議員さん、
これがあなたの成績だ

自民党が、所属する議員の“成績表”を初めて公表しました。
実は成績といっても、政策や議員活動全般が評価されたわけではありません。対象となったのは、去年1年間に獲得した党員数。「党員は党の組織力の源だ」として拡大に力を入れているからです。成績トップ10人とワースト10人については、なんと実名を公表しました。
(政治部与党担当 根本幸太郎)※写真はイメージです

上位10人、下位10人の実名公表

“成績表”を発表した自民党の山口泰明組織運動本部長は、上位10人は、1位から順番に、下位10人は「武士の情けだ」として50音順で名前を読み上げました。

自民党の場合、党員を2年間継続すると、総裁選挙の投票権、つまり政権を担っている現在であれば「総理大臣を選ぶ権利」が得られます。一方で、年間4000円の党費を払う必要があり、「党員獲得には営業努力が必要だ」(中堅議員)との声も聞かれます。
トップの議員が獲得した党員数は1万人超え。対する最下位は100人台と、およそ100倍の差がありました。

《トップ10》※回数は当選回数
1位  武田良太(衆) 福岡11区  6回
2位  堀内詔子(衆) 山梨 2区  3回
3位  二階俊博(衆) 和歌山3区 12回
4位  野田毅 (衆) 熊本 2区 16回
5位  小泉龍司(衆) 埼玉11区  6回
6位  寺田稔 (衆) 広島 5区  5回
7位  茂木敏充(衆) 栃木 5区  9回
8位  宮腰光寛(衆) 富山 2区  8回
9位  森山裕 (衆) 鹿児島4区  6回
10位 根本幸典(衆) 愛知15区  3回

《ワースト10》※あくまで50音順です
石井浩郎(参) 秋田選挙区  2回
井上貴博(衆) 福岡 1区  3回
小田原潔(衆) 比例東京   3回
越智隆雄(衆) 比例東京   4回
津島淳 (衆) 青森 1区  3回
中泉松司(参) 秋田選挙区  1回
原田義昭(衆) 福岡 5区  8回
村井英樹(衆) 埼玉 1区  3回
山崎正昭(参) 福井選挙区  5回
山田美樹(衆) 比例東京   3回

「何を言っても言い訳」「秘書のせいだ!」

ワースト10に名前を連ねた議員に、理由を聞いてみようと、何人かにインタビューを申し込みました。しかし一様に口が重く、残念ながら応じてもらえませんでした。ただ、匿名を条件に、話を聞くことができました。

「何を言っても言い訳になる」「叱咤だと思って頑張る」といった巻き返しを誓う議員のほか、「秘書のやる気がなかったから」と本音をのぞかせる議員もいました。また、新聞報道を見て心配した支持者から「協力したい」と入党の申し込みがあったという議員は「日頃の行いが、報われた気がしてありがたかった」とホッとした表情を見せました。

「1区」という名の苦境

議員に話を聞いていると、1つの傾向が見えてきました。
それは、都市部で、党員を集める難しさです。ワースト10には、東京選出の議員や、県庁所在地を含む1区選出の議員が合わせて6人います。
「都市部は人の出入りが激しい上に、マンションの場合、オートロックだったり、セキュリティーが厳しかったりして簡単に敷地に入れない。『ビラお断り』の所も多く、攻めづらい」

有権者と個別に接触する機会が、なかなか作れないという事情があるようです。このため、街頭や、ネットを使って、政策を訴える、いわゆる「空中戦」が、日頃の政治活動の中心となっている議員もいるのです。実際、議員からは、「党員集めなんかに時間を割いていたら選挙に勝てない」とか、「党員を集める時間があったら、政策を作ってアピールしたい」といった声も漏れました。

獲得できなければ「罰金」!

自民党は、国会議員に年間1000人の党員獲得をノルマに課し、達成できない場合は、1人の不足につき2000円の“罰金”を徴収しています。仮に100人しか獲得できなければ、180万円を払わなければなりません。それでも、「罰金なんていくらでも納める。集めた党員数=議員の評価と言われたらちょっと失望する」と疑問を投げかける指摘も聞かれました。

公認争いの議員は“成績優秀者”

一方のトップ10には、二階幹事長や茂木経済再生担当大臣などの政府・与党の幹部クラスのほか、堀内詔子氏や小泉龍司氏といった、衆議院選挙で党の公認をめぐって、激しく争った議員がランクインしました。

都市部「攻略ルートがある」

トップ10入りしている議員は、どのような取り組みをしているのか。6位で広島5区選出の寺田稔氏が、快くインタビューに応じてくれました。

寺田氏が、党員獲得に力を入れるようになったきっかけは、自身の落選経験でした。2009年の「政権交代選挙」で、当時の民主党に追い風が吹く中、党員の重要性を感じたと言います。

「選挙後に分析すると、『自民党はもう嫌だ』と言って、当時の民主党に投票した人はいなくはなかったが、基本的に党員はこっちに投票してくれていた。党員以外の浮動票的な人が民主党に流れる中で、コアの部分がいかに大事かを実感した。コアの岩盤の部分を厚くしておくことは逆風の時でも勝てる要因になる」

寺田氏は、選挙区内最大の都市、呉市の党員獲得に、ある工夫をしているといいます。有権者と接点を持ちやすい市の周辺部から、口コミや人のつながりをたどり、無党派層が多い市中心部の住民に接触を図っていくのです。

「呉市の中央部に住んでいるのは、島や郡部から来た人が多く、『今、自分の子どもが呉市にいるよ』という親御さんがいれば、『息子さんにも党員になってもらいたい』と言って周辺部から攻める。いろいろなルートをたどれば、若い人や街なかに住む人、マンション住まいの働く世代にもつなげることは可能だ。都市部でも攻めていくべきだし、できると思う」

でも議員の「成績」って本当は…

“成績表”の公表に踏み切った自民党。山口組織運動本部長は、「悪い人を発表するだけではなく、『これだけ頑張っている人もいるんだ』という意味もある。頑張っている人も公表されることで一層頑張ろうという気になる。ワースト10に入った議員は、トップ10に入った議員に獲得方法を聞いて学んで欲しい」と、その狙いを強調します。

自民党員の数は、野党への転落で、一時、74万人に落ち込んだものの、2012年に政権復帰した以降は回復傾向に。去年、2017年は107万人にまで戻し、当面、120万人を目標に党員獲得に取り組んでいます。来年、統一地方選挙、参議院選挙を控える中、党の支持基盤を固めたい考えです。

今回の取材で、多くの議員が、「党員の獲得には、有権者1人1人と会って話をすることが大事だ」と話していたのが印象に残っています。ただの数集めではなく、有権者が政治に何を求めているのかをすくい取り、きちんと国政に反映させていくことが、政治家の本当の意味での“成績”になるのではないでしょうか。

政治部記者
根本 幸太郎
平成20年入局。水戸局から政治部。趣味は、ロックミュージック。