解説)所得税など4万円減税・非課税世帯は7万円給付案って?

新たな経済対策をめぐり、岸田総理大臣は、4万円の減税や非課税世帯に7万円の給付を行う案などをもとに制度設計を検討するよう与党に指示しました。私たちの生活に関わる「減税」。そもそも具体的にどんな案なのか?与党内の議論の焦点は何か?そして野党側は?わかりやすく解説していきます。
(太田雅志)

Q.まず、指示を受けた与党内はどう受け止めていますか?

A.評価は分かれていると言えます。

「増収分を国民に返すという意味では減税が最適で額も妥当だ」(与党内)

「還元策なのか経済対策なのか低所得者対策なのか分かりにくい」(与党内)

「減税する分を給付した方が即効性がある」(与党内)

肯定的な見方がある一方、課題を指摘する声もあり、もろ手を挙げて賛成という雰囲気ではありません。

Q.そもそも具体的にどんな「減税」の案なのでしょうか?

A.政府側から示されたのは、過去2年間の税収増をもとにした「減税」、そして「給付」の案です。

対象や金額について、詳しくみていきます。

まず、減税です。
対象となるのは納税者本人とその扶養家族、あわせておよそ9000万人の見込みです。
1人あたり所得税3万円と住民税1万円、あわせて4万円の定額減税を行います。
「定額減税」とは、納税額から一定の金額を差し引くものです。
例えば、世帯主と配偶者、子ども1人の世帯ではあわせて12万円の減税になります。

政府としては、必要な法改正をへて、来年6月、いわば夏のボーナスごろに実施したい考えです。

Q.一方の給付はどんな案なのでしょうか?

A.所得が低い個人や世帯は、こうした減税では十分な還元を受けられないため、その支援として給付を行うとしています。

対象となるのは、およそ1500万世帯あるとみられる住民税の非課税世帯です。
1世帯あたり7万円を給付します。
この住民税の非課税世帯には、ことし春の物価高対策として3万円の給付がすでに始まっていて、これを合わせると10万円の給付になります。
政府としては補正予算案の成立後、すみやかに給付を行う考えです。

Q.ほかにも支援策があるんでしょうか?

A.こうした還元策を十分に受けられない人のための支援策も検討されます。
住民税と所得税は課税の基準が異なるため、住民税は納めていても、所得税は納めていないという人たちの世帯にも住民税の非課税世帯と同じ水準の給付を行います。

さらに、収入が低くて年間の納税額が4万円に満たない人たちもなんらかの仕組みで補うことを検討する方針です。

また、低所得の子育て世帯には追加の支援を講じるとしています。

Q.岸田総理大臣は、どう発言しているんでしょうか?

A.新たな経済対策をめぐり、岸田総理大臣は、26日の政府与党政策懇談会で、こうした案などをもとに具体的な制度設計を検討するよう指示しました。

この中で岸田総理大臣は「30年来続いてきたデフレから脱却できるチャンスを迎えているが、賃金上昇が物価高に追いついていない。放置すれば再びデフレに戻りかねず、政府として支えることが肝要だ」と述べました。

Q.冒頭で、与党内でもさまざまな指摘や意見があるという話がありましたが、ということは、与党内の調整が難航する可能性もあるのでしょうか?

A.そこまでは言えないと思います。
議論の舞台は、税調=税制調査会となります。
特に自民党の税調は、ここでの決定は総理でも覆せないと言われ、強い権限を持っています。
この税調幹部の1人は次のように話しています。

「総理の発言は重く、期間も限定的なので、それを形にしていく」(自民党税調幹部)

また、公明党内も肯定的な受け止めが大勢なんです。
そこには「総理がここまで言ったのだからやるしかない」という面もあり、いわば、26日の指示を具体化する方向で議論が進む可能性が高いとみられます。

Q.今後の与党内の議論の焦点は何でしょうか?

A.総理の指示を受けて自民・公明両党は27日、それぞれの税制調査会で幹部による会合を開いて議論を本格化させることにしています。
減税については、両党から次のような意見が出ています。

「物価高の影響を大きく受ける人たちを支援する観点から富裕層は対象から外すべきだ」(与党内)

一方で次のような指摘もあります。

「所得制限を設ければ仕組みが複雑になる」(与党内)

このため、富裕層も対象に含めるかどうかなどが焦点となります。

政府は、11月2日に経済対策を決定した上で、給付は補正予算案の成立後、速やかに行うとともに、減税は法改正を経て来年6月に実施したい考えです。

税は、その扱い次第で政権運営を左右しかねない「鬼門」とも言われます。
岸田総理にとって、まさに政権浮揚をかけた課題になりそうです。

Q.一方の野党側の受け止め、そして今後の国会論議はどうでしょうか?

A.減税には法整備も必要で実施までに時間がかかり、経済対策としての効果も限定的という批判が出ています。

立憲民主党の泉代表は、国会の代表質問で「給付」ということばを3回繰り返し、全体の6割の世帯に3万円の「インフレ手当」の給付を求めているほか、各党も消費税の減税など、独自の対策を主張しています。
野党側は、所得税などの減税と、防衛費増額の財源を賄うための増税の整合性をただす考えです。
このため、26日の総理指示をめぐって今の国会で激しい論戦が交わされそうです。

(10月26日 ニュースウオッチ9などで放送)

政治部記者
太田 雅志
2001年入局。岡山局初任。政治部、京都局デスクなどを経て、現在、政治部 与党キャップ。