石破 ゼロの覚悟と挑戦

今回の内閣改造で入閣「ゼロ」となった石破派。
将来の総理大臣候補と目される有力議員が閣僚や党役員に起用される中、「ポスト安倍」を目指す石破茂(62)は、いま何を思うのか。その心中を聞いた。
(黒川明紘)

「ゼロ」の覚悟

去年9月の自民党総裁選挙で、安倍と唯一争った石破。

その派閥が入閣ゼロになったのは、不思議でないようにも思える。

しかし、実は7年前の第2次安倍政権発足以降、初めてのことだ。
これまでは必ず1人起用されてきた。

今回、入閣ゼロとなった石破派。
党内では、「いよいよ干されたということではないか」と指摘する声も出ているが、会長の石破が、どう受け止めているのか、まず聞いた。

「わが派の人たちに、国家・国民にとって有為な人材は極めて多いと思う。国家・国民のために、石破派だからとかそういうことではなくて、登用していただければありがたかった。
石破派だから登用しないとは言わないでしょう、彼らは。有為な人材がいないから登用しなかったと言われたら、それは違うんじゃないかなと思います」

「もちろん、閣内が同じような主義信条の方々が多くて、あるいは、ご自身を支持される方が多くて、心安らかに政権が運営できるってことも大事なのかもしれない。あるいは、自分のために一生懸命尽力してくれた人に報いるということが大事なのかもしれない。
どの価値観を優先するかという、それは唯一無二の任命権者の総理のご判断。総理のお考えまでは私には分からない。唯一の任命権者が決めたことに、いいとか悪いとか言う立場にはない」

「石破節」の語り口はいつもと変わらないものの、行間には不満がにじみ出ていた。

派内では、落胆の声が出ているのかと思って取材してみると、意外にも冷静だった。

派閥の幹部は、
「われわれの立ち位置を抜きにしても、派閥の人数(19人)を考えると割合的に1か0だ。今回、初めて0になったからといって不思議なことではない。むしろ今までよく入っていたと思うよ」
と話した。

また、別の所属議員は、
「こうなることをみんな知りながら、去年の総裁選で石破を応援した。今更驚く話でもない。これが権力闘争だ。戦国時代なら、戦いに負けたら、一族郎党殺される。まだ挑戦できるだけいい」
と語った。

改憲 安倍と石破の違い

安倍と石破の最大の違い、それは憲法改正だろう。

“善戦”とも評された去年の自民党総裁選挙。政策での最大の違いは憲法改正、9条の扱いだった。

「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」
戦力の不保持と交戦権の否認を定めた9条2項。

安倍は、2項は変えず、新たに自衛隊の存在を明記することを目指している。

一方の石破は、2項を削除し、「国防軍」の創設を規定する野党時代の自民党がまとめた憲法改正草案の実現を目指すべきだとする。

去年の総裁選では、名称は自衛隊のままでも良いとしながら、「必要なもの、急ぐものから取り組む。参議院選挙の合区の解消や緊急事態条項が喫緊の課題だ」として、9条の改正には国民の理解が必要で、拙速に進めるべきでないという立場を明確にした。

今回の内閣改造を受けて、安倍は、憲法改正は自民党立党以来の悲願だとして、改めて実現に意欲を示した。
根っからの憲法改正論者で、「憲法改正をやりたいから自民党にいる」とまで言う石破がなぜ反対するのか。

「(9条の)1項2項はそのままに、3項に自衛隊を書くだけですなんて議論は、安倍さんが、2年前、突如としてビデオでおっしゃった」

「党員に語ったものでも国民に語ったものでもない。一度も説明していない。それまで一度もそんな議論は党内で行われたことはない。安倍さんが言ったことで、急にそういう話になっていった。これは論理として成り立たないですよ、絶対成り立たない」

もうポスト安倍ではない?

「ポスト安倍」の総理・総裁候補が軒並み入閣した今回の内閣改造。
この布陣を見て、ある派閥の幹部がつぶやいた。
「もはや石破はポスト安倍でもないだろう」

石破に焦りはないのか。

「全くありません。かえって国民の支持が上がっているんじゃないの?不思議なことだけど」

2012年の総裁選、1回目の投票では安倍に勝った。去年の総裁選も善戦した。各種世論調査では総理大臣候補として上位にランクインする。
石破の自信の表れなのだろうか。

課題は今も「党内支持」

安倍と距離を置く石破。
去年の総裁選では「正直、公正」を掲げた。

森友学園の問題などを念頭に置いたものだとして、安倍支持派から強い反発を受けた。
総理・総裁への道の最大の課題は、依然として党内支持にある。

どうすれば党内支持を広げられると思うか、単刀直入に聞いてみた。
「教えてくれよ。国会議員の支持を増やせって言われるけど、私は少なくとも人の選挙応援に行った数では5本の指には入る」

党内支持が広がらない要因は何なのだろうか、本人の分析は。
「私だと本当に劇的に変えるんじゃないか、そういう思いがあるんじゃないだろうか。安倍さんと最初に戦った時の総裁選で党員票は圧倒的に勝っていたが、決選投票を国会議員だけでやった。その時に聞こえてきたのは、『石破は本当に劇的に変えるかもしれない』と、そういうことに対する恐れ。
それから、よく言われる、日常的な付き合いはなくて親近感に乏しい、1回党を出たやつは信用ならない、この3つじゃないか」

石破の流儀

石破派の所属議員は現在19人。

総裁選挙の立候補に必要な推薦人20人に足りず、総裁を目指すには、ほかの派閥の議員などに支持を広げることが不可欠だ。

閣僚や党役員として実績を積む議員を横目に、どう「ポスト安倍」を目指すのか。
「平時だったら私がやる必要はない。私がやらなきゃいけない時ってのは来るかもしれないが、それは、かなりシリアスな状況だと思う」

「危機的な状況が来た時しか私は必要とされないのかもしれない。その時に好きだの嫌いだの言っちゃおれん。一緒に飲んだの飲まないの言っちゃおれん」

「その時に必要なのは、国民の信頼だ。それは、納得と共感なくして政権なんか運営できない、危機の時はね。その時に、総理の言うことは、信用できる、共感できる、納得できる、そう思ってもらえなければ、政権なんか担う意味はない」

先の参議院選挙では、総裁選挙で支持を受けた竹下派の参議院議員を中心に、応援に回った石破。今後も選挙応援などを通じて支持拡大を目指すとともに、政策を磨く考えだ。

ゼロからの挑戦

インタビューを通じて、ぶれずに突き進む「覚悟」を感じさせた。

「安倍一強」とも言われる中、距離を置いて、言うべきことを言い続け、支持を広げていけるのか。それとも、このまま埋没し、ポスト安倍レースから脱落してしまうのか。

安倍の自民党総裁としての任期は残り2年。

石破の「ゼロ」からの挑戦が始まる。

(文中敬称略)

政治部記者
黒川 明紘
2009年入局。津局、沖縄局を経て政治部へ。現在は自民党石破派を担当。趣味はサッカー観戦。