旧統一教会 文科省が過料求め通知
なぜこのタイミングで?

旧統一教会をめぐる問題で文部科学省は、質問権の行使に対し教団が適切に回答していないとして、行政罰の過料を科すよう7日午後、東京地方裁判所に通知した。

なぜ、旧統一教会に過料を科すよう求める通知がこのタイミングで行われたのか。今後、解散命令の請求へと至るのか?解説していく。

【Q】なぜこのタイミングで過料を科すよう求めるのか?

【A】これ以上質問権を行使しても必要な情報が得られないという判断があるとみられる。

質問権を7回行使も回答拒否が100項目以上に

質問権は去年11月以降、7回行使されてきたが、取材すると、「回を重ねるごとに教団側の回答は不十分なものになっていった」という声が聞かれる。それだけに、政府としては、教団に対する姿勢を改めて強調したい考えだ。

【Q】旧統一教会をめぐる問題 そもそもの経緯は?

【A】旧統一教会をめぐる問題は、去年7月に起きた安倍元総理大臣の銃撃事件をきっかけに浮き彫りとなった。

逮捕された山上徹也被告が、母親が多額の献金をしていた旧統一教会に恨みを募らせた末、事件を起こしたなどと供述したためだ。

被害者救済に取り組む弁護士などからは、教団への解散命令を裁判所に請求するよう政府に求める声が上がった。

被害者救済に取り組む弁護士など

「旧統一教会は『教会改革』の方針を発表したが、過去の被害に対する言及が全くないなど信用できず、自浄作用は期待できない」

これに対し、政府は当初、憲法に定められた信教の自由を保障する観点から慎重な立場をとっていた。

国会内で開かれた野党の会合で文化庁の担当者は「旧統一教会の役職員が刑罰を受けた事案を承知しておらず『解散命令』の請求の要件を満たしていないと考えている」と述べた。

【Q】初の「質問権」行使へ至った経緯は?

【A】この問題や安倍元総理大臣の「国葬」などを背景に岸田内閣の支持率は下落。さらに、立憲民主党や共産党が、教団をめぐる問題を国会で追及する構えをみせた。

こうした中、去年10月17日に開かれた衆議院の予算委員会。

岸田首相「質問権」行使を表明

岸田総理大臣は、教団への解散命令請求を視野に宗教法人法に基づく「質問権」を行使することを表明した。

「宗教法人法に基づき『報告徴収』と『質問権』の行使に向けた手続きを進める必要があると考え、文部科学大臣に速やかに着手させる」

宗教法人に対する質問権の行使は、平成8年にこの規定ができて以来初めてとなる。

文部科学省は、専門家による会議を設置し、質問権の行使にあたっての基準をまとめた。

これを受けて文部科学省は11月、学識者や宗教団体の幹部などで構成する宗教法人審議会を開き、質問項目の案について諮問。

教団が持つ財産や収支、組織の運営などについての報告を求めるなどと説明し、その日のうちに審議会から「質問権」の行使は「相当」だとする答申が出された。

そして翌11月22日、文部科学省は教団に対し、法人の組織運営や収支、財産に関して報告を求める書類を送り、1回目の質問権を行使した。

【Q】「質問権」行使以後 どんな動きがあった?

文部科学省

【A】文部科学省は、これまでに質問権を7回にわたって行使し、▽組織運営や▽財産・収支、▽献金など、500あまりの項目について報告を求めた。

教団側の回答は、1回目の「質問権」に対しては段ボール8箱分に上ったが、最近はレターパックなどに収まるほどになってきていて、関係者によると、信教の自由などを理由に教団側が回答を拒否した項目が100以上あったという。

また文部科学省は▽旧統一教会と交渉してきた弁護士や▽被害を訴える元信者などへの聞き取りも続けていて、献金集めの手法など教団の実態について調査を進め、解散命令請求の要件にあたるかどうか、慎重に検討してきた。

【Q】「過料」求める通知 今後はどうなる?

【A】7日午後、文部科学省は、旧統一教会に対しこれまで質問権を7回行使し▽組織運営や▽献金など、500余りの項目について報告を求めてきたものの、100項目以上で回答を拒否しているとして、行政罰の過料を科すよう東京地方裁判所に郵送で通知した。

宗教法人法では、質問権の行使にあたり適切に回答しなかった場合は代表役員に対し10万円以下の過料を科すことができると定められていて、文部科学省は6日、宗教法人審議会で「違反の程度は軽微でない」として、過料を科すよう求める方針を示し、委員から「相当だ」という意見が出されていた。

今後は、東京地方裁判所が非公開の審理で教団に過料を科すことが妥当か判断することになる。過料が命じられた場合は不服を申し立てることができる。

一方、解散命令請求については、文部科学省は 質問権の行使に区切りをつけ、これまでの回答内容や元信者らへの聞き取りなどで積み上げた情報をもとに、請求の判断に向け、本格的な検討に入る方針だ。

【Q】旧統一教会の考えは?

旧統一教会の考えは

【A】教団は5日、ホームページで「当初から、質問権の行使は違法であり、回答する理由はないと考えてきたが、当法人のコンプライアンスや社会と国民に貢献できる公益法人としての歩みを正確に伝え、少しでも理解してもらうために、信者らのプライバシーおよび信教の自由などを守りつつ、質問に毎回、真摯(しんし)に回答してきた」と掲載した。

そのうえで「そもそも当法人が解散を命じられる事由はなく、過料は認められない」として、徹底的に争う考えを示している。

【Q】今回の「過料」手続きは解散命令請求を見据えたもの?

【A】それぞれ別の手続きだが、解散命令を請求する可能性も念頭に置いた対応だと思われる。

ある政府関係者は、「今後、解散命令請求を行った場合も想定して、これまでの教団側の対応を明らかにする狙いもある」とも話している。

今後、請求を行って裁判所に判断を委ねる場合も想定し、これまでの教団側の不適切な対応を明らかにするとともに、丁寧に手続きを踏んでいる姿勢を示すことも、狙いにあるものとみられる。

【Q】解散命令請求に至るとすればいつか?

【A】政府内で想定の時期がはっきりと決まっているわけではない。

ただ政権幹部の1人は「できるだけ早期に請求すべきだと考えている」と話している。

質問権の行使のほかにも、教団の被害者や弁護士らへの聞き取りなども通じ、請求に必要な証拠や材料は徐々にそろいつつあるという。

解散命令請求は組織性、悪質性、継続性が要件に

一方で、政府内には請求の要件としている、組織性、悪質性、継続性を完全に満たしているか、懐疑的な見方もあり、請求しても退けられるリスクがあるという懸念も出ている。

政府としては、積み上げてきた情報の精査を行い、さらに入念な証拠固めを続けながら請求に踏み切るかどうか慎重に見極めていく方針だ。        

政治部記者
今村 亜由美
2009年入局。文部科学省を担当。
政治部記者
清水 大志
2011年入局。初任地は徳島局。自民党・岸田派の担当などを経て官邸クラブに。