“大泉ブランド”の影響力は 異例の注目 函館市長選挙

車の窓から大泉氏

停滞か、前進か
北海道の観光名所、港町の函館で行われた今回の市長選挙。
4期目を目指す現職の工藤寿樹(73)に挑んだ、新人の大泉潤(57)の訴えだ。
自民党と公明党函館総支部から推薦を得た工藤と、立憲民主党から支持を得た大泉との対決。
大泉はタレント大泉洋の実兄という話題性もあり、地方選挙としては異例の注目を集めたが、それ以上に熱戦となったカギは、函館を覆う「閉塞感」打破への期待だった。
(函館局 毛利春香)

“大泉ブランド”には頼らない?

函館市長選挙は投票率の低迷が続き、前回は50%を下回った。
しかし北海道内の自治体でも最悪のペースで進む人口減少への対策やコロナ後の地元経済の回復など、函館には地方都市ならではの課題が山積している。

函館市長選 工藤寿樹・大泉潤

3期12年の実績を強調する工藤に挑むのは、かつて工藤の秘書を務め、市の観光部長や保健福祉部長を担ってきた大泉だ。ともに市政を支えてきた市役所の元上司と部下の戦いに加え、大泉の名前が広く知られていることもあり、選挙への関心は以前よりも高まった。

【リンク】現職の実績 工藤vsタレント兄 大泉 上司と部下が対決 函館市長選挙

有権者に聞くと「大泉洋さんが函館に来てくれたら盛り上がる」と“大泉ブランド”がまちの活性化に与える影響を明確に期待する声もあった。

だが大泉本人は、弟の大泉洋について「自分の政治活動と弟のことは別なものだ」として、応援を頼むつもりはないと口にしていた。
そして、実際に選挙期間を通じて函館に来ることもなかった。

徐々に広がる支援の輪

集会の大泉氏

2022年7月、市長選に備え函館市役所を退職した大泉は、地元のイベントや町内会の集まり、団体や企業などを自分の足でくまなく回って市民の声を聞いてきた。このスタイルは選挙戦が始まっても変わらず、徐々に支援の輪が広がっていった。2023年3月、市内のホテルで開催した総決起集会には老若男女1000人近くが参加。伝説的ロックバンド、クイーンの「We Will Rock You」のテーマ曲にあわせて大泉が入場すると、盛大な拍手が沸き起こった。

大泉は「函館の都市のステータスを上げる」と何度も訴え、「停滞か前進か」と呼びかけた。終了後には大泉との握手を求める人たちの列が絶えなかった。

第一声をする大泉氏

そして満を持して迎えた告示日。大泉は雨に打たれながら、第一声でこう訴えた。
皆さん函館は変わらない。閉塞する時代は終わらない、そう思っていらっしゃいませんか。大丈夫です。リーダーがかわればまちは変わります。地域の誇りを取り戻し、市民の皆さまの命と暮らしを守るために、持てる力の全てをささげて参ります

新人を追う現職

相手候補が一歩先に行っています
出陣式で危機感をあらわにしたのは、工藤陣営だった。

工藤本人も地元企業でのあいさつで、こう口にした。
(大泉)本人はどうってことないんですけど、タレントの姿がちらついていて厳しい選挙だと受け止めている

演説する工藤氏

自分にとってこれが最後の戦いになる」と公言して臨んだ選挙。そして「大泉には任せられない」とも語っていた工藤。新人、そしてかつての部下にはどうしても負けられない戦いだ。

“新しい風”への期待

選挙戦で大泉が訴えたのは、JR函館駅への新幹線乗り入れに向けた調査やふるさと納税の寄付額年間100億円、所得制限のない第2子以降の保育料の無償化や新小学1年生への1人あたり10万円支給など、大胆とも言える政策が並ぶ。

SNS用の写真撮影をする大泉氏


大泉陣営は若者をはじめ幅広い世代に支持を広げようと、SNSを最大限に活用。遊説中もSNS専門のボランティアが同行し選挙運動の様子を細かく発信してきた。

陣営の活動にボランティアで集まる人の中には、SNSで連絡を取り合い、初めて会う人どうしもいたという。

選挙事務所には大泉に向けた応援メッセージがボードにはられ、支援者から寄せられた色とりどりの折り鶴が部屋いっぱいに飾られている。
街頭の遊説でも熱心に聞く人たちの姿が目立った。

聴衆と話す大泉氏

タレントの兄が候補だったとはいえ、なぜここまで選挙戦が熱を帯びたのか。

実際の有権者の考えは。
現職が何もしなかったわけではないが良くなったとも感じない

そして圧倒的に多かったのが、函館を覆う閉塞感を打破する“新しい風”への期待感だった。
コロナで観光地の函館は大打撃を受けたのに支援が足りていない
まちが廃れたと感じる。なんとかしてほしい

「期待感」と「重み」を感じた

大泉はみずからを「市民党」と位置づけ、幅広い層から支持を集めようと動いていた。陣営側も政党の色をつけたくないと、支持を得た立憲民主党の国会議員にも応援弁士の依頼をしなかったという。

総決起集会で多くの聴衆に囲まれる大泉氏

選挙戦終盤、多くの支援者が集まった総決起集会の後、「新人ながら知名度がある」と言われてきた中で、改めて大泉洋の存在について聞いた。

大泉洋という弟がいて、その兄である私が立候補したわけですから、弟の知名度のおかげでこれだけの方が来ていただいたのは本当に間違いないです。おかしな言い方かも知れませんが、いい弟を持ったなと思っています

選挙の手ごたえについては本当に初めてなので、実際分からないなと思うところですが、熱気というか期待感、それはものすごく感じて、むしろずっしり重いものを感じました」と話した。

新しいリーダーの誕生

戦いを制し、函館の新しいリーダーに選ばれたのは大泉だった。

函館をあきらめない多くの皆さんに党派を超えて支援していただいた結果、いまの勝利があると思う。市民や地域が分断されることはあってはならず、国籍や年齢、性別、政党を超えて誰もが幸せを感じられる社会を実現する誰一人置き去りにしない寄り添う行政に全力を尽くしていく」と決意を述べた。
(文中敬称略)

【リンク】函館市長選挙 開票状況

函館局記者
毛利 春香
2018年入局。初任地は秋田局。人生初の北海道で函館市政を中心に取材。