日本の選挙は「ごまかさない」カンボジア政治家が驚いた!

カンボジア視察団が選挙を視察

カンボジアの若手政治家たちが日本を訪れて統一地方選挙を視察。
「日本はごまかしは基本的にやらない」「期日前投票の場所がとても便利」
民主主義の現場を肌で感じたという参加者たちは、熱を帯びる日本の選挙に驚いた。
みずからの国の選挙制度の信頼性を高めるために生かしたいと語った。
(山田康博)

カンボジアから日本へ 選挙を視察

写真:カンボジアの視察団

カンボジアの与野党8党の若手政治家とシンクタンクの研究者、あわせて10人は、4月23日に投票が行われた日本の統一地方選挙にあわせて宮崎市を訪れ、市議会議員選挙の運動や投票の様子を視察した。

カンボジアでは、ことし7月に、5年に一度の総選挙を控えているが、前回の選挙では、最大野党が裁判所に解党を命じられて参加できないなど、欧米諸国からは選挙の正当性を疑問視する声が出ていた。
今回は、野党勢力も総選挙への参加を目指していて、日本の外務省は「対日理解促進交流プログラム」の一環で、カンボジアの政治家らを招いたのだ。

カンボジアと日本 選挙制度の違いは

投票日前日の22日に東京から宮崎市に入った一行は、市役所で、市の選挙管理委員会の担当者から日本の選挙制度の仕組みについて説明を受け、選挙運動の費用に上限規制があることなど、カンボジアの制度との違いを確認した。

写真:選挙公報を見る視察団

選挙公報も珍しそうに手に取って眺めていた。

市内の大型商業施設に設けられた期日前投票所も訪れ、多くの人が買い物のついでに投票している様子を写真に収めていたほか、パソコンに管理した情報と照合して本人確認をして投票用紙を手渡していることや、投票箱を毎日、鍵のかかった別の場所で厳重に保管していることなどの説明を受けた。

写真:期日前投票所を視察

今回の宮崎市議会議員選挙は、定員が40人に対し、61人が立候補する激戦となった。
選挙戦最終日には、実際に候補者が繁華街を練り歩いて支持を呼びかける様子や、街頭演説を間近で見て、熱気を感じていた。
そして、翌23日の投票日には、大学内に設けられた投票所を訪れたほか、夜には開票作業も見守った。

写真:開票を視察

市の体育館に設けられた開票所では開票作業を視察し、票を確認する職員の手元や票を選別する機械に強い興味を持ち、その様子を動画に収めていた。

日本の選挙に驚いた

与党・人民党から参加した、キム・フィノン氏は、日本の選挙の利便性や、エネルギッシュさに驚いたと言う。

写真:キム・フィノン氏

「期日前投票の場所がとても便利な場所で行われていることに驚いた。日本は信頼があるから、ごまかしは基本的にやらないというところが、日本の民主主義の成熟の度合いなのではないかと感じた。日本は比較的静かな国民性だと思っていたが、選挙戦は、非常にエネルギッシュであることにも驚いた」

また、野党・クメール国家統一党から参加し、総選挙への立候補を目指しているティップ・ティアウ氏は、今回の経験をカンボジアの選挙に生かしたいと言う。

写真:ティップ・ティアウ氏

「政党どうしが共存できないという考えが、カンボジアの民主主義の前進を遅くしているのではないかと思った。日本のように異なる考え方を持った政党が団結することも学ばなければならない。カンボジアに対して、選挙システムがより信頼性を増すように、引き続き支援を期待したい」

カンボジア 選挙の正当性に疑問視も

写真:フン・セン首相

カンボジアは、東南アジアに位置する、人口およそ1530万人の国で、30年以上にわたってフン・セン首相が政権を担っている。
内戦終結後の1993年以降、5年に一度、総選挙が行われ、現在は125議席すべてをフン・セン首相が率いる与党・人民党が確保。
前回・5年前の選挙では、最大野党の救国党が裁判所に解党を命じられて参加できず、欧米諸国からは、選挙の正当性を疑問視する声が相次いだほか、日本政府も当時の河野外務大臣が、カンボジア政府に対し「無効票が多く出るなど、さまざまな点で残念な結果になった」と懸念を伝えていた。

写真:ケム・ソカ氏

ことし7月に総選挙を控える中、3月には救国党の共同創設者、ケム・ソカ氏に国家反逆の罪で禁錮27年の有罪判決が言い渡されるなど、国際社会からは欧米を中心にカンボジアの民主主義が後退しているという懸念が強まっている。

日本政府の狙いは

外務省は、日本への理解を深めてもらうことを目的に、2015年度から「対日理解促進交流プログラム」という取り組みを行っていて、世界各国から若い人材を招いたり、日本の大学生を派遣したりしている。
これまでにおよそ3万2000人が参加し、海外から日本を訪れた参加者は、文化に触れているほか、裁判をはじめとする司法制度や、防災対策に取り組む地方自治体の現場などの視察も積極的に行っている。

写真:視察団

今回の統一地方選挙で、カンボジアから与野党双方の若手政治家を招いて、民主主義の根幹をなす選挙運動や投票の様子を実際に見てもらったのもこの一環だ。

ただ、外務省は、各国ごとに政治・選挙制度には歴史的な背景があり、民主主義に対する考え方も様々だとして、日本の仕組みを押しつける形ではなく、実際に訪れた人がどう感じるかが重要だとしている。
今回、カンボジアの与野党の関係者を日本に招くことで、カンボジアの民主主義の促進に一歩でもつなげたいという狙いがある。

また、日本政府は、カンボジアと中国の協力関係の強化にも警戒を強めている。
今回の訪問を通じて、同じアジアの日本の立場から、与野党の建設的な議論や対話を行う環境整備を促し、民主的な発展に貢献することも狙いと言える。

写真:武井外務副大臣

武井・外務副大臣は「カンボジアは壮絶な内戦があり、国民の中で大きな分断を経て、民主主義のプロセスを歩み続けている。ちょうど統一地方選挙が行われる時期であり、与野党を問わず、若い政治関係者に、日本の政治の実態を知ってもらいたい」と述べていました。

政治部記者
山田 康博
2012年入局。京都局初任。政治部では法務省や公明党の担当などを経験し、現在は自民党を担当。