連立入りは?野党連携は? 玉木氏勝利 国民民主党代表選

代表の玉木雄一郎と代表代行の前原誠司が激突した国民民主党の代表選挙。目指すべき党の路線が最大の争点となった結果、与党との協調も排除しない玉木が野党連携の強化を訴えた前原に圧勝し、路線の継続が選択された。党内に分裂の懸念もくすぶるが、“ノーサイド”となるのか。与野党の選挙戦略などへの影響は?国民民主党の行く先を読み解く。
(鹿野耕平、阿部有起)

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“ノーサイド”

「ノーサイドだ。あらゆる力を結集していくことが重要だ」(玉木)

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9月2日、国会にほど近いホールで行われた国民民主党の代表選挙。
再選された玉木は記者会見で「ノーサイド」を強調した。
ラグビー用語で、試合が終わり敵も味方もないことを意味するこの言葉。政界でもよく使われるが、言葉どおりになるとは限らない。

結果は玉木圧勝

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与党との協調も排除しない玉木

7割を超えるポイントを獲得し、大差で再選を果たした玉木。
選挙戦では、党幹事長の榛葉賀津也ら執行部に加え、党を支援する自動車・電力など労働組合出身の議員の支持を固めていた。

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「今の路線が承認された。政策実現のため与野党を超えて協議・連携していくのがベースだ。与党に手柄を取られるとかいろんな批判もいただくが、何もしなくても何も変わらないので、やっぱり困っている人のために少しでも動いて成果を取っていくのもまた政治家として責任の果たし方ではないか」

記者会見では、党内融和を唱えた一方、引き続き政策実現のため、与党との協調も排除しない姿勢を示した。

野党連携の強化目指す前原

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一方、敗れた前原。非自民・非共産の枠組みで野党連携を強化し、与党と対じすべきだと主張し、選挙基盤が比較的弱い若手や公認候補予定者を中心に支持を得る戦いを展開していた。
「完敗で、潔く負けを認めなければならない。ノーサイドで党勢拡大のために頑張っていきたい」

再選された玉木に協力する考えを示したものの、「対案をまとめて与党と協議することはあり得ると思うが、それが野党分断や与党を利することがないようにしてもらえればと思う」とけん制することも忘れなかった。

意見の違い浮き彫りに

8月21日に告示された代表選挙。
5年あまりにわたり代表を務める玉木と、閣僚を含め政治経験が豊富な前原が激突する、まさに「横綱」どうしの争いとなり、激しい選挙戦を経て、党の路線をめぐる意見の違いが浮き彫りになった。

玉木は、結党の理念である「対決より解決」の政治を進めると主張。政策実現のためには、与党との協調も辞さない考えを強調した。みずからの路線への批判には、「自民党にすり寄っているのではなく、国民に寄り添っている」と反論した。

対する前原。「党のビジネスモデルを変えたい」と玉木路線からの転換を訴えた。立憲民主党と日本維新の会の橋渡し役を担うことに意欲を示し、野党で候補者調整をして衆議院選挙に臨むべきだと、「大きなかたまり論」を展開した。

路線対立激化

およそ2週間に及ぶ選挙戦では、次第に舌戦がヒートアップし互いを批判する場面も目立っていった。

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選挙戦中盤の8月25日。
インターネット番組で玉木は、前原が主張する「大きなかたまり論」について「具体像が全く見えない。『反自民・非共産』では、大事な政策で結局分かれ、いつまでも過半数に届かない見果てぬ夢だ」と痛烈に批判。
その後の街頭演説でも、2017年に当時、民進党代表だった前原が東京都知事の小池百合子と組んで失敗に終わった「希望の党騒動」などを念頭に「古いやり方に戻っても展望が開けない。新しいやり方が必要だ」と強調。二大政党でなく、穏健な多党制による政権交代が現実的だという認識を示した。

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これに対し、前原は、去年、大きな波紋を呼んだ国民民主党による政府の当初予算への賛成を持ち出した。
「当初予算に賛成することは政権の森羅万象に賛成することだ。われわれに投票してくれた人を愚弄するものだ」と指摘。玉木が主導した予算への賛成が今回の立候補のきっかけになったと明かした。
さらに「玉木個人商店からの脱却」を主張するとともに、政策実現のための与党との協調について「結果的に野党分断を呼び、自民党を利しているだけ」との批判を展開した。

党内では、選挙戦になったことについては評価する声が多かった。

「きちんとした論戦が行われ、無投票になるより良かった」党内)

しかし、路線対立に焦点があたり激しくなる舌戦に懸念の声も聞かれた。

「分裂しかねない」(党内)

「政策論議が見えず残念だ」(党内)

与党協調路線は加速するか

玉木の圧勝となった今回の代表選挙。与党との協調路線がさらに進むのか。

結果を受けて、党内からは次のような受け止めが聞かれた。

「政策実現を重視する玉木氏の路線が信任された」党内)

一方で、玉木を支持した議員からも懸念の声が出ている。

「政策実現を支持したのであり、与党との協調路線を強め、仮に連立政権入りなどということになれば大きな違和感がある。ついて行けないという議員が多いはずだ」(玉木支持の議員)

また、公認候補予定者からは、こうした本音も聞かれた。

「玉木さんは比例代表の票を増やせばいいと思っているかもしれないが、若手は小選挙区での勝利を目指して活動している。そこが見えないので、小選挙区で勝てるよう野党で協力しようという前原さんの主張にも一定の理解はできる」(公認候補予定者)

党内からは、激しい選挙戦を経て、党をまとめることが優先だとして次のような見方が出ている。

「与党に近い玉木さんでも、一気には動けないだろう」党内)

前原は動くか

玉木と同じく“ノーサイド”を主張する前原。側近議員はこう強調する。

「すぐさま党を出るようなことにはならない」(前原 側近議員)

一方で前原は、玉木が自民・公明両党との連立政権入りに動くような事態になれば「ノーサイドではなくなる」と周囲に漏らしている。
また、前原は選挙戦を通じて「維新の馬場さんとは数年前から勉強会をやっている。私に任せてほしい」と候補者調整に意欲を示していた。

立憲民主党と日本維新の会の橋渡し役を主張した経緯を踏まえ、党内には、ある見方もくすぶる。

「いずれは新党結成に動くのではないか」(党内)

支持者はどう見る

国民民主党の一般の支持者はどう見るのか。選挙期間中、街頭演説に来ていた人に聞いてみた。

「終わればノーサイドで落ち着くと信じている。今までと変わらず政策本位で与野党各党と協力していってほしい」(30代女性)

「玉木さん、前原さんがそれぞれ言っていることはどちらも正解で、それぞれの正義だと思う。でも極端すぎて、新代表が、敗れた方の意見を取り入れられるのかが心配になる」(20代男性)

「これまでも野党は大きなかたまりを作ったけど、長続きしなかったことをみんな覚えている。小さな政党なので、玉木さんが言うように自力をつける時だ」(50代女性)

「前原さんと同じように、去年、政府の当初予算に賛成した時は私も違和感があった。前原さんは政治家としての実績や経験があるので、玉木さんをしっかり支えてほしい」(40代男性)

連立政権入りは?野党連携は?

国民民主党の支持率は、NHKの世論調査では1%程度で推移している。

NHK世論調査/今年8月

しかし、今回の代表選挙は、与党との協調か、野党との連携強化かという、根本とも言える路線が問われ、与野党双方が大きな関心を寄せた。

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代表選挙に玉木と前原が立候補を届け出た翌日、立憲民主党の幹事長・岡田克也は「立憲民主党と国民民主党が力を合わせ、大きなかたまりをつくれば、政権交代可能な政治に向けて力強い第一歩になる。玉木氏には代表選挙を通じてそういう考え方に変えてもらいたい」と注文をつけた。他党への異例とも言える発言だった。

結果を受けて、岡田は「近い関係で協力できるようになることを強く希望する。玉木氏は『国民民主党を強くしていく』と強調しているので、あくまで野党の立場で努力すると理解している」と述べた。

別の立憲民主党議員は、こう本音を漏らした。

「前原さんの方がよかった。玉木さんの再選で、次の衆議院選挙に向けた候補者調整など野党連携は進みにくくなる。野党の分断を招き、与党を利することになりかねない」(立民議員)

また、日本維新の会の代表、馬場伸幸は「国民民主党として今の路線を進めていくことに賛同した結果だろう。政策的には維新の会と近い政党であることは間違いないので、これからも是々非々でやっていく」と取材に答えた。

共産党の書記局長、小池晃は「国民民主党は岸田政権の補完勢力だと言ってきたが、ますますそういう方向が強まっていくと思っている。共闘の対象とは考えていないので、次の衆議院選挙の影響はない」と述べた。

一方で自民党幹部は、内閣改造を控える中、こう口にしていた。

「岸田総理も代表選挙の行方を見ている」(自民幹部)

衆参あわせて21人の国民民主党。

自民党議員の1人はこう話す。

「国民民主の魅力は参議院だ。こっちに付いてくれればありがたい。連立政権入りも選択肢の1つだ。内閣改造で閣僚ポストを1つ渡してもいい。公明党へのけん制にもなる」(自民議員)

国民民主党は11人の参議院議員を抱え、118人いる自民党の参議院議員と合わせれば、公明党抜きでも参議院で過半数を確保することができるからだ。
しかも、民間労組の支持を受ける国民民主党は、経済・エネルギー・安全保障などの政策で自民党と親和性が高く、組合票も期待できると見る向きもある。さらに憲法改正にも積極的だ。

自民党の幹事長、茂木敏充は、次のように述べた。

「まずは玉木氏にお祝いを申し上げたい。これまでも国民民主党とは経済対策や安全保障など政策面で考えが一致することが多かったと思っている。玉木氏は『政策を前に進めるために協力できることは協力したい』という話なので、今後のことについては改めて考えてみたい」

また、公明党の代表、山口那津男は「これまで個別の政策について申し入れを受けて検討した経緯もあったので、これからも建設的な提案があれば謙虚に承って協議に臨みたい」と述べたが、自民党内から国民民主党が参加した新たな連立政権を目指す声が出ていることについては「そうした話はどこからも全く聞いていない」と突き放した。

国民民主党の支持母体である連合からは、次のような声が強い。

「玉木氏が言う『与党とも政策協議する』という話と、連立入りするということは全然違う話だ。そんな簡単なことではない。産別の労働組合が賛成するとは思えない」(連合内)

総理大臣の岸田文雄は、4日夜、記者団から、この日行った与党党首会談で国民民主党との連立について話題が出たか問われ、「全く出ていない。きょうはとにかく自民・公明でともにしっかりと政策を前に進めていこうという大きな合意に至った。自公の協力の実をあげるべく努力していきたい」と述べた。また、国民民主党との連立の可能性について自身の考えを問われたのに対し「いま申し上げたとおりだ」と述べるにとどめた。

どこへ行く国民民主党

玉木は、再選後の記者会見で、自民・公明両党の連立政権に加わる可能性を問われ、次のように否定した。
「そういう話は一切ない。連立を組む時は最低限2つの条件を満たさないといけない。政策がある程度の幅の中で一致すること。もう1つは選挙区調整がきちんとできることで、その意味では今どの党とも選挙区がダブっているから、今わが党が連立をともにできる政党は存在しない。私が閣僚になることもない」

ただ、玉木が「今の時点で連立を組める政党はない」と繰り返したことに、ある立憲民主党の幹部は警戒感を示した。

「あしたには変わっているかもしれない」(立民幹部)

一方、玉木は、前原が訴えた野党間の候補者調整については、消極的な姿勢を示した。
「前原候補からもそういうご提案をいただいたので話はしてみようと思うが、なかなか正直難しい。だったらうちが譲れという結論しかないので、実際難しいのではないか」

国民民主党の行く先は、次の衆議院選挙に向けた与野党の戦略にも影響を与える可能性がある。小さな党の熱い戦いが、今後の政界を左右する前兆になるかもしれない。

(文中敬称略)

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政治部記者
鹿野 耕平
2014年入局。津局、名古屋局を経て政治部。去年から野党クラブ所属。趣味は山登り。
政治部記者
阿部 有起
2015年入局。鹿児島局、福岡局を経て2021年から政治部。今夏から野党クラブ所属。趣味はツーリング。