【解説】補正予算案 提出時期を明言せず その思惑は? なぜ焦点に?

岸田総理大臣は、物価高を受けた新たな経済対策を10月末をめどにとりまとめるよう、閣僚に指示しました。その一方で、対策の裏付けとなる補正予算案を国会に提出する時期を明言していません。なぜなのでしょうか?
(広内 仁)

Q.新たな経済対策をめぐり、なぜ補正予算案の提出時期を明言しないのでしょうか?その思惑は?

A.ひと言で言うと、岸田総理としては、いつでも解散できるようフリーハンドを持つためとみられます。後ほど、詳しく説明します。

日程表。10月臨時国会召集?来年1月通常国会召集

Q.「解散のフリーハンド」ですか。では、そもそも「新たな経済対策」をめぐる状況は?

A.今回の「新たな経済対策」は、物価高を受けたものです。
岸田総理は26日の閣議で、◇持続的な賃上げの実現や◇国内投資の促進などを柱に具体化し、10月末をめどに、とりまとめるよう閣僚に指示しました。

閣僚ら

岸田総理は対策の意義について、こう述べています。
「長年続いてきたコストカット型の経済から、人への投資による経済の好循環を実現し、熱量が感じられる『適温経済』の新たなステージへの移行を確実に進める」

指示を受けて政府は27日、「新しい資本主義実現会議」を開き、重点項目としている、
▼賃上げに取り組む企業に対する減税の強化や
▼半導体を含めた戦略分野の国内投資を促す減税制度の創設などについて
具体的な制度設計を検討していくことにしています。

Q.減税措置が検討されるんですね?

A.そうです。一方で税制をめぐっては、防衛費増額の財源を確保するため、将来的に増税する方針で、政府・与党内では「財政状況にゆとりはない」との指摘もあり、どこまで実効性を伴う減税措置となるのかが焦点となります。

Q.秋の臨時国会についてはどうなっていますか?

A.政府・与党は、早ければ10月中旬にも臨時国会を召集する方向で調整を進めています。

国会

◇幅広い世代を対象に金融教育を進める新たな認可法人を設置するための法律の改正案や◇インターネット版の官報に紙の官報と同じ効力を持たせるための関連法案などを成立させたいとしています。

一方で岸田総理大臣は新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案を国会に提出する時期については明言していません。

Q.野党側はどうか?

A.野党側は、物価高への対応など課題は山積しており、速やかに国会で議論すべきだと主張しています。

立憲民主党の泉代表

立憲民主党の泉代表は26日、党の会合で「岸田総理大臣が経済対策の策定を指示したが、一方で、いつ国会が開かれ、いつから補正予算案が議論されるのかは全く不明確なままだ。物価高は収まっておらず、国民生活が厳しいので、早期の国会開会を求めていきたい」と述べました。

27日午前には、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組など野党各党の国会対策委員長らが国会内で会談。
先の内閣改造を受けて岸田総理に今後の政権運営の方針をただす必要があるほか、政府が、新たな経済対策をまとめるとしていることを踏まえ、物価高などへの対応を国会で議論すべきだという認識で一致しました。
さらに、▼旧統一教会に対する解散命令請求の検討状況や
▼洋上風力発電をめぐる汚職事件を受けた政府の対応など
議論すべき課題が山積しているとして、臨時国会を速やかに召集するよう、政府・与党に求めていくことを確認しました。

Q.では、改めて、新たな経済対策をめぐり、なぜ補正予算案の提出時期を明言しないのか?詳しく聞きたいと思います。

A.与野党の間では「この秋の衆議院解散を考えているのではないか」という見方も出ていて、補正予算案を臨時国会に提出するかどうかも焦点となります。

冒頭で、「解散のフリーハンド」とお伝えしました。
どういうことかというと、まず、10月中の召集が見込まれる臨時国会で補正予算案を提出するとなると、編成に3週間ほど、審議、成立までさらに数週間かかり、年内の解散はしにくくなります。

日程表。10月臨時国会召集?11月補正予算案提出?来年1月通常国会召集

しかし、提出を来年の通常国会に先送りすれば、臨時国会の冒頭などで解散する余地が生まれます。

日程表。10月臨時国会召集?衆院解散も?来年1月通常国会召集補正予算案提出?

ある政権幹部は、取材に対し、こう話しています。

「臨時国会での解散は、五分五分だ」(政権幹部)

一方で、こう話す議員もいます。

「経済対策だけ打ち出して、裏付けとなる補正予算案を成立させず国民が効果を実感しないまま解散するのは、理解が得られないのではないか」(与党議員)

さらに、そもそもとして、こう話す議員も。

「内閣改造でも政権浮揚の兆しは見えない上、経済対策を打ち出しても支持率が上がるとは限らず解散は難しい」(与党議員)

補正予算案の提出時期については、かん口令が敷かれているという話もあり、岸田総理の言葉1つ1つを与野党が注視する局面が続くことになります。

政治部デスク
広内 仁
1997年入局。横浜局から政治部。ワシントン支局、与党キャップ、福岡局デスクを経て政治部デスク。