みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

ステージ4の乳がん患者の女性40歳が、さまざまな偏見やつらさを抱えている人のことを知りたいとVR空間に飛び込んでみたら…生きていてよかったと思った/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後

現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。

参加者の1人で、乳がん患者のルーさん(40歳/仮名)。5年前にステージ4で、5年生存率は3割だと医師から告知を受けました。周囲からの「かわいそう」といった言動を受け、自分がマイノリティーであることを意識し、誰かと交流したいと番組の出演に応募しました。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。

(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 伊豫部紀子)

【関連番組】 NHKプラスで12/3(日) 午前1:20 まで見逃し配信👇

がんを患って…「かわいそう」って偏見じゃないかと感じるように

『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。乳がん患者のルーさん。がんと告知されてからの日々について話してもらいました。

ルーさん

「がんを告知されたのは5年前です。30代で病気にかかったのですが、年齢的に日常生活でも、また患者界隈でも、どこにも似たような人がいない生活を送ってきました。もともと爪がすごく強かったんですが乾燥してボロボロになってきちゃうんですよね。髪ももう生えないですし、本当に気持ちが、もう、うんざりしています。ただ、正直そこまで落ち込んでいない、というか、そんな暇が無かった、というところもあって。告知の前後に母親が他界したり、自身が流産したりとか、いろいろ生き死ににまつわることがたまたま立て込んで続いていたので。おなかの赤ちゃんも死ぬんだったら自分の死もどうしようもできないんじゃないかなって心の半分では思ってたんです」

ルーさん

「在宅で仕事もしてますし、お出かけしたり友達と遊んだりっていうのは全然平気で。かといって運動してる時とかも、動くとやっぱウィッグ取れちゃったりするんですよね。そうするとやっぱりみんなすごい『あーかわいそう』みたいな。そういう言葉を聞いていると、『かわいそうって偏見かもしれない』って思うようになったんですよね。自分ががんになってから、病人というよりマイノリティーであることを意識するようになって。自分はそうじゃないから相手がかわいそうということですし。そうした言葉にモヤモヤを感じるようになりました」

現在、ピラティスやアートなど自分の好きなことに挑戦していますが、そこでもモヤモヤを感じることがあり、がんを患っていることはふだん言わないようになったそうです。

ルーさん

「アートなどの創作活動で自己表現することにも挑戦していたんですが、ちょっと体調崩したりとか、周りのサポートが必要になる時があるんですけど、それに対する攻撃っていうのが、なんか大きい気がするんですよね。『病気だからって何でもかわいそうに思ってくれるなんて思ったら間違いだよ』とか『あっ切り札出したね、病気のことを持ち込むとそれずるいよ』みたいな。いや~なんでそういうこと言われるのかなぁって。そんなことから、今では病気であることを言わない生活を送っています。だから、ほかにマイノリティーを意識されている方と、日々のモヤモヤや、息抜き、マイノリティーならではの生き抜き方について、話し合ってみたいと思って番組の出演募集に投稿をしました」

VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―

番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。ルーさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?

ルーさん

「ゲームは苦手なんですけど、月面を見たときは本当に感動しました。こんなキレイな世界が用意されているだなんて、生きていてよかったなぁと。また4人での交流もすごく印象的でした。途中でトランスジェンダー女性のカモミールさんが『ネイルが大切なもの』って話していたところがあったんですけど、すごい感動して…。『自分ばっかりつらいと思ってんじゃねーよ』みたいに言われることもあったから、あんまり自分から爪の話を言わないようにしてたけど、そんな病気とは関係なく、私と同じように『大事だよね』って思っている人がいるんだーみたいな。すごいうれしかったんです」

それぞれの背景や素性を徐々に知りながら、「偏見」について語り合ったルーさんたち。特に印象的だったのは生活保護を受給するドーアツさんだったと話します。

ルーさん

「1週目の収録のとき、ドーアツさんと在日韓国人3世のウテリーさんがすれ違いを起こしていたんですけど。『同調圧力に屈したくない』っていうドーアツさんの気持ちのものすごいエネルギー、その一方で途中で無言になったり不機嫌さを表すっていうことも私にとってはそれがすごい圧力になるんですよね、聞いててつらかったです。その反対にウテリーさんは、ひとりひとりをすくい上げたい、っていう熱意がすごくて私なんかはそれもまた『アツいな~』と少し引いた目で見ていました」

ルーさん

「そんなことを思っていた自分が、ドーアツさんが『自分よりみんなのほうが恵まれている』とおっしゃったときに、すごく感じることがあって。がんになってからいろいろな思いを味わってきた中でわかったのは、結局自分がどう生きようが他の人は関係ないし、好きなように生きていくしかないんだなってことでした。私には私の苦しみがあるし、ドーアツさんにはドーアツさんの苦しみがある。ここにいる4人は、4人の苦しみがある。人と比べちゃうと本当にキリがないし、めちゃくちゃ不毛なんだってことを思っていたら、行儀の悪い私が出てしまってVRの世界で思わずイヤな自分を出してしまったのではないかな…とへこみました」

ルーさん

「でも参加してみて、本当によかったです。自分は命の課題があるので、参加するまでは、誰かに『電車で隣に座った人が私のように病気でつらい人かもしれないよ』と言いたいとばかり考えていました。でも、私の隣に座った人もまた苦しみを抱えているかもしれないということには思い至れていなかったことに気づかされました。VR空間の渋谷や月世界がどこまでもすてきに細部まで作りこまれていて、こんな世界を味わうことができて、ありがとうという気持ちでいっぱいです」

他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。

【関連番組】 NHKプラスで12/3(日) 午前1:20 まで見逃し配信👇

この記事のコメント投稿フォームから番組への感想やルーさんへのコメントをお待ちしています。

みんなのコメント(1件)

感想
鯛焼き
60代 男性
2023年11月28日
「ルー」さんが癌と告知されて以降の、お母様とのお別れ、そして流産。壮絶な歩みであることがわかりました。医師だった義父から、癌という病気のことを聞くことがありましたが、「ルー」さんのお話を聞くことで自分事として考えることができました。ありがとうございます。今回の放送「偏見とどう付き合う?」は、すれ違いや沈黙があったためか、皆様の交流が深まったように感じます。