きのうのは、きょうも敵?

先月(4月)の統一地方選挙で相次いだ保守分裂の知事選挙。
選挙後はノーサイドのはずが、亀裂は深まりさえも見せている。

なかでも、麻生副総理の地元として知られる福岡県。そこでは「麻生派VS非麻生派」の激突となった選挙の余波が続く。
衆参同日選挙の見方も出る中、自民党は結束することができるのか。
今も残る「しこり」の現場を追った。
(福岡局 坂本理/政治部 加藤雄一郎、関口裕也、川田浩気)

分裂、再び

「若干意見が出たことも真摯に受け止めることは受け止め、協議することは協議していく考えだ。今回の参議院選挙、私たちは挙党態勢で一丸となって頑張っていく」

自民党福岡県連の新しい会長に就任した原口剣生県議会議員(64)。

4月25日に告示された会長選挙に、自民党の県議のほとんどと、市議の推薦を受けて立候補し、無投票で当選した。

しかし13人いる国会議員からの推薦はゼロ。その13人の国会議員も対応は一枚岩ではないという。

そこには知事選挙の「分裂劇」が影を落としていた。

派閥間「抗争」

発端は4月7日に投票が行われた福岡県知事選挙だ。

現職で、3期目を目指す小川知事。

これに対し、自民党県連は、厚生労働省出身の新人を擁立。保守分裂の選挙となった。

その新人擁立を主導し、背後から支えたのは、麻生副総理兼財務大臣だった。

麻生氏はかつては、小川氏を支援していた。
小川氏は麻生内閣で内閣広報官を務め、麻生氏は小川県政誕生の原動力とされた。

しかし麻生氏は、小川知事の2期目の途中から、県政の将来ビジョンや、福岡市との連携などをめぐって知事に批判的な立場に転じ、完全にたもとを分かつ形になったのだ。

麻生氏は、党本部の推薦を取り付けた上で、小川氏を支援する自民党の議員らを「造反だ」と厳しく批判。麻生派の国会議員が県内外から駆けつけて新人を応援した。

一方、小川氏は、医師連盟や連合など300を超える団体から推薦を受けたほか、二階派の武田良太元防衛副大臣らに加え、

重鎮の古賀元幹事長、

山崎元副総裁も支援に回った。

長く麻生、古賀、山崎の3氏が影響力を発揮していた福岡県で、知事選挙は「麻生派VS非麻生派」の構図となり、激しい選挙戦が繰り広げられた。

結果は小川知事が大差をつけて勝利。

麻生氏は県連の最高顧問の辞表を提出した。

そもそも自民党本部では、現職の小川氏が優勢という見方もあったため、「分裂選挙に突入した麻生氏の発言力が弱まるのではないか」といった声も上がった。

悩む、岸田氏

分裂選挙はポスト安倍に意欲を示す岸田政務調査会長も悩ませた。
岸田氏は麻生氏から直接、新人の応援のため、福岡県に入るよう要請を受けた。

しかし派閥の前会長である古賀氏は、小川知事を支援。
福岡県内には岸田派の議員も多くいることから、慎重な対応を求められた。
応援に入って麻生氏にいわば恩を売ることで、ポスト安倍に向けて、麻生派と良好な関係を築くか、それとも応援に入らず、みずからの派閥の結束を優先するか。

悩んだ末、岸田氏は応援に入ることをやめた。

そして県連会長選挙にも…

知事選挙の結果を受けて、県連の藏内勇夫会長も辞任。

後任の会長を決める選挙の告示日。
立候補を届け出たのは、県議の原口氏ただ1人だった。

これには理由がある。
福岡県連の会長になるには、県連の役員62人のうち、20人以上の推薦が必要だ。
原口氏は43人の推薦を得たため、原口氏を除くと残りは18人。対立候補として立候補したくても誰も出られないのだ。

これに反発したのが、岸田派の山本幸三元地方創生担当大臣ら国会議員だった。

山本氏らは、自民党本部で急きょ記者会見を開き、県連会長は国会議員が務めるべきで、県議の数の力で会長を決めるのはやめるべきだと主張した。

「われわれ福岡県選出の国会議員は、先の統一地方選挙の結果に鑑みて、県連の解体的見直しが必要だと考え、国会議員が先頭に立って一致結束する態勢を構築しなければならないと考えている。国会議員の意見も聞かずに、県会議員だけで、密室的な決定をするということは透明性に欠けており、前回の知事選の轍(てつ)を踏むんじゃないかと懸念をしている」

しかし13人いる国会議員も一枚岩ではなかった。
麻生氏を含む麻生派の4人は、県議側に同調し、山本氏らの主張に賛成しなかったのだ。

「県連会長を国会議員から選出すべきではないかということで議論を進めてきたが、麻生先生のグループの反対で一本化することができなかった。13名中9名が国会議員から県連会長を選出すべきで、その具体名は私、山本幸三ということで賛同を得たが、麻生グループ4名が反対という結果になった」

対立する主張

山本氏とともに、県連の新会長選出に異議を申し立てた中心人物の1人が、二階派の武田良太衆議院議員だ。

武田氏は、福岡県知事選挙で小川知事を支援して勝利。
新たな県連会長の擁立は、知事選挙で敗れた側が主導したものだと指摘する。

「現職じゃない新人候補に推薦を決定した時も、今回の県連会長の決定も、全く一緒なわけ。『ルールには抵触してない』と。一部の県議会議員と一部の国会議員が密室で談合で決めて『ルールにのっとってる』って言うんだけど、この差で負けてるってことは、いかに組織を私物化しているかということの表れなんだよね」

「みんなの気持ちが完璧に離れてるってことにどうして気づかないのか。何でもいいから勝手に決めて、選挙やってみたら、みな負けるというようなことが、果たして許されるのか」

武田氏は、県連として知事選挙敗北の反省が生かされていないと主張する。

「ここ最近では、福岡6区の補選、県議会議員の補選、県知事選挙、全ての選挙で負けてるんですね。しかも大差で。知事選にいたっては、100万票負けるなんてことは、空前絶後ですよ。それはいかに自分たちの判断が間違っていたか。派閥抗争に持ち込もうという考えなんか、さらさらない。いかに、有権者というものに耳を傾けなかったか。そこの反省なくして、次に進むってことは考えられない」

「今まで何が悪かったのか、どこをどう改めなきゃいけないのかっていうことを検証して、それを改めることが大事なわけであって。そういう努力がなかったために、これだけの県民からそっぽ向かれるような結果が生まれたわけだから」

これに対し、麻生派のある国会議員は、次のように反論する。
「そもそも派閥間の争いではない。有権者の意見を吸い上げて国政に伝えるのが国会議員の仕事であって、自分たちは、県議の多くが賛同する主張に乗っているだけだ」

「政治家としてこうしたいという考えがあるなら、今ある規則とルールにのっとって行うべきだ。知事選挙の時もそうだが、われわれはさまざまな意見を聞いて、粛々と手続きを進め、全力を尽くした。それを県連大会の直前に変えろというのはあまりに乱暴だ」

県議に力

国会議員の間で意見が分かれた県連会長選挙。
そもそも数の上では県議が圧倒的な力を持っている。
仮に13人の国会議員が一枚岩になっても、独自に会長候補を擁立することはできない。

県連役員の多数を占める県議を一手に取りまとめてきたのが、前県連会長の藏内氏だ。

福岡県議団の会長を6期12年務めたのに続き、ほかの都道府県では国会議員が就くことも多い県連会長を2期4年務めた。
数の力を背景に、今回の会長選挙でも、みずからの後任を決めるに至った。

ある重鎮県議の1人は、今の国会議員の状況を次のように指摘する。
「県知事選挙の経緯から見ても、県連会長選挙をめぐって国会議員どうしが対立することなんて最初から分かっていた。こちらが『次は参議院選挙だから国会議員が一致してまとまってくださいよ』と言っても、意見をまとめる努力がされていない」
「『これなら県連会長は、まとまっている県議から』という話になる。国会議員どうしが一致結束もできず、多数決で決めようとしていたが、多数決なんて子どもでもできる。それだけまとまっていないということじゃないか」

遠い結束

そして今月18日に開かれた福岡県連大会。
非麻生派の国会議員は「県連執行部を務める県議が国会議員の意見に耳を傾けないならボイコットも辞さない」としていた。

しかし県議側が、今後の県連の運営をめぐっては、国会議員側と協議を行っていく方向で折り合い、麻生派に加え、岸田派と石原派の国会議員は出席した。
原口新会長のほか、党本部からは岸田政務調査会長が駆けつけ、夏の参議院選挙に向けて一致結束を訴えた。

「先の知事選挙においては大変残念な結果になったこと、皆様方に心からおわび申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。次に行われる参議院選挙は、私どもは国会議員の先生方を含め、挙党一致の中において戦ってまいりたい。私たち福岡県連も一丸となって挙党態勢の中において頑張る所存だ。ここにいらっしゃる皆さんの最大のご協力を切にお願いする」(原口氏)

「新しい時代にしっかりと責任政党としての責任を果たしていき、政権の安定に努めなければいけない。そのために大切なのが参議院選挙だ。ぜひ福岡県連の皆様におかれても、心を1つにして力を合わせて、勝利に向けて取り組んでいただくよう、心からお願い申し上げる」(岸田氏)

しかし武田氏ら二階派の議員は姿を見せず、依然、溝が残ることが浮き彫りになった。
会場からは、先の知事選挙で、麻生氏が擁立を主導した新人候補を党として推薦した経緯をただす質問が出され、県連の新執行部が説明に追われる場面もあり、多難の船出となった。

しこりは福岡以外でも

しこりが残っているのは、福岡県だけではない。
先月の統一地方選挙で、保守分裂の知事選挙となった福井、島根、徳島もそうだ。
福井県では、夏の参議院選挙の候補者が、知事選挙で「動かなかった」として、地元から差し替えを要求する声が出ている。
また島根県では、県議と国会議員の間の対立が解消されず、今月亡くなった参議院議員の後任候補を決められずにいる。
徳島県では、県連が推薦した知事を応援せず、別の候補を支援した国会議員の処分を求める動きも出ている。

こうした事態を受けて、甘利選挙対策委員長は今月12日、徳島県の県連大会でこう呼びかけて結束を訴えた。

「とにかく同志が結束することが 勝利のカギだ。自民党が負ける時の最大の要因は、その結束が乱れて、一本化できない時だ」

各県で残る「しこり」は、夏の参議院選挙にどのような影響をもたらすのか。
自民党は、「しこり」を解消することができるのか。
衆参同日選挙の見方も出る中、自民党に残された時間は、そう多くない。

福岡局記者
坂本 理
平成24年入局。北九州局を経て福岡局。福岡県政を担当し、知事選挙では自民党を取材。
政治部記者
加藤 雄一郎
2006年入局。鳥取局、広島局を経て政治部。現在、自民党麻生派を担当。
政治部記者
関口 裕也
平成22年入局。福島局、横浜局を経て政治部へ。自民党二階派を担当。
政治部記者
川田 浩気
平成18年入局。沖縄局、国際部を経て政治部。現在は、岸田派担当。