決戦の年
コロナ禍で解散はいつに?

年が明けて2021年。今年は必ず衆議院選挙が行われる政治決戦の年だ。
政局の最大の関心事は「解散はいつか」という点に収れんされる。
新型コロナの急速な感染拡大を受けて新年早々緊急事態宣言が再び出され、政局の行方は一気に不透明さを増している。
解散の時期と与野党の思惑を、与野党担当のキャップが読み解く。
(徳橋達也、徳丸政嗣)

年明けからコロナめぐって

「当面は新型コロナウイルスの感染対策を最優先に取り組んでいきたい。時間の制約も前提にしながら、よくよく考えた上で判断をしたい」
1月4日、感染者の増加に歯止めがかからない中で開かれた年頭の記者会見。
首都圏を対象に緊急事態宣言の発出を検討する考えを表明した菅総理大臣は、衆議院の解散・総選挙への対応を問われ、慎重に判断する姿勢をにじませた。

一方、立憲民主党の枝野代表は、同じ日の党の仕事始めで、政府の感染対策は後手に回っていると強く批判し、来る衆議院選挙での政権交代に意欲を示した。
「日本の政治が機能していないことで命が失われている。日本の社会を救い、日本の社会を変えるために、頑張っていきたい」

野党「与党の急所はコロナ対応」と攻勢

選挙をにらんで与野党の対決色が強まる中、1月18日に召集される通常国会では、緊急事態宣言の下、感染対策や経済の立て直しなどについて本格的な論戦が始まる見通しだ。
立憲民主党など野党側はどう臨むのか。政権・与党の急所として攻めようとしているのは、まさに新型コロナ対応だ。

緊急事態宣言の発出が決まった1月7日。
西村経済再生担当大臣からの事前報告に対する国会質疑に、立憲民主党は枝野代表を立てた。感染拡大でかつてない国難に直面してきたこの1年。代表みずから質疑に立つ機会が増えている。


質疑で枝野代表はこう声を荒らげた。
「私たちは1か月も前から緊急事態宣言を出すよう提起してきたが、政府は経済を優先し続けた。その姿勢が後手後手の対応につながった」

年始にかけて急速に拡大した感染。菅政権が「Go Toキャンペーン」をはじめ、経済優先にこだわったばかりに緊急事態宣言の発出などの判断が遅れたことが感染拡大に拍車をかけ、各地で医療崩壊を招いたと厳しく批判したのだ。

ある野党幹部は、こう口にした。
「菅総理は長く官房長官を務めたのに、自分が総理になると意外と危機管理にもろいな。このままだとさらに内閣支持率は落ちるよ。菅政権のうちに選挙があれば、野党にも勝機ありだ」

また、政治とカネの問題もある。
安倍前総理大臣の後援会による「桜を見る会」の前日夜の懇親会をめぐる問題。吉川元農林水産大臣が、大手鶏卵生産会社の元代表から現金を受け取っていた疑惑。

野党幹部は、次々と問題が明るみになる現状を「安倍、菅両氏が中心に担ってきた長期政権のうみが出た」と語り、追及の手を強めていく構えだ。

与党 コロナ対策を最優先に

対する与党側はどう受けて立つのか。

年明け以降の新型コロナの急速な感染拡大は与党側も衝撃を持って受け止めている。緊急事態宣言については与党内でも「判断が遅すぎた」という指摘や「東京都の小池知事らに求められた後に宣言に至ったのは、受け身の判断と見られかねない」といった懸念の声が漏れる。

そのため当然、与党としての国会対応もコロナ対策が最優先となる。
まず目指すのは、予算案の早期成立だ。感染対策と経済の立て直しには、予算の切れ目ない執行が欠かせないとして、政府がいわゆる「15か月予算」と位置づける今年度の第3次補正予算案と新年度予算案を通常国会の冒頭に提出し、審議を着実に進めたい考えだ。

また、感染対策の実効性を高めるための特別措置法の改正については野党側にも協力を呼びかけ、予算審議と並行して審議を進めたいとしている。さらには、9月にデジタル庁を設置するための法案や、脱炭素社会の実現につなげる税制関連法案などを着実に成立させ実績を積み上げたい考えだ。

一方、政治のカネをめぐる問題については、新型コロナ対策が急がれる中、できるだけ問題を長引かせたくない考えだ。
自民党幹部の1人は「安倍氏の国会での説明は、去年のうちに済ませたかったから対応を急いだ。通常国会まで持ち越すのは得策ではないという判断だ」と本音を明かす。
通常国会では、野党側が求める安倍氏の証人喚問や、吉川氏の国会招致についても、引き続き応じられないという構えで臨む方針だ。

衆院解散 タイミングは4つの選択肢か

では、焦点の解散はいつになるのか。
ここで今年の政治日程を整理しておきたい。

例年以上に多くの日程が控え、解散のタイミングは限られるという見方が広がっている。
加えて考慮しなければならないのが、なんと言っても新型コロナの感染状況だ。年末年始の感染者の急増を目の当たりにした自民党幹部は「少なくとも春までは選挙は無理だな」とつぶやいた。去年秋頃に永田町の一部でささやかれた「1月解散説」は、もはや全く聞かれない。

そうした中、与党内で取り沙汰されているのが、おおむね次の4つの案だ。

①「予算成立後」解散

新年度予算案の審議が例年通り順調に進んだ場合、成立は3月末になると見込まれる。その時点で感染拡大が収まっていれば、予算成立を実績の1つとして解散に打って出るという案だ。菅総理が2月下旬までにワクチン接種の開始を目指すとしていることもあり、それも成果の1つとしてアピールできるという思惑もちらつく。4月末には衆参両院の補欠選挙も予定されており、それにあわせた形となることが見込まれる。

②「都議選ダブル」解散

通常国会の会期末は6月16日。今年は会期延長の可能性は低いとの見方が強い。7月に任期満了を迎える東京都議会議員選挙を控えているためだ。この案は、その都議選にあわせて衆議院選挙を実施するというものだ。この場合、解散は国会会期末近くになり、政府・与党が実績としてアピールしたい法案を成立させた上で、選挙に臨むことができるという算段だ。ただ、都議選を特に重視する公明党は否定的で与党内の調整が課題となる。

③「五輪パラ後」解散

都議選までに解散がなければ、選挙は秋にずれ込む公算が大きい。7月23日からはオリンピックが、8月24日にはパラリンピックが開幕する。9月5日にパラリンピックが幕を閉じるのを機に、大会の成功を「コロナに打ち勝った証」として解散に踏み切るというのがこの案だ。しかし当然ながら、世界的な感染拡大の一定の収束と予定通りの大会開催が前提となる。

④「総裁選後」解散

菅総理の自民党総裁としての任期は、安倍前総理の残り任期だった今年9月末まで。つまり今年は、自民党総裁選挙も9月までに行われることになる。この案は、総裁選を経た上で、再選された菅総理か新たに選ばれた総裁がその直後に解散を打つというものだ。衆議院議員の任期満了ギリギリとなるが「総裁選直後であれば、自民党に世論の注目を集めた上で選挙に臨むことができる」という指摘もある。

「追い込まれ解散」は分が悪い?

しかし任期満了が迫ってくれば、当然、限られたタイミングの幅はより狭まり、与党にとって有利な状況で選挙に臨むための選択肢はゼロに近づく。いわゆる「追い込まれ解散」は避けたいという声も与党内には少なくない。

与党幹部の脳裏には2009年の苦い記憶が刻まれている。
当時の麻生政権は、任期まで1年を残した前年に前の福田政権から引き継いだものの、リーマンショックによる経済の落ち込みもあって早期の解散に踏み切らなかった。結局、解散は任期満了まで2か月を切ってからとなり、自民・公明両党は大敗。民主党政権の誕生につながった。

その次の2012年の選挙も任期満了まで1年を切った中で行われた。当時の野田政権は、満了のおよそ10か月前に解散を打ったが、野党・自民党の圧勝を許し民主党政権は3年余りで終止符が打たれた。

任期満了間近の選挙は、政権与党にとって分が悪いのだろうか。
平成の時代に行われた衆議院選挙は10回。そのうち7回が、任期満了まで1年を切ってからの解散だった。時の与党第1党の勝敗を見ると、議席を増やした例は2回、減らした例が5回だ。ただ、議席を減らしたと言っても、安定多数を維持した例などもあり、一概に政権与党にとって不利な結果とは言えず、評価は難しい。

コロナ収束で流れ変えられるか

カギを握るのが「内閣支持率」だ。上記の与党が大敗した2つの選挙を見ると、解散直前の内閣支持率はいずれも20%台。逆に、4割を超える支持率を維持したまま解散に踏み切ったケースは与党側が善戦している。

NHKの世論調査で菅内閣の支持率は、発足直後の去年9月が62%だったが、12月には42%と急落した。1月も40%と続落し、不支持が支持を上回った。11月までの調査に比べ、新型コロナをめぐる政府の対応を評価しないと答えた人が大きく増えており、与党内では、支持率の低下は感染の拡大と連動しているという見方が多い。

自民党内では「仮に内閣支持率が30%を切るようなことになれば、菅総理以外の総裁を立てて選挙に臨むべきだという『菅下ろし』の動きが出かねない」という見方も出始めた。一方で「内閣支持率は下がっているが、自民党の支持率はそんなに下がっていないから、党の議席が過半数を割るようなことはない」という強気の声もある。

与党側としては、まずは早期に感染を収束させることで流れを変え、支持率の低下傾向に歯止めをかけたい考えだ。そして、野党側の選挙協力の動向もにらみながら、いつ解散があってもいいようには準備を急ぐ構えだ。

ただ、自民党内で公認を目指す候補が重複するなど、調整が必要な選挙区は10前後にのぼっており、派閥の思惑も絡んで、調整の難航が予想される。また、広島3区では、地元県連が公職選挙法違反の罪に問われた河井元法務大臣に代わる候補者を公募で選んだ一方、公明党が候補者擁立の方針を決めており、一本化を図れるかが課題となっている。

野党の選挙協力は結実するか

対する野党側は、選挙協力の成否が引き続きの課題となる。

去年9月に合流を経て150人を超える野党第1党となった立憲民主党の枝野代表は、与党を利する状況を避けるため、できるだけ多くの選挙区で与野党が1対1で対決する構図をつくりたいとして、野党の選挙協力を進める方針だ。

国民民主党と社民党との間では、定数の半数を超える233以上の選挙区で一本化を図りたいとしている。

大きな焦点となるのは共産党だ。
立憲民主党と共産党の候補者が競合している選挙区は現在、60余りある。


立憲民主党の執行部は、候補者を一本化できれば、与野党逆転できる選挙区は少なくないとして、共産党に候補者の取り下げを求めていくものと見られる。
共産党も連携に前向きだが、「野党連合政権」の実現を掲げ、両党で一定の政策の一致を見る必要があるというスタンスだ。

一方、立憲民主党内や、最大の支援団体の連合内からは「政策や理念が異なる共産党と距離を縮め過ぎれば、組織が割れかねず『無党派層』の票も逃げていく」という否定的な声が漏れてくる。現時点で、どこまで選挙協力が進むかは見通せていない。

もう1つのポイントとなるのが日本維新の会の動向だ。


政権と是々非々のスタンスで、ほかの野党とは一線を画している日本維新の会。今回の選挙でも100人の候補者の擁立を目指す考えを示し、独自路線で党勢拡大を図る姿勢を見せている。そうなれば、野党どうしが争う構図の選挙区が増えることとなり、結果としていわゆる“野党票”の分散を招く可能性もある。

与党に対し提案型か?対決型か?

さらに根本的な課題も残っている。

立憲民主党の枝野代表は「政権の選択肢になる」として、衆議院選挙で政権交代を実現すると強調するが、足元の党の支持率は6%余り(NHK1月世論調査)と低迷を続けている。政権の受け皿として評価を受けているとは言い難い状況だ。

こうした状況に党内では「政権批判一辺倒では支持は得られず、もっと新型コロナ対策などで政権を担える政策提案力があることをアピールしていくべきだ」という声があがる。
一方で「政策提案をしても結局、決定権は政権・与党。最終的に成果を横取りされ、野党は埋没するだけだ。もっと対決姿勢を鮮明にしたほうが効果的だ」という意見も根強い。
政策を実現するには政権与党の協力が必要であり、実現性の高い提案ほど野党の独自色、存在感を発揮するのは難しいというジレンマがある。

提案型か対決型かで揺れる野党第1党。
政権交代をどうやって目指すのか、党運営もまた容易ではない。

コロナが与野党の活動に陰

新型コロナは、与野党双方の活動にも影を落としている。

選挙を控えた、この年末年始。
本来なら、国会議員にとって地元の有権者とふれあう貴重な機会となるはずだったが、知事が帰省の自粛を要請した県もあり、地元へ帰るのを取りやめた議員が見られ、地元行事の多くが中止になるケースも相次いだ。

感染拡大を防ぐため、地方組織との意見交換をオンラインで行う政党があるほか、密集を避けて駅前など街頭に立つ回数を増やす議員も増え、活動の実態は大きく変わってきている。

コロナと闘いながら、支持の拡大をどのように図るか。
今後も各党の試行錯誤が続きそうだ。

政局のカギを握るコロナ

感染拡大への国民の不安が高まる中、政治に問われるのは、収束への道筋を示すとともに「ポストコロナ」を見据えた社会や経済のあり方を提示することにほかならない。

秋までに行われる衆議院選挙は、日本の行く末が問われる政権選択選挙になる。
それだけに、将来の国家像をどう描き、必要な政策を具体的にどう進めていくのか。
国民に分かりやすく示すことが、与野党ともに求められる。

政局のカギはコロナが握っている。

政治部
徳橋 達也
2000年入局。京都局を経て政治部。自民党や外務省などを取材。去年8月から与党キャップ。休日は少年野球のコーチ。
政治部
徳丸 政嗣
2001年入局。高松局を経て政治部。自民党や旧民主党などを取材。去年8月から野党キャップ。得意料理はそばめし。