合区の補欠選挙
カギを握るのは投票率

合区の補欠選挙 投票率を考える特集のタイトル

今月5日、参議院徳島高知選挙区の補欠選挙が告示された。参議院選挙のいわゆる1票の格差を是正するため、隣り合う2つの県を1つの選挙区とする「合区」。徳島と高知、鳥取と島根で7年前から導入されている。
実は過去3回行われた徳島高知選挙区での選挙では、投票率の低さが際立つ結果となっている。なぜ投票率が低かったのか?今回の補欠選挙ではどうなるのか?
選挙結果にも影響を与えそうな投票率の行方を探ってみた。
(能智春花  永橋あずさ  村田修一  益野美咲  石井良周)

海岸線が400キロ 広大な選挙区で

2016年の「合区」導入で設けられた徳島県と高知県の2つをあわせた選挙区。徳島県の最も北の鳴門市から、高知県の最も西にある宿毛市まで、海岸線の全長はおよそ400キロに及ぶ。
交通の便もよいとは言えず、県庁所在地の徳島市と高知市を移動するには、高速道路を使っても愛媛県を通るルートで2時間余り、JRでは最も早くてもおよそ2時間半かかる。

徳島と高知の距離を示す地図


有権者「声が届きにくく」「しかたがない」

この広大な選挙区で行われる選挙を、有権者はどう感じているのか。

「県民性が違うから、『自分は高知県民だ。自分は徳島県民だ』という認識はあると思う。合区はあくまで制度で、心の中からしたら徳島と高知は遠いと思う」

「個人的には徳島を遠い存在だとは思わないが、政治になると話は違ってくるから難しいと思う。もちろん選挙は別々がいいと思うが、人口が少ないからしかたがないかなと思う」

「合区に反対ではないが、合区にするならもう少し連携してほしい。それぞれの県で選挙をやっている感じがする。徳島から候補者が出たら高知の人は親しみがないだろうし、高知から候補者が出たら徳島の人は親しみがないと思う。合区で選挙区が広くなったのであれば、候補者になる人は、ふだんから県の垣根を越えて活動してほしい」

「それぞれの地域で特性や問題があるため、地元の候補者でなければ地域の声が国に届きにくくなるのではないかと心配になる」

投票率は全国最低に

では、この徳島県と高知県の選挙区で、投票率はどうなったのか。

参院選合区導入後投票率
参院徳島高知選挙区の過去3回の投票率

合区での3回の選挙では毎回どちらかの県の投票率が全国最低を記録している。1回目は両県がワースト1位と2位を占めた。さらに、徳島県では去年まで2回連続で全国最低が続いている。合区のもとで投票率がきわめて低くなっている。
特に影響が大きいとみられるのは、地元に関係の深い候補者がいない場合だ。
高知県が最低となった2016年は候補者がいずれも徳島県出身者だった一方、徳島県が最低となった2019年の有力候補は高知県にゆかりのある顔ぶれだった。
ちなみに両県出身の候補者がいた2022年。徳島県は県内24市町村すべてで投票率が回復し7ポイント上昇したものの全国最低から抜け出すことはできなかった。

選管も投票率に“危機感”

今回の補欠選挙に立候補したのは2人。いずれも高知県出身だ。
参議院補欠選挙徳島高知選挙区の候補者はこちら

今回は出身の候補者がいない徳島県。徳島県の選挙管理委員会では投票率の低下に懸念を示しながらも、啓発につとめたいとしている。

徳島県選管の投票啓発グッズ

(徳島県選挙管理委員会 小島周一郎書記長)
「今回の選挙は全国一斉の選挙と異なり、補欠選挙であること、また、合区になってから投票率が上がっていないことから、投票率が低下するという危機感を持っている」

「合区選管の立場として、どちらの県の方が立候補しようと、着実に啓発し、少しでも有権者の方が投票所に足を運んでいただけるようにやっていかなければと思っている。SNSなどを活用して、少しでも投票率が上がるようやるべきことはやっていきたい」

無効票は全国平均の2倍以上に

投票率のほかにも、気がかりな数字があった。投票用紙に何も書かなかったり(白票)、候補者とは違う人物の名前などを書いたりして、無効となった票の多さだ。

合区導入後の無効票率
参院徳島高知選挙区の無効票割合

2016年は高知県、続く2019年は徳島県で、無効票の割合が全国最多だった。いずれのケースもその時の選挙では県別の投票率が全国最低に落ち込んでいた上に、無効票が全国平均の2倍以上という高さになっていた。無効票数では、2016年の高知県ではおよそ1万7000票、2019年の徳島県では、およそ1万5000票にのぼった。2022年も高い水準だった。

専門家「住民に違和感 議論が必要」 

(地方自治に詳しい)徳島大学の小田切康彦准教授は合区の選挙について次のように話す。
「合区にすることで、1票の格差が解消されている側面はあると思うが、ふだんは都道府県単位で物事を進めているのに、選挙制度だけ隣の県にまたがることが、住民にとって違和感があり、低い投票率につながっていると考えられる。また、なぜほかの県の人に投票しないといけないのかという反感のようなものが、無効票という形で出てきている可能性はある。合区は制度論、法律論で進んできたところがあると思うが、実際の結果を踏まえて今後どうしていくのか、実証を踏まえた議論をしていくことが非常に重要ではないかと思う」

徳島大学の小田切 康彦 准教授
徳島大学 小田切康彦 准教授

今回はどうなる投票率

比例代表の投票がない参議院の補欠選挙では、過去の本選挙と比べて投票率が大きく下がったケースもあり、有権者の関心が高まらなければ、投票率がこれまで以上に低くなる可能性も考えられる。今月22日の投票日に向けて、どうしたら選挙への関心が高められるのか。合区制度そのものの今後を考える上でも、投票率の行方が注目される。

徳島局能智記者
徳島局記者
能智 春花
2012年入局 大分局、長崎局、国際部などを経て23年8月から徳島局 料理で「かぼす」か「すだち」のどちらを使うか悩む日々
徳島局永橋記者
徳島局記者
永橋 あずさ
2022年入局 徳島生まれ東京育ち ”ふるさと”徳島で警察・司法を担当 道の駅でおいしい食材を探すのがマイブーム
徳島局村田記者
徳島局記者
村田 修一
2023年入局 警察・司法を担当 愛媛県上島町出身 好きな言葉は「ご飯大盛り」
高知局益野記者
高知局記者
益野 美咲
2023年入局。銀行員を経て、新聞記者から転職。生まれも育ちも高知で自称「はちきん」。カツオのたたきは塩とニンニクでおいしくいただく派です。
選挙プロジェクト石井記者
選挙プロジェクト記者
石井 良周
2011年入局。2021年から選挙プロジェクト。前々回・2019年の参院選は、高知局の記者として合区の選挙を取材。