれの考えている課題や懸念については率直に伝え、そして国際社会の一員としての責任を果たしてもらう。こうしたメッセージをしっかり伝えていくことが重要であると思っている。私も去年11月の日中首脳会談で、そういった思いを習近平国家主席に直接伝えたが、G7のサミットにおいてもG7各国とも連携しながら一致したメッセージを発していきたいと考えている。

台湾情勢は

Q.台湾をめぐる情勢については中国がどんどん強硬になってくる。軍事力も見せながらということになっているが、台湾をめぐって戦争をさせない。それから戦争に巻き込まれないということが日本にとっても世界にとっても大事な点だと思うが、この点についてはG7の中で議論をどうリードし、どんなメッセージを出していきたいと考えているのか。

A.台湾海峡の平和と安定は、わが国のみならず、地域や国際社会全体の平和と安定にとっての重要な課題であると思っている。そしてわが国のこれまでの一貫した立場として、台湾の平和と安定については、対話により平和的に解決されるべきでというものだ。こうした考え方については、従来、習近平国家主席をはじめ、各レベルで中国に伝えているわけだが、こうした思いはG7各国ともこれまでさまざまな形で共有してきた。こういったわが国の考え方は日米首脳会談をはじめ、各国との二国間会談においてもしっかり伝え、そしてG7として、この思いを一致させるよう努力をしてきた。今回も台湾に関しても、そういった思いをG7として発するメッセージを出していきたいと考えている。

G7内の対中温度差への対応は

Q.中国に関して議長としてG7の議論をまとめていこうと考えておられるが、G7の中で、日本とアメリカ、一方、フランスを中心にヨーロッパの中で、中国に対する姿勢や問題意識に温度差があるのではないかという指摘もある。これをどう見ていて、どのように議論をリードしていこうと考えているか。

A.おっしゃるようにG7各国それぞれ地政学的にも置かれている立場が違うので、中国との間において、具体的な関係の違いは存在するとは思うが、その中にあってもG7として一致したメッセージを出していこうという努力をこれまでも続けてきた。4月、軽井沢で行われたG7外相会合でも、中国に対して懸念や課題を率直に伝えるとともに、国際社会において責任を果たしてもらう。こうしたメッセージを発していくことで一致をした。中国との課題や懸案についても一致して対応し、連携をしていく。こういった確認をG7外相会合でも行ったところだが、今回のサミットにおいても、その基本的な考え方に基づいて、中国に対してメッセージを発していくことになると考えている。

核兵器のない世界の実現は

Q.被爆地でのサミットだけに、核兵器をめぐる対応は最大の焦点だ。総理は広島が地元で、小さなころはおばあさん、親戚のおじさんの被爆の記憶もあると自身の著書にも書かれている。核軍縮、核不拡散はライフワークだと言っているが、なかなか理想と現実は厳しいところがあるとも思う。世界、そして東アジアでの核をめぐる現状認識や問題意識はどういったものか。

A.まず広島・長崎に原爆が投下されてから今年で78年目になるわけだが、その間、多くの先人たちが核兵器のない世界という理想に向けて、さまざまな努力をしてきた。しかしながら、現在、この10年ほどの動きを振り返ったときに、核兵器のない世界を目指すという機運がどんどん後退している。昨年もNPT(核拡散防止条約)運用検討会議という核軍縮・不拡散で大変重要な、5年に一度開催される会議も開催され、私も日本の総理大臣として初めて出席をした。しかしその場で、残念ながら一致した共同文書を取りまとめるというところには至らなかった。これは2回連続のことだ。こうした状況を見ても、世界が軍縮・不拡散という課題において分裂している。さらに今ロシアによる核の威嚇が懸念されている。あるいは北朝鮮のミサイル・核開発が懸念されている。こうしたさまざまな現実をみても、核兵器のない世界という理想に向けての機運が後退していることを強く心配している。しかしそういったときだからこそ、被爆地・広島で開催されるG7サミットにおいて、今一度核兵器のない世界を目指そうという機運を盛り上げる転機にしたいと思っている。

Q.現状の世界の核をめぐる状況。ロシアのプーチン大統領もそうだし、北朝鮮もそうだが、中国の核の不透明性っていうところもあると思う。広島が地元だけに、それをご覧になると残念だなという気持ちは強いか。

A.広島の人間としては、今の現状を本当に残念に思っている。しかし、それだけ厳しい現実を前にして、ここであきらめるわけにはいかない。そして今、現実に広島でサミットを開催するということだから、このサミットにおいて今一度、国際社会で理想に向けて、勇気をもって努力をしようという雰囲気を作っていく。こうした転機を作りたいという思いはより強く、広島のみならず、核兵器のない世界を願う多くの人たちにおいて、強い思いなのではないか。こんなことを考えている。

Q.G7の中にはアメリカ、フランス、イギリスという核保有国がある。この中でサミットの議長として核廃絶に向けてどういうメッセージを出し、どういう局面にしたいという思いか。

A.まず大きなメッセージとして、今一度、核兵器のない世界という理想に向けて努力をしようという思いを発信したいと思う。その理想に向けて現実をどう近づけていくのか。これを考えるのが外交であり、政治だと思っている。現実と理想を結びつける道筋、ロードマップ。これを考えていかなければならないが、その点については、私は昨年のNPT運用検討会議に出席した際に、総会の演説をさせてもらい「ヒロシマ・アクションプラン」という考え方を明らかにした。その中に5つ項目があるんだが、まず第1に核兵器不使用の歴史を継続しなければならないということ。2つ目として、核兵器の数を減らしていく努力。かつて冷戦期は莫大な核兵器があった。努力によって減らされてはきているものの、今でも1万発以上の多くの核兵器が世界に存在する。この核兵器を減らす努力を続けていかなければならない。その際に、詳しく説明は省くが、CTBT=包括的核実験禁止条約などといった核軍縮の枠組みの中で議論が行われてきた。これを今一度復活させようというような思い。そして、こうした努力の基盤になるのはお互いの信頼関係であると。信頼関係を支えるのは、核を持っている国の透明性。自分たちはどれだけの核兵器を持っているのか。これを明らかにするところから始めようではないかとか、こういった具体的な提案を私はさせていただいた。こういった考え方に基づいて、具体的な取り組みを今一度始めようという呼びかけをしたいと私は思っているところだ。

核兵器禁止条約に日本は

Q.理想と現実の間で日本はNPTを中心に核廃絶、核軍縮を実現していこうということだと思うが、一方で核兵器禁止条約が立ち上がった。この中で世界の唯一の戦争被爆国である日本が、なぜ条約に参加しないんだという批判の声もある。これについてはどう考えているか。

A.私は本の中でも書かせていただいているが、核兵器禁止条約というのは、核兵器のない理想に向けて、まさに出口にあたる大変重要な条約だと思う。ああいった条約を作り、そして法的拘束力を作ることによって、最後、理想にたどり着くんだと思う。ただ、その核兵器禁止条約には、核兵器国は今は1国も参加していない。これが厳しい現実だ。私は外務大臣を4年8か月務めている中で、核軍縮・不拡散の多くの会議に出席し、長年、議論に関わってきた経験の中で、やはり現実を変えるには、核を持っている国、核保有国が変わらなければ現実は変わらない。これが厳しい現実でもあるということも嫌というほど感じてきた。だからこの核兵器禁止条約は、理想に向けての出口にあたる重要な条約だと思うが、核兵器国を、この核兵器禁止条約に参加させてこそ、大きな目標にたどり着くんだと思っている。核兵器国は今、厳しい現実の中、それぞれの安全保障の考え方に基づき、それぞれの核についての考え方を持っている。そして、日本もその厳しい現実の中で、核抑止をはじめとする様々な枠組みの中に存在しているわけだが、この厳しい現実を、さっき言った理想へどう結びつけるかを考えなければいけないわけだ。そのために今、私も「ヒロシマ・アクションプラン」という提案をさせていただいたが、そういった枠組みに参加してくれる国を1国でも増やしていく。こうした努力が大事だと思っている。まずはG7から始め、G7以外にも、ロシア、中国、この核兵器国がある。そして現実は、そのさらに外側に核兵器を現実に持っている国が存在している。これが厳しい現実なので、こういった国々をいかに巻き込んでいけるか。これがこれからの取り組みの大変重要なポイントになると考えている。

Q.中長期的には核兵器禁止条約にオブザーバー参加という道は、日本にはあるかもしれないと考えないか。

A.これは今言ったロードマップをどうか描くか。その中で唯一の戦争被爆国として、核兵器国を多く巻き込むために、どこでどういう役割を果たすのかだと思う。まずは日本にとって唯一の同盟国であるアメリカとの信頼関係のもとに、核兵器のない世界を目指す、こういった方向性を確認するところから始めて、G7、さらには中ロを巻き込んで、そういった取り組みを進めていかなければならないと思う。日本が1国でこの核禁条約に関わる。これはひとつの考え方だと思うんだが、それで結局、核兵器国が動かなければ、現実は変わらない。日本としての具体的な役割を果たすためにはどうあるべきか。これを今後とも考えていきたい。