黒岩知事 楽観から暗転へ
万歳なき当選

黒岩知事「暗転」

心からお詫びを申し上げたい
統一地方選前半の神奈川県知事選挙は、現職の黒岩祐治の圧勝に終わった。
しかし当選が決まった瞬間も笑顔はなく、まず口にしたのは謝罪のことばだった。
政党や経済界の支持を受け、当初、陣営は楽勝ムードだったが、週刊誌の不倫報道がすべてを一変させた。
(古賀さくら)

笑顔も万歳もない当確

4月9日午後8時。投票が締め切られた直後に、黒岩の当選が確実になった。
ほかの候補と圧倒的な差があるとき、開票を待たずに「当選確実」が報じられる、いわゆる「8時当確」だ。

選挙事務所に集まった支持者に、拍手で迎えられた黒岩。その顔はこわばっていた。

頭を下げる黒岩知事

万歳をするかわりに頭を下げながら、まず口をついたのは謝罪のことばだった。

本来ならば万歳という形で、皆さんとともにお祝いするところですが、今回は万歳がないと、こういう異例の形になりました。
まずはこのことについて本当に心からお詫びを申し上げたい。私の10年以上前のプライベートなことで大変皆さんに不愉快な、不快な思いをさせてしまいました

盤石の選挙戦

神奈川県知事選挙は、4期目を目指す黒岩に、新人3人が挑む構図となった。

神奈川県知事選挙立候補者は4人


事実上は共産党推薦の候補と一騎打ちの構図。
前回・4年前の選挙で、3倍の得票を得て圧勝した相手だ。

黒岩は自民党と公明党、国民民主党のいずれも県組織、それに連合から推薦を受け、地元経済界も支援。3期12年の県政運営に大きな批判はなく、強いて言えば多選が問題視されるかどうか。盤石の態勢で臨んだ選挙だった。

有権者と笑顔で記念撮影する黒岩知事

新型コロナ対策で、国をリードしてきたと自負する黒岩。頻繁にテレビに出て知名度も上がり、行くさきざきで記念撮影を求められた。

前総理大臣の菅も応援に駆けつけ、グータッチには長い列ができた。誰もが圧勝を疑わず、支援者からは「勝ち負けではなく、勝ち方が問題だ」という声も上がっていた。

グータッチの黒岩知事

“不倫報道”で急変

ところが選挙戦の終盤。状況は一変した。
週刊文春が過去の不倫関係を報じたのだ。相手の女性とのメールのやりとりが詳細につづられ、陣営に衝撃が走った。

黒岩知事の苦い表情

週刊誌が発売された4月6日、黒岩は記者会見を開いて事実関係を認め、全面的に謝罪。選挙で審判を仰ぐと訴えた。

11年間にわたって不倫関係にあったのは事実。相手の女性を深く傷つけ、妻を裏切ることとなった。私の不徳のいたすところで大変申し訳ない。県民の皆さんにも大変な不快感を抱かせ、がっかりさせてしまった。深くお詫びしながら、真実の姿を見ていただいたうえで審判を仰ぎたい

黒岩はその後、街頭での活動を全て中止した。オンラインで支持者と意見交換するほかは、選挙運動を控えた。選挙戦最終日の8日も日中の大半を自宅で過ごし、午後7時から1時間選挙カーで近所を遊説しただけで終えた。

最終日にほとんど活動をしない、前代未聞の選挙戦だ。

結果は大勝…しかし無効票は大幅に増加

それでも、結果は大差での当選。
前回から票を減らしたが、次点の岸候補の3倍の得票だった。
不倫報道が結果にどの程度影響したのかは分からない。しかし、考えさせられる数字がある。

白票を含む無効票が21万2482票(6.91%)。
前回の8万8964票(2.93%)を大きく上回った。

無効票は増加

黒岩に投票したくないけれど、ほかの候補にも入れたくないという意思表示ではないか。

SNSには「選択肢がない」「白票を投じた」といった書き込みも。

「私は投票する時に情けなくて天を仰ぎそして黒岩知事に投票した」「うちの旦那も白票投票した」「投票したい人はいませんと記入しました。少なくとも私は黒岩を信任していません」「今回は黒岩知事に投票するかどうか悩みました。結局白票を投じました」

黒岩自身も、無効票について、「これはまさに私に対する批判票だったとしっかり受け止めていきたい」と話していた。県庁にも電話やメールで批判の声が200件以上寄せられているという。

4期目の立候補を促した自民党や経済界の一部からも厳しい見方が出ている。

無効票が増えたのは、一連の問題に対する批判票ということが多分にあるのではないか。本人が事実関係を認めているので、今後は大変厳しい道だろうが、しっかり仕事をして返してもらうしかない」(自民党関係者)
ことがことだけに、しばらくは動きにくいだろうが、県政運営への意欲は衰えていないので頑張ってもらうしかない」(横浜経済界関係者)

マイナスからの4期目

歩く黒岩知事

黒岩も当面、メディアへの露出を控える方針だという。自身がこれまで強みとしていた発信力や求心力の低下は免れない。

当選翌日の初登庁。黒岩は職員を前に改めて謝罪し、会見でこう述べた。

マイナスからのスタートとなるが、失われた信頼を取り戻すために全力をあげて県政運営にあたり、仕事でお返しをしていきたい

合わせて行われた県議会議員選挙で、県民の負託を受けた県議たちも黒岩の今後のかじ取りを注視している。

選挙では推薦し、応援もしたが、県議会はこれまでも是々非々でやってきており、そのスタンスはこれからも変わらない。県民目線で政策を進めるよう、しっかりチェックしていきたい」(自民党県連 梅沢裕之幹事長)

個人的なこととはいえ、県議の一人としても恥ずかしい気持ちだ。黒岩知事は県民へのメッセージの発信に力をいれてきたが、発信する本人がああいう報道をされてしまうと、県民もどう受け止めていいのか。今後の県政運営への影響について強い懸念がある」(立憲民主党県連 赤野孝之幹事長)

神奈川県庁

一方、これまでの黒岩の実績を評価する声も多い。
NHKの出口調査でも、黒岩県政を評価する人が7割を超えた。

新型コロナの医療提供体制の構築や、虐待が明らかになった県立の障害者施設の支援の改善など、県政には課題が山積している。今後急速に進む少子高齢化や、困窮者支援などの社会課題への取り組みも急務で、いずれも知事の強いリーダーシップが求められる。

仕事で成果を出し、求心力と発信力を取り戻せるのか。
黒岩県政は4期目が始まった瞬間から、正念場を迎えている。
(文中敬称略)

【リンク】神奈川県知事選挙 開票結果

横浜局 記者
古賀 さくら
2020年から県政担当として黒岩知事を取材。