女性が増えちゃダメですか

9.7%」

先の衆議院選挙で当選した465人の議員のうち、女性が占める割合だ。

辛うじて10%を超えていた前回4年前を下回り、再びヒトケタ台に逆戻りした。

「女性議員を増やそう」
そんな掛け声はあるにはあるが、どこか虚しく聞こえる。

なぜ現状が変わらないのか。

当選に届かなかった女性候補者へのインタビューや、選挙結果の分析から課題を探った。
(安田早織、政木みき)

増えなかった女性候補者

とはいえ、今回女性の当選者の割合が低くなるのは想定の範囲内だった。
そもそも女性の候補者が増えていなかったからだ。

今回の衆議院選挙で、小選挙区と比例代表に立候補した1051人のうち女性は186人。
割合にして17.7%。4年前の前回の選挙のときとほぼ変わっていない。

政治分野への女性の進出をめぐっては、3年前に国政選挙などで男女の候補者の数ができる限り「均等」になることを目指す法律が施行された。
その後、初めての衆議院選挙だったが、法律の効果は少なくとも今回は見えなかった。

意見分かれるクオータ制

しかも、政治を志す候補者の側に、積極的に事態を打開しようとする機運があるのかも、よくわからなかった。

女性議員が増えない課題の解決策として、たびたび出てくる「クオータ制」。
候補者や議席の一定割合を女性にあらかじめ割り当て、制度によって女性議員の増加を後押しする制度だ。ヨーロッパなどで導入が進んでいる。

これを日本で導入することをどう思うか。
NHKは選挙前、小選挙区のすべての候補者に聞いてみた。
しかし、今回過半数の議席を獲得した自民党の候補者の回答をみると、半数近くの48%が「どちらかといえば」を含めて「反対」。
「賛成」と答えたのは「どちらかといえば」を含めても27%だった。
内閣府は、国政選挙における女性候補者の割合を「令和7年までに35%以上」とするという数値目標も打ち出しているが、新たな展開が起きる気配は感じられない。

女性・新人候補を待ち受ける試練

「私も、政治の世界に挑戦するにあたって、女性としての人生設計をどうするか悩んだ。将来子どもも欲しいけれど、どうなるんだろうという思いもある。自分のように他の人も立候補できるかと言えばそうではない」

候補者になることすら難しい、女性の政治参加をめぐる変わらない現実。
政治家を目指すうえでの不安を語ったのは、今回の選挙に岐阜5区から立憲民主党の新人として立候補した今井瑠々さん、25歳だ。


高校生のとき、東日本大震災の被災地を支援する活動に参加したことがきっかけで、地元選出の政治家になり、地域の人を支えたいと考えるようになった。
政治の経験も、地盤も、後ろ盾となる組織もないが、今回の選挙に最年少候補として挑んだ。
結果は落選だった。

今井さんの選挙区では、自民党の古屋圭司さんが11回目の当選を果たした。
国家公安委員長などを歴任したベテランだ。
選挙を経て、今井さんが改めて指摘したのは、多くの女性にとっては選挙に挑戦すること自体が簡単ではないということだった。

「やっぱり過酷ですよね。立候補を決めてから半年くらいの間、朝6時から2時間ぐらい駅に立って、そのあとはずっと外で手を振る。炎天下でも土砂降りの中でもやって、分刻みのスケジュールで、昼食も食べられないぐらい忙しい。都会では違うかもしれないけれど、地方はやっぱり、『頑張ってるね』というのが一番の評価軸になる」
確かに、1人でも多くの支持を得るためとは言え、朝から夜まで休み無く活動し続けることは、体力的な厳しさに加え、例えば子育て中の女性にとって相当難しいのではないか。

そして、男女問わず、新人の候補者が新たに政治の世界に入るのは狭き門だ。今回の465人の当選者のうち、新人が占める割合はおよそ20%だった。
当選した女性議員45人の内訳を見ても、新人は10人だけだ。

女性候補者に対する世の中の期待は

今井さんはインタビューの中で、こんな話もした。
「選挙運動の中で容姿のことはよく言われた。私は、あまり華美じゃないというか、地味で、化粧も薄かったり、髪の毛もぼさぼさだったりした。周囲からは、もっと若々しくしなよとか、もっと女性受けするようなおしゃれな格好をしなよ、などいろいろ言われた。でも、私は、別に見た目ではなく、中身を見てもらいたいと思っていた」

「弱い立場の人の声とか、お母さんたちの声とか。これまで拾い上げられてこなかった声を政治の世界に届けたい」とも話した今井さん。
議員になりたいという意欲は、今井さんが、声を届けたいと語った有権者にどれほど受け入れられていたのか。

岐阜5区でNHKが行った当日出口調査によると、今井さんは、10代20代の若い人からは一定の支持を得ていた。
しかし、男女別で見ると、男性の46%から支持を得ていた一方、女性からの支持は36%にとどまった。
候補者を選ぶ理由が性別だけでないのは当然のことだが、この男女間の支持の格差は興味深い。

女性の政治家が増えるメリットとして、男性には気づきにくい視点での議論や政策が期待できることが挙げられる。
今後も国政への挑戦を続けるという今井さんにとっては、女性の立場を代弁する候補者として、いかに同性への支持を広げられるかが課題と言えそうだ。

高まらない世論

女性の議員の少なさを世論はどう感じているのだろうか。

先週末、NHKが実施した世論調査で、今回の当選者に女性が占める割合が9.7%だったことをどう思うか聞いたところ、42%が「低すぎる」と答えた一方、「男女の割合は問題ではない」と答えた人が46%と半数近くを占めた。
意外だったのは女性と男性の意識に違いがみられなかったことだ。

女性だから、女性議員が少ない、増やすべきだと思っているのではないかという、予想はあっさりと覆された。
より多様性を求める意識が強いのではと思っていた40代以下の若い人では、「男女の割合は問題ではない」と答えた人が6割とむしろ多かった。

女性の割合が「低すぎる」と課題に感じている人がいる一方で、全体で見ると女性議員だから増えてほしいという人が多いというわけではなさそうだ。

まずは、政治が動いて

有権者のうち女性が占める割合は52%。有権者の半分以上が女性なのに、国民の代表として選ばれる女性の衆議院議員は1割。
これはあまりに低い数値に思える。
一方で、政府、政党、そして社会全体でもあまり危機感を持たれていない、という実態も分析を通して見えてきた。

内閣府の男女共同参画局の資料によると、国家公務員の上級管理職に占める女性の割合は4.2%、上場企業の役員に占める女性の割合は6.2%・・・
こうした数字は私たちの周りにあふれている。決して国会だけが特殊なのではない。

女性は、男性と比べると体力的に劣ることがあるかも知れない、出産や子育てといった特有の事情も出てくる。
つまり、これまで男性が中心に作ってきた組織の文化や、やり方を踏襲し、そこに女性の参画を促そうというのは無理が生じて当然だ。
まずは政治が、率先して、女性に限らず誰もが活躍できる社会の道筋を示してほしい。

多様な女性議員の出現はそこから、生まれてくるのではないだろうか。

政治部記者
安田 早織
2011年入局。富山、名古屋局を経て政治部へ。産休・育休を取得し、衆院選では選挙事務局。今は厚労省クラブ担当
選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在 政治意識調査を担当。