村長失職 職員間でパワハラ問題 小さな村の不協和音

富山県舟橋村で、2回にわたり村長に対する不信任決議が可決され、村長が失職するという異例の事態になっている。
村長と村議会の対立の発端は村職員の3分の1が被害を受けたパワハラ問題。
日本一小さな村で起きている不協和音とは…
(山澤実央)

村長が失職 2回の不信任決議

「悔しさと悲しさが両方ある」

10月26日に開かれた臨時村議会。古越邦男村長に対する2回目の不信任決議が可決され、古越の失職が決まった。
古越は記者団に対し、無念さをにじませた。

「村を再生すると伝えているにもかかわらず、それが伝わらなかったのは悔しいし、なぜ理解してもらえないのかというところがある」

日本一小さい奇跡の村

富山県舟橋村は、面積が3.47平方キロメートル。福岡空港とほぼ同じ面積の「日本一小さな村」だ。
と言っても、過疎化が進む山あいの集落とは全く異なる。富山市に隣接する利便性と地価の安さから、ベッドタウンとして人気が高く、人口は平成元年の約1500人から、現在は約3200人に倍増。
「奇跡の村」とも呼ばれている。

古越は、1977年に村役場に就職し、12年間副村長を務めたあと、おととし・2020年12月の村長選挙に立候補し、初当選を果たした。

ふだんはニュースに登場することもめったにない静かな村で、村長と議会の対立が表面化したのは9月のことだ。村議会が、古越に対し1回目の不信任決議を全会一致で可決。

これに対抗して、古越は村議会の解散に踏み切った。
そして行われた村議会議員選挙では無投票で当選者が決まり、定員7のうち6人を「反村長派」が占めた。
そして、村議会は再び不信任決議を全会一致で可決し、地方自治法の規定により、古越は失職することになったのだ。

職員の3分の1がパワハラ被害

村長と村議会の対立の発端は役場内のパワハラ問題だった。
舟橋村は「日本一小さな村」だけあって役場も小所帯。職員は33人で課は2つだけ。人事異動もほとんどない。
そんな役場では、職員の間でパワハラ行為が繰り返され、職員の約3分の1にあたる10人が、パワハラ被害に遭っていたことが明らかになった。

村が設置した弁護士などによる第三者委員会は、9月にパワハラ問題に関する報告書を公表。
「複数の職員が管理監督者にパワハラ被害を相談し、対応を訴えているが、その場限りの不誠実で安直な対応に終始し、抜本的な対策がとられなかったことは明らかである」などと、役場の体質を厳しく批判した。

実際に被害に遭った職員は、役場内には被害者に声をかける人もおらず、パワハラの解決に向け、声を上げる雰囲気は全くなかったと明かす。

「仕事のメールに対しても、『うるせえ』とか『調子乗ってんじゃねぇぞ』と返事が来るので、その言葉を見ただけで、しばらく仕事が手につかなくなるような状態で、小学校のいじめみたいでした。でも、どんな人に相談しても『なるべく目立たんように』としか言われなくて波風を立てないようにという風潮でした。私は、人のためになりたいと思って公務員の道を選んだのに、仕事をしていくのが怖くなりました」

さらに別の職員は、役場内では、村の出身者か転入者か、さらに村外から通勤する人かの3つの派閥に分かれ、いがみ合っていたと話す。

役場内でも声が大きいのは「元村(もとむら)」と呼ばれる村出身者で、村外から通勤する人に対しては「地域のイベントにも顔を出さないのか」「いつ引っ越してくるのか」などの言葉を浴びせることもあったという。

村議会は、こうしたパワハラ問題を放置した責任は大きいとして、長年、村政に携わってきた古越を批判。
これに対し、古越は、トップとしてパワハラ問題への責任は感じているとしつつ「議会は何ら対応を示してきておらず、議会も責任を果たすべきだ」と反論し、両者の対立は決定的となった。

村長と議会の不協和音

この問題をきっかけに役場や議会の取材を進めると、パワハラ問題が発覚する以前から、古越と村議会の間では、もはや修復不可能なまでに対立が深まっていた実態が見えてきた。

古越は、おととしの村長選挙に立候補した際は、多方面の支持を取り付け、当時の現職を立候補断念に追い込む形で無投票での当選を決めた。当選が決まった際には、選挙事務所に4人の村議も駆けつけた。

当時、古越を支援した村議の古川元規は、現状をこう嘆く。

「前の村長時代は、やはり村政が硬直していたので、古越さんを推して新しく生まれ変わってほしいという思いだった。でも、だんだんみんなが見放していった。後援会も、どんどん離れていって、俺は、怒りというより、呆れるし、悲しいなあって思う」

古越から距離を置くきっかけになったと古川が指摘するのが、副村長制をめぐる議論だ。
村では、議会側が主導する形で2019年に副村長のポストを廃止。目的は、年間1000万円以上の人件費の削減だ。
これに対し、副村長を務めた経験がある古越は、就任から1年後、副村長制を復活させるための議案を議会に提出。議会は紛糾し、結局、議案は否決された。

さらに、副村長制復活の議案が否決されてから、わずか1か月後の2022年1月、古越は、今度は、特別職の「政策参与」のポストを、議会の議決を通さず新設した。
副村長制をめぐる対応で、村長への不信感を募らせていた議会はこれに反発。
議会の中では「村長は議会側に根回しをしない」、「独善的で議会の言うことを聞かない」「役場に登庁せずに、人に仕事を押しつけるつもりなのか」などという不満の声が急速に広がっていった。

反省の一方で怒りも

こうした議会との関係をどう考えてきたのか。
失職した翌日、自宅で取材に応じた古越に質問をぶつけた。
すると、古越は、就任後、議会との関係が疎遠になっていったことに反省する部分はあるとした上で、議会に対する怒りをあらわにした。

「もう少し具体的な話を議会にしていればよかったかなとは思う。しかし、私が副村長だった当時、大雨が降った際に村長と連絡がとれず、私が避難を求めた経験があった。だからこそ、副村長制の必要性を強く感じていたのだが、議会は村民の命をどう思っているのか」

さらに、古越は、関係修復の必要性を感じたころには、すでに冷静な対話ができない状況になっていたと振り返る。

「村議は全員顔を知っている仲だったので、理解していただけるものだという思いがこちらにはあったが、気がついたときにはすでに議会の思いが固かった。関係修復に向けて、なかなか話がうまくいかなかった」

「小さな村」であるがゆえ

村長と議会の関係悪化が食い止められないまま、現在に至る舟橋村。その背後には「小さな村」だからこその事情があったことも浮かび上がってきた。

村議のひとりは「議員の数が少ないからこそ、議会に占める1人の存在が大きく、村長と1人の議員の関係が悪化するとドミノ倒しのように、ほかの議員との関係にも影響する」と指摘する。

舟橋村のように小さな自治体では、利害の調整が比較的容易だという傾向がある一方、首長と議員の人間関係がいったんもつれると、行政全体に大きな影響を及ぼしうると、地方自治に詳しい専修大学法学部教授の白藤博行は分析する。

「議会は『村長が言うことを聞かない』と言い、村長は『議会が自分のことを認めてくれない』と言っている背景には人的なもつれによる対話の欠如がある。小さい村だからこそ、人的な関係でもつれてしまい、そこから抜け出せずに、やむを得ず地方自治法の仕組みを使って不信任決議案の提出などという流れになっている印象を受ける。小さな村の場合は、誰かひとりの支配が強く、その人的支配の部分が崩れて、全体が一気に崩れたというパターンなのではないか」

村民は無関心?

村の現状をどう考えているのか?
村民に話を聞いてみると「あきれる」とか「悲しい」などという声と同時に、「問題自体を知らない」とか「関心が無い」という声も聞かれた。

19歳女性
「舟橋村の名前がこういうことで知られるのは悲しいが、私たちもおおごとになるまで知らなかった。もう少し政治に興味を持つべきだったと改めて思った」

30代女性
「当事者ではないのでわかりませんが、大人なのであまり感情的にならずに話し合ってほしい。小さい村なのでやるべきことをやってもらえたらと思う」

80代女性
「あんまり興味がないっていうか関心が無かった。皆、あまり興味無いんじゃないですか。どんどん新しい方も引っ越してきていますからね」

前出の教授の白藤は懸念を示す。
「舟橋村に限っては、転入者が多いという特有のケースも考えられる。つまり、全人口の半分以上が転入者ということになると、『私たちの代表の村長や議員を選ぶ』という意識が薄くなっているのではないか。村長や議員が自分たちのためにちゃんと動いてくれているのか、住民は自分たちでしっかり考えなければならない。また、村長と議会は住民がいるということを再認識した上で、住民の声を聞く場を増やしていく必要がある」

村長選挙へ

村長の失職を受け、村長選挙が11月27日に行われる。

古越は体調面での不安や後援会からの反対意見などを踏まえ、次の村長選挙へ立候補しないことを明らかにした。
富山青年会議所の元理事長、渡辺光が立候補する考えを明らかにしている。
村議会の中では、渡辺を推す声がある一方で、みずから立候補に意欲を見せる議員もいて、村長選の行方は見通せない。

「日本一小さな村」で深まった対立は解消に向かうのか。村長、議会、そして住民が対話し、協力し合える村政は実現するのか。今後も取材を続けたい。
(文中敬称略)

富山局記者
山澤 実央
2019年入局。初任地が富山局。警察キャップや高岡支局などを経て、現在は県政と選挙事務局を担当。