議会のFIFTYを目指す ジェンダー平等は票にならないと言われ

今回の統一地方選挙では、地方議会の女性当選者の割合が過去最高の約20%になり、東京・杉並区や武蔵野市では50%以上となった。
しかし、こうした議会はまだ少ないと、女性たちの割合を50%にしようと活動している団体がある。「FIFTYS PROJECT」だ。
女性議員になるための障壁とは…
(並木幸一)

女性が50%以上の地方議会

今回の統一地方選挙では、女性候補者の躍進が目立った。当選者に占める割合は、地方議会の選挙全体では過去最高の約20%。中でも東京の区議会議員選挙では約37%と、こちらも過去最高となった。

東京では、杉並区議会が48人の定員に対し24人の女性が当選して50%を超えたほか、武蔵野市議会も26人の定員に対し13人の女性が当選して50%になった。
ただ、全国を見ると女性が1人もいない議会も散見され、女性議員の割合が低いのが現状だ。

「必要な『普通の感覚』」

写真:演説する寺田陽香さん

杉並区議会議員選挙に立候補した寺田陽香さん(35歳)は保育士だった。
杉並区長の選挙を手伝ったことや、議会を傍聴したことが契機となって今回の選挙に立候補した。
3906票を獲得して、48人の定員中15番目での当選。「普通の感覚」が武器になったと振り返る。

(寺田陽香さん)
「特にコロナ禍を経て、保育や介護といったケアする人に注目が集りましたが、現状では、この分野に携わっているのは女性の方が多いと思います。選挙戦を通じてこうした分野で必要な『普通の感覚』を持っている地方議員への期待が高まってきたと感じました。
これまでの議員はどうしても男性が多く、その分野への予算も十分ついていないと思うので取り組んでいきたいです」

「ジェンダー不平等は当たり前ではない」

統一地方選挙を前にした1月下旬。都内で女性の立候補を支援するイベントが開かれた。
講師として招かれたのは、2022年6月の選挙で現職を破り、杉並区で初めての女性区長となった岸本聡子さんだ。

写真:講師の岸本聡子杉並区長

(岸本区長)
「今の極端なまでのジェンダー不平等を私たちは当たり前と思ってはいけない。それを地方議会で変えていこうというのは有効な戦略だと思うし、勇気を持ってどんどん言っていってほしい。選挙を通じて、地域を変えられるんじゃないかという希望があり、その希望を候補者や支援者が作れた時に人は動いていく」

「50%目指す“輪”」

このイベントを主催したのは「FIFTYS PROJECT」(フィフティーズ・プロジェクト)。
女性や性的マイノリティーの議員を全体の50%以上にすることを目指して、2022年夏に立ち上がった。

写真:代表の能條桃子さん

代表を務める能條桃子さん(25歳)は、これまでにもSNSのインスタグラムを使って、若者向けに政治の課題や選挙の争点をわかりやすく説明し、政治に関する発信を続けてきた。

(能條桃子さん)
「私が生きていく社会はずっと女性議員が少ないのかな、何か変えていけることがあるのではないかなと思いました。全国的に女性議員を増やすためにつながって支援する仕組みがなかなか無かったので“輪”ができるのは、すごく大事だと思っています」

プロジェクトは、ジェンダー平等や選択的夫婦別姓、同性婚の実現、男女の賃金格差の解消といった考え方を掲げ、賛同する候補者と一緒になって選挙戦を支援している。SNSやホームページで候補者を紹介したり、選挙戦では応援に駆けつけたりしているほか、候補者どうしの交流や選挙ボランティアの育成も行っている。
今回の統一地方選挙で支援した候補者は29人。
北海道から九州まで、地域もばらばらなら所属する政党も人それぞれだ。

ジェンダー平等「票に結びつかない」?

写真:演説する酒向萌実さん

半数が女性となった武蔵野市議会の選挙で当選した酒向萌実さん(29歳)もプロジェクトからの支援を受けた。
立候補の際や選挙戦では、女性ならではの悩みもあったと言う。

(酒向萌実さん)
「自分のライフステージを考えていつ挑戦するかは迷いました。選挙に出るとお金はかかるし、いつ子どもを産むのかも考えないといけない。次回までの4年間の間に子どもを産んでから出ようかなとかも考えました。
立候補して、ジェンダー平等を訴えても『票に結びつかないよ』という言葉を投げかけられたこともありましたが、生活者目線の訴えは響いたと思います」

「落選時のリスクが大きい」

写真:手を振る小野瑞季さん

同じく支援を受けた小野瑞季さん(30歳)は会社を休職して東京・世田谷区議会議員選挙に立候補して当選。
落選のリスクも感じたという。

(小野瑞季さん)
「仕事を辞めて選挙に出るとなると、落選した時のリスクがあまりにも大きいし、夫に立候補をブロックされるというケースも多くて、実際に断念した人もいました。でも、若い女性に票を入れたいという人が増えているという実感はありました」

「動けば広がる変化」

今回のプロジェクトで支援した29人の候補者のうち、当選したのは24人。東京の区議会や、全国の市議会への挑戦が多かった。
代表の能條さんは、全国的にはまだ女性の立候補者や当選者の割合は少なく、乗り越えなければならない壁があると言う。

写真:代表の能條桃子さん

(能條桃子さん)
「地域によってジェンダーに対する考え方の違いがあって、都市部よりも地方の選挙の方が難しかったと思います。当選しなかった人も含めて、動けばそこにちゃんと波紋が広がって変化が起きることはわかりました。すごくたくさんの壁があったので総括して、これからも活動していきたい」

政治部記者
並木 幸一
2011年入局。山口局から政治部。官邸、野党担当などを経て、現在厚生労働省を担当。