立民と国民 連合を悩ます“不仲”

「一緒になって欲しい」
強く願い、双方に促しても、いっこうにその気配はない。
むしろ溝は広がるばかり。
そんな深い悩みに陥っているのが、日本最大の労働組合の中央組織「連合」だ。
悩みの種となっているのは、支援を続ける立憲民主党と国民民主党の“不仲”。
衆議院選挙が迫る中、両党の距離を縮めることができるのか。
悩める連合トップを直撃した。
(喜久山顕悟、米津絵美)

もう1つの選択肢を

「衆議院選挙が秋までに迫っているからね。個々には考え方の違いはあるだろうけど1つに収れんして、もう1つの政権の選択肢を示さないと」

インタビューに、こう答えた連合会長の神津里季生。


よどみない口調で、少し語気を強めながら述べることばには、働く人の立場に立った政治を実現するために、自公政権に代わりうる野党勢力の結集が必要だという強い信念を感じた。

溝は広がる一方

そんな神津の思いをよそに、去年9月に新党として再出発した立憲民主党と国民民主党の溝は、少しずつ、だが着実に深まってきている。

象徴は衆議院憲法審査会で審議されてきた国民投票法の改正案への対応だ。
速やかな審議と採決を求める与党や日本維新の会に対して、旧立憲民主党と旧国民民主党は、ともに反対していた。しかし、いまの国民民主党は「審議拒否はあるべき姿ではない」として採決に賛同する姿勢に転換したのだ。この足並みの乱れも引き金の1つとなり、最終的に、立憲民主党も採決に応じることとなった。
背景にあるのは両党の憲法改正に対するスタンスの違いだ。

立憲民主党は、憲法改正の議論そのものを否定していないものの、いま急いで改正すべき論点はないとして、消極的なのが実態だ。
一方の国民民主党は、「積極的な憲法論議」を鮮明にし、デジタル時代を見据えたデータ基本権など、新たな改憲項目の議論を呼びかけている。

さらに、新型コロナウイルス対策でも違いが出た。
2月に成立した改正特別措置法。休業要請などに応じなかった事業者らに罰則を科すことなどを盛り込んだ改正だ。
立憲民主党は、自民党との修正協議を経て政府案の罰則の軽減を図ることで合意したのを受けて、改正に賛成した。
一方、国民民主党は、見直しは不十分だと主張し、立憲民主党に歩調をあわせることはなかった。

ポイント・オブ・ノーリターン?

政党のスタンスが最も問われる予算でも対応が割れた。

今年度予算の審議。立憲民主党、国民民主党ともに、政府案では「新型コロナで苦しむ人への支援が足りない」という反対の立場では共通していた。しかし、それぞれ支援のあり方への考えが一致せず、別々に予算の組み替え動議を提出したうえに、互いの動議に反対し合うてんまつとなった。


このほか、75歳以上の医療費の窓口負担を、年収200万円以上の人を対象に2割に引き上げる法律の改正案では「コロナ禍で高齢者の負担を増やせば、過度な受診控えを招く」として立憲民主党が反対したのに対し、国民民主党は「高齢化が進む中、現役世代の負担抑制のためにやむをえない」と賛成した。

また原発の立地自治体に対する公共事業の補助金の割合を定めた特別措置法の改正案でも「原発ゼロ社会の実現」を掲げる立憲民主党が反対する一方、「ただちに原発をなくすのは非現実的だ」と主張する国民民主党は賛成に回った。

今国会。立憲民主党と国民民主党との間で賛否が分かれた法案は、これまで衆議院で採決された48本の政府提出法案のうち、14本に上っている。

国民民主党の議員は、こう語った。
「ことごとく対応が分かれすぎだ。『ポイント・オブ・ノーリターン』。もう後には戻れないところまで来ているかもしれない」

コロナ対応をきっかけに

衆議院選挙が迫る中、このまま放っておけない。神津は手を打った。

4月9日朝7時。
国会近くのホテル。


神津は、立憲民主党代表、枝野幸男と、国民民主党代表、玉木雄一郎と向き合った。
一緒に会談するのは去年9月にそれぞれ新党になってからの7か月で初めてのことだった。

会談の名目は、コロナ対応をめぐる意見交換。政府の失業対策は不十分だという認識で一致し、総合的な雇用対策を検討していくことで合意した。

会談後、3人はそろって報道陣の取材に応じた。呼びかけ人として中心にいた神津は、こう語った。
「政府の施策は有効性がなく、働く人にセーフティーネットを張る仕組みが必要だ。両党の代表にも『具体化していこう』という力強い見解をいただいた」

衆院選へ政策協議を

神津ら連合側が、何度も両党に呼びかけて、ようやくこぎつけた3者会談。

神津は、そのねらいをこう話す。
「とにかく、この新型コロナによるひどい状況の中で、厳しい雇用をなんとかしないといけないという強い思いがあった。その点で3者で取り組みを進めようと。それをきっかけに前広な議論を進め、共通政策を作っていけないかという思いだ」

衆議院選挙に向けた共通政策ということか。
こう尋ねると、いまの両党の溝を意識してか、慎重に言葉を選びながらこう答えた。

「結果としてだね…。結果として、この政策協議が、衆議院選挙で訴える政策の重要な一部をなす可能性はあるとは思う」

連合幹部の1人は、神津の胸の内をこう明かした。
「新型コロナ対策は、あくまで入り口だ。党首会談を定期的に重ね、衆議院選挙に向けてさらに幅広い政策のすり合わせを行いたい。そして、その先にある来年の参議院選挙を見据え、さらなる『大きなかたまり』をつくることも念頭に両党の距離を縮めたい思いがあるのではないか」

忘れられない失敗

「大きなかたまり」
この言葉は、神津が繰り返してきたものだ。

連合会長への就任は、6年前の2015年10月。
当時は、安倍政権。対する野党は、民主党や維新の党などが分立していた。


就任の記者会見でも、こう指摘した。
「いまの『一強多弱』の政治状況は非常に不正常で、民主党が中心になり、受け皿になることが大事だ」

与党に対じずる政治勢力の結集が、神津の大きなミッションの1つだった。
就任翌年の2016年。民主党と維新の党の合流により、150人規模の野党第1党、民進党が誕生したことで、ミッションは結実したかに見えた。

しかし、このかたまりは、1年余りであっさり壊れた。
2017年の衆議院選挙の直前。
東京都知事の小池百合子が設立した、希望の党への合流をめぐって分裂したのだ。
連合の支援も政党や議員ごとに分散。希望の党も失速し、選挙は野党の惨敗に終わった。

その後、野党の離合集散の歴史は繰り返され、おととしの参議院選挙でも、再び与党に大勝を許した。

一連の出来事を神津はこう振り返る。
「残念ながら何も政治構造は変わらず、もっとひどい状況になってしまった。立憲民主党と国民民主党は、あの出来事をまだ総括できていないと思うね。有権者の支持を、どう確実に議席に結びつけていくか、政治の世界に身を置く者は、あのときに得たいろいろな教訓を、次に結びつけていかなければならない」

政策本位で足並みを

神津が、再び「大きなかたまり」づくりに挑んだのが、去年の旧立憲民主党と旧国民民主党の合流だった。
結果は150人を超えるいまの立憲民主党が誕生し、一定のかたまりはできたものの、政策面で賛同できないと主張した玉木らがいまの国民民主党も結党。完全な合流には至らなかった。

神津は、くやしそうに、こう口にした。
「結局1つになりきれず、問題は解消しきれなかった。それぞれ党名も変わらないし、代表もそのままだから、多くの有権者からすると『いろいろ騒いでいたけど、何も変わらなかったじゃないか』という思いを持たれたと思う。非常に残念なことだ。現状では、衆議院選挙で有権者から信任を得るのは簡単なことではない」

そして政策の共有から再びやり直していくと強調した。
「合流を促していくというよりは、私たちは、あくまで政策本位だ。政策や理念が共有できなければ政策協定すら結べないから。まずは愚直に新型コロナを乗り越えていくための協議で物の考え方などを共有してもらいたい」

3勝で弾みも…

なんとかもう1度、歩みを合わせてもらいたい。
そう願う神津にとって、最近、明るい材料があった。

4月25日に投票が行われた衆参3つの国政選挙で、立憲民主党が主導した野党の統一候補が全勝したのだ。

「候補者の一本化の成果だ」

高揚感が漂った。

立憲民主党の枝野は、さっそく国民民主党の玉木と党首会談を行い、衆議院選挙に向けて、できるだけ多くの選挙区で候補者の一本化の調整を行いたいと呼びかけた。

両党の溝が埋まっていくかにも思われたが、そう簡単には進まない。

枝野「原則、候補者の一本化が望ましく、調整したいと呼びかけた。玉木代表とは、認識を共有できたと思っている」

玉木「協力の必要性もわかるが、いかなる政権を作り、どんな政策を実現するのかという肝のところを一致しておく必要がある」

会談後の代表2人のことばは、かみ合っていなかった。

すれ違いの要因は共産党?

翌日の玉木の記者会見で、すれ違いの訳が鮮明になった。

立憲民主党との選挙協力へのスタンスを問われた玉木は、こう言い切った。
「共産党が入る形の政権なら、われわれは入れない。枝野氏には、どこかのタイミングで明らかにしてほしい」

国民民主党は、日米同盟を中心とした外交のあり方の見直しを主張する共産党とは、目指す国家像が全く異なるとして、連携はできないとしている。
共産党とも一定の選挙協力を進める意向の枝野に、対応の見直しを迫った形だ。

対する枝野。この玉木の発言を聞くと、不快な表情で周囲にこう語ったという。

「共産党も含めて選挙協力の枠組みに乗らないとダメだということは、玉木氏も本音では分かってるはずだ。この話に乗ってこなければ、共産党に候補者を立てられて困るのは向こうだからね」

共産党については、連合も、過去の労働運動で対立してきた経緯から「応援・連携することはありえない」としている。

両党の協力を促すために、枝野に共産党との関係を見直すよう求める考えはないのか、神津に尋ねた。

「『連合の地方組織が全力を傾注できるようにしてください』ということは伝えている。立憲民主党も少なからず意識してくれているとは思うが…。ただ、政治の世界はいろいろな工夫があるから。われわれが、さらにどうこう言うのは、また別の次元だ」

それでも「大きなかたまり」を

ここまで溝が広がると、もうこの2党の深い連携は、なかなか厳しいのではないか。
立憲民主党、国民民主党の動きを追っていると、取材者としてもそう思わされる場面が確実に増えた。

神津にぶつけると、こう反論した。

「小さな違いを目立たせるのではなく、政権与党とは違う大きな枠組みを有権者に理解してもらうよう努めて欲しい。どうしても乗り越えられないものが本当にどこまであるのか。あるとしたら徹底的に話し合って乗り越えてもらいたい」

そしてこう語った。
「立憲民主党と国民民主党には、なお、できるかぎりの『大きなかたまり』を目指して欲しいと考えている。そのためには、お膳立てでも場の設定でも、できることなら何でも、どんなことでも喜んで対応し、応援を続けていきたい」

迫る任期 事態は動くか

なかなか足並みがそろわない野党の現状は、連合内でも不協和音を生んでいる


「傘下の労働組合ごとに、立憲民主党と国民民主党それぞれの色がつき、そもそも連合内部で割れていることが問題だ」
「共産党との距離感などについて、立憲民主党にはっきり求めていかないと連合は崩壊する。よりよい日本を目指すという大義を忘れているように見える」

連合会長として、3期6年の任期を務めてきた神津。
神津は明言を避けているが、連合内では、今期限りのことし秋で勇退するという見方が大勢だ。

選挙で最大の成果を出すため、将来的にはなんとか支援する政党を1つにしたい。
取材からは、幾度の失敗を経ても、それがなお、連合の、そして神津の切なる願いであり続けることが伝わってきた。

神津の悩める日に終わりは来るのか。
道のりは遠いように見えるが、政治は理屈ではないとも言われる。大きく動く日が来るかもしれない。
その時に備え、キーパーソンの動きと、その裏にある心理を、これからもつぶさに追いかけていく。
(文中敬称略)

政治部記者
喜久山 顕悟
2004年入局。大阪局、福島局を経て、政治部。現在は野党クラブで連合などを担当。
政治部記者
米津 絵美
2013年入局。長野局を経て、政治部。現在は野党クラブで立憲民主党、国民民主党などを担当。