学校給食を食べた
“国の母” が驚いた!

ある“サミット”のため、来日したアフリカの女性首相や大統領夫人が食べたのは、日本の子どもたちとの学校給食。
「国の母」として、子どもたちの食を守りたいと願うアフリカの女性リーダーの思いを聞き、日本の私たちに何ができるのか、考えてみた。
(森田あゆ美)

日本の学校給食を体験

教室で話す大統領夫人たち

11月末、さいたま市の小学校を訪れたのは、アフリカのウガンダやブルンジなど7か国の首相や大統領夫人といった女性リーダーたち。

学校給食

日本の学校給食を体験しようというのだ。
エプロンや三角巾を身につけ、子どもたちと一緒に配膳を行った。
この日のメニューは、地元で収穫されたコメや「まゆ玉汁」と呼ばれる郷土料理。
子どもたちと一緒に手を合わせて… と思いきや…

そこには、一足先に食べ始めた女性の姿が。

子どもたちがそろって「いただきます」をする様子を驚いたような表情で見つめていた。

給食を食べる大統領夫人

日本の学校給食は、国の基準に基づいて、安全で、子どもの発達段階に応じて必要な栄養をバランス良くとることができるよう、毎日の献立が作られている。
望ましい食習慣や、食への感謝、地域の伝統的な食文化を学ぶ「食育」の視点も大切にしている。

ウガンダのナッバンジャ首相に感想を尋ねると、こう語った。

ウガンダのナッバンジャ首相

「ウガンダでは先生はお昼に職員室でご飯を食べるが、教室で一緒に食事をしていることに驚いた。子どもたちが配膳をしているのもよかったし『いただきます』や『ごちそうさま』と言うのも印象的だった。よい取り組みを見せてもらったので、首相としてここで学んだことの多くを学校給食の施策作りに生かしたい」

アフリカの食料安定供給を話し合う

今回の日本の学校給食体験。
東京都内で12月初旬まで開かれた、「アジア太平洋アフリカ女性経済サミット」の関連イベントとして行われた。

アジア太平洋アフリカ女性経済サミットの記念撮影

“サミット”と言っても、アフリカ支援などにあたる日本の市民団体が、外務省と連携して初めて主催した“草の根”の会議だ。アフリカの女性リーダーたちを招き、日本の関係者や国会議員らとともにアフリカの食料の安定供給を話し合った。

会議で、食料事情の改善に向けた対策の必要性を訴えたのは西アフリカのガンビアの大統領夫人。
「新型コロナで食料価格やサプライチェーンに大きな影響が出て、ロシアとウクライナの紛争がさらに状態を悪化させている」

ブルンジのアンジェリーヌ大統領夫人

東アフリカ内陸部にあるブルンジのアンジェリーヌ大統領夫人は「学校で栄養のある食事を提供する目標があるが、飲み水が足りず、大雨で農地に被害も出ている。子どもたちのために食料生産を増やしていきたい」と、支援を求めた。

この会議を主催した団体の会長で元衆議院議員の中森ふくよ。

15年前に議員としてウガンダを訪れ、子どもたちが十分に食事をとることもできない厳しい現状を目の当たりにして以来、アフリカ支援をライフワークとしてきた。

2020年のバッタの大量発生や新型コロナの感染拡大、ウクライナ情勢などを背景に、アフリカの食料を取り巻く環境は厳しさを増しているという。

インタビューに応じる中森ふくよ元衆議院議員

「本当に日本と違い、こんなに不公平があっていいのかという思いをずっと持ち続けていた。食料事情が悪くても、すべての子どもに生きる権利や学ぶ権利がある。なんとかしなければいけないと思った」

ブルンジの現状は

会議で、子どもたちのために食料事情を改善したいと発言していた、ブルンジのアンジェリーヌ大統領夫人に詳しく国の事情を聞いてみた。
アフリカ中部のブルンジは、人口およそ1200万人。美しい山や丘に囲まれた国だという。

ブルンジのアンジェリーヌ大統領夫人

「ブルンジは大変気候も温暖だ。食料もあるが、それでも国民全員が飲み水や食料にアクセスできるわけではない」

アンジェリーヌ夫人は2020年6月に夫が大統領に就任した直後から、子どもたちのために動き出した。
「5歳以下の子どもの栄養失調ゼロ」を目指すキャンペーンを実施しているという。
アンジェリーヌ夫人のオフィスによると、栄養失調の子どもの割合は、この2年間で6%→4%にまで減ったのだそうだ。

ブルンジで給食を食べるアンジェリーヌ大統領夫人

さらに、学校給食も導入した。
「ファーストレディーになってからすぐ、学校給食の導入に率先して取り組んだ。私は『国の母』であり、また6人の子どもを持つ母でもあるからだ。ブルンジの子どもすべてが健康であることを願っている」(アンジェリーヌ夫人)

ただ、現在、ブルンジで学校給食を導入できた学校は全体の25%ほどにとどまっているという。
安全な飲料水をいかに確保するかなど、給食をさらに普及させるためには課題も多く、日本の給食のノウハウも参考にするそうだ。

安全な飲み水

安全な飲み水については、今回の会議の関連行事でも、検討された。
日本の企業が作った浄水システムの実演だ。
近くの池からくんできたという水を入れると、特殊なフィルターを通すことで安全な飲み水に変わった。

浄水システム

中森が代表して試飲し「おいしい」と感想を述べた。
固唾をのんで見守っていたアフリカの女性リーダーたちからは「集落に持って行って使えるのか」などといった質問が相次いだ。

日本に求められることは

4日間の日程を終えた中森はこう振り返った。

「サミットを通して、自分の国のことだけを考えるのではなく、国境を超えて助け合うことを確認できた。日本で見たことを食料環境の改善につなげてもらえると思う」

アフリカの子どもたちの食を守りたいと、“草の根”の支援活動を続ける中森たち。

一方で、国際政治・経済の観点からは、アフリカは豊富な資源と人口増加を背景に高い経済成長を続ける「最後のフロンティア」でもある。

近年、中国が巨額の融資などでアフリカに対する影響力を強めている。
ロシアも軍事・経済面でアフリカとの関係強化に乗り出している。アフリカでは、ロシアによるウクライナ侵攻について中立な立場をとる国々が大勢だ。

こうした中、岸田総理大臣はことし8月、日本政府主導の国際会議、TICAD=アフリカ開発会議で、アフリカを「共に成長するパートナー」と位置づけて今後3年間で官民あわせて総額300億ドル規模の資金を投入し、投資や人材育成を進める方針を打ち出した。
激しい国際競争の中で、アフリカでの日本の存在感を今後どこまで高めていけるかは不透明だが、国レベルの大きな額の資金支援だけではなく、給食を通じた一人一人の子どもたちの食を守るアプローチも大切だと感じた。
(文中一部敬称略)

政治部記者
森田 あゆ美
2004年入局。佐賀局、神戸局などを経て政治部。自民党や外務省担当を経て、現在は2回目の野党クラブ。