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新型コロナやがん治療 情報を見極める物差しに “メディアドクター指標”

新型コロナワクチンを接種するか、否か。そのがん治療を受けるか、否か。
数字や専門用語が並ぶ医療の情報は理解するだけでも一苦労ですが、最後は自分自身で選択しなければいけません。

インターネットや本などでたくさんの情報を集めても、どれを信じたらいいのか分からなくなる人も少なくないでしょう。

あふれる医療情報の中から、自分自身の判断のために取り入れていいものはどれなのか。
それを見極める物差しとして、世界各国の研究者や医師などが提案したものがあります。
「メディアドクター指標」と呼ばれる基準です。

海外の活動例を取り入れ、10個の指標を作成した、メディアドクター研究会の代表、帝京大学の渡邊清高医師に話を聞きました。

【関連番組】
フェイク・バスターズ「“出版の自由”と医療情報」
8月5日(金)夜10時放送(総合テレビ)

「メディアドクター指標」って何?

メディアドクターとは、医療や健康に関する報道が、患者や市民にとって適切な情報提供になっているかを評価し、質を高めていくための取り組みです。

オーストラリアで始まり、アメリカやドイツなどに広がった後、2007年から日本でも活動が開始。「メディアドクター研究会」として、医師や研究者、医療ジャーナリスト、図書館の司書など120人以上が参加して、新聞やインターネット、テレビなどで発信された医療情報を評価しています。

メディアドクター研究会 活動の様子

これまで、子宮頸がんを予防するための「HPVワクチン」、「出生前診断」、「インフルエンザ治療薬」、「がんゲノム医療」、「新型コロナウイルス」など世間で大きく取り上げられ、さまざまな臆測や誤解が広がった内容について、報道の背景や課題、適切な情報発信に向けた提案、などについて議論をしてきました。

そしてこの研究会で、“評価の物差し”として使われているのが「メディアドクター指標」です。
海外の活動例を取り入れ、10個の指標にまとめた、帝京大学医学部の腫瘍内科医・渡邊清高さんは、メディアドクター指標の一つ一つが、ふだん私たちが医療情報を見極める上で注意すべきポイントになるといいます。

渡邊清高さん
渡邊清高さん 帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授

「よく患者さんやご家族から、『本にこんなことが書かれていた。自分に当てはまりますか』『今の治療ではなく、この記事に書いてある治療はどうですか』という質問を受けることがあります。しかし医療や健康を扱う記事の場合、その情報に書かれている内容が、ご自身に当てはまるかどうかということは、慎重に判断する必要があります。
何らかの治療を受けるときや予防をしたいとき、医療や健康での『意思決定』に役に立つ情報を見極めるためには、情報の質や中身についてしっかり吟味したうえで読み解いて、それをご自身の行動に取り入れてよいのかどうか、ということをしっかり判断するための物差しが必要です。『メディアドクター指標』は、もともと医療や健康に関する記事を評価するために開発された指標ですが、情報を見極めるときにもこの指標を活用していただけると考えています」

①利用可能性:どのような人の利用に適しているか、正確な情報を提供していますか?

「利用可能性」とは、その医療情報がどういう人に当てはまり、誰がその薬や治療を使えるのかについて適切な情報が書かれているかを見る項目です。

例えば、「Aさんが○○という治療でがんが治った」「○○という物質で、がん細胞の数が減った」という記述があったとします。
このとき、「○○を使えばがんが治る」と考えるのは注意が必要です。
薬や治療として手に入るものなのか、そして「どんな人に」「どんな場合に」効果が期待できるのかまで確認することで、それが自分自身や大切な人に当てはまる情報なのかを一度立ち止まって考える機会につながります。

②新規性: どのような点が新しいか、正確な情報を提供していますか?

「新規性」は文字通り、内容が最新の情報に基づいているか、これまでと比べてどんな点が新しいか、について確認する項目です。

名古屋市 志段味図書館

例えば、図書館ではがんに関する書籍について、本の背ラベルに発行年を記載したり、一定期間たったものは目立つところには置かないなどの工夫をしているところもあります。

つまり医療は日々研究や治療開発が進んでいて、時間がたっていくと、かつて一般的だった治療の内容や知識が更新されていることがあります。

記事の場合は書かれた日付、本の場合は発行年月日を見たり、増刷された場合は内容がいつ時点のものか注意して見たりするなどして、情報が古くなっていないかを確認しましょう。

③代替性:既存の代替できる選択肢と比較していますか?

「代替性」は他の選択肢についても記載があるかを見るものです。

ある特定の治療や健康法を勧めて、「これさえやれば○○が治る」「○○にならない(予防できる)」という記述は注意が必要です。
同じ病名や症状であっても、患者の状態などで治療の選択肢が変わってくることがあるからです。

これを食べれば予防できる、これをやれば治るというように、分かりやすい情報であればあるほど、他にもあるさまざまな選択肢を切り捨てている可能性があるということも覚えておきましょう。良いことばかり書いてある内容には要注意。他の方法と比較することも大切です。

④あおり・病気づくり: あおりや病気をつくり出す内容になっていませんか?

「あおり・病気づくり」とは、本来深刻な病気ではないのに、危険な病気だというふうにあおって、何らかの医療や健康行動に誘導しようとしていないかを確認する項目です。

本来は病気とは言えない「リスク」や「現象」に“病名”がつき、あたかも深刻な状態であるかのように扱われることがあります。

人々の注意や関心を呼び起こしたいときには必要な場合もありますが、一方で、過度に不安をあおったり、本来必要のない医療や健康ビジネスに誘導しようとするケースがあり、メディアドクターの活動として、こうしたことが起きないよう警鐘を鳴らすためのものだといいます。

⑤科学的根拠:科学的根拠の質を踏まえて書かれていますか?

医療情報において「科学的根拠(エビデンス)」はとても重要だとよく耳にする一方、難しく感じる言葉でもあります。

渡邊清高さん

渡邊さんは、この科学的根拠について、言い換えれば、「これから医療を受けようとする他の人にも“同じ結果”がどれくらい見込めるかをはかる物差し」だといいます。

渡邊清高さん 帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授

「例えばワクチンを1人が打って、効果があった、なかったという報告があっても、次に他の人で同じ効果が得られるかは分かりません。でも、例えば同じコミュニティーに属する人のうち、10万人接種した人と10万人接種していない人を比較して、接種した人のほうが重症になる方の割合が減った、発症する割合が減ったということであれば、同じ結果がこれからワクチンを接種しようとしている別の方に当てはまる可能性が高くなるわけなんです。
さらに、国内でも海外でも“同様の結果”が複数の論文で報告されれば、当てはまる可能性がさらに高くなるだろうと判断する材料になります。このように、臨床試験や調査などの研究によって、これから医療を受けようとする他の人にも当てはまるかを、検証した結果が何重にも積み上げられたものが『科学的根拠の質が高い』と言われるものです」

メディアドクターの評価の中では、科学的根拠の項目を見る上で、主に3つの段階があります。

▼情報の根拠となる引用元があるか
▼引用元の研究がどれほど検証されたものか(科学的根拠の質の高い研究か)
▼研究結果・数字やデータの解釈は適切か(効果が適切に定量化されているか)

記事や本を読むとき、筆者の主張が「私はこう思う」という価値観や、「○人を診察した私の経験では」という経験談だけでは、その内容が他にも当てはまる可能性は高いとは言えず、科学的根拠の質は低いと考えられます。
その主張の裏付けとなる証拠として、臨床試験などの研究や論文などの根拠が示されているかを確認しましょう。

その上で、「ある研究では、○○人中□□人に効果があった」というように、一見客観的なデータが示されているように見えるものでも、科学的な根拠が不十分な例があります。

一つは、引用されている研究自体に検証が不十分な点がある場合です。国内外で数多くの研究が行われ、さまざまな論文が書かれているため、単に論文が示されているだけでは根拠が十分あるとは言えません。

ポイントの1つが、「第三者の厳しい目を通っているか」という点です。医師や研究者などが論文を書くと、まず「学会誌」や「医学雑誌」などに投稿して審査を受けます。これは「査読」と呼ばれるもので、研究の内容に新しさはあるか、内容に矛盾がないか、評価や実証方法は適切か、得られた結論は妥当かなどを、同じ分野の複数の専門家が確認します。
そして、その査読のプロセスを経て受理されたものだけが掲載されるため、査読を受けていないものに比べて「信頼性が高い」といえます。

メディアドクター研究会では、引用されている論文を、日本の国立情報学研究所が提供する論文データベース「CiNii Research」や、米国立医学図書館が提供する医学系データベース「PubMed」、米国Google社による学術情報検索サイト「Google Scholar」などで探して、「Peer Reviewed(査読)」と書かれているかを確認するなど、信頼できる情報源の活用方法を紹介しています。
難しい場合は、地域や病院内にある図書館の「司書」に相談してみるのも一つの手です。

⑥効果の定量化:効果を適切に定量化していますか?

⑤「科学的根拠」とも関わりますが、論文は引用していても、数字やデータを適切に解釈しているかという点も注意が必要だといいます。

渡邊清高さん 帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授

「例えば『7割の人に効果がある』という数字は、見方を変えれば『3割には効かない』というふうに、違う意図の文章が書けてしまうわけなんです。他にも『2倍効く』といっても、1%が2%に改善した、というのと、もともと20%だったのが40%になったというのでは、意味合いも大きく異なります。書き手だけでなく、受け手がもともと持っている考え方で、同じ数字でも受ける印象が大きく変わることもあります。簡単なことではないのですが、公的機関などの情報源に当たったり、信頼できる複数の情報源に当たったりしながら、その情報源が数字をどう解釈しているかなどを見比べながら、考えていただくのがとても大事なプロセスですし、医学的に難しいことで判断に迷うことは、医師や相談窓口に遠慮なく相談するのも重要です」

⑦弊害:弊害について、正確でバランスのとれた情報を提供していますか?

「弊害」の項目は、副作用などのリスクを適切に情報提供しているかを確認します。

リスクや不利益に関する情報は、それだけに目が行きがちになることがあります。一方で、リスクを十分伝えないで、効果だけ、よいことばかりを強調して伝えているケースもあります。医療や健康について、自分自身が、納得して必要な行動をとるには、バランスよく情報を得る必要があります。記述がどちらか一方に偏っていないかを確認しながら、メリットとデメリットの情報をどちらも得た上で、判断をするように心がけましょう。

⑧コスト:入手・利用などに必要な費用について述べていますか?

「コスト」は、医療や薬にかかる費用について、適切に情報提供されているかを確認する項目です。

医療や健康について、何らかの決断をするときには、費用についての情報も大切です。負担する費用について、記載されているかを確認します。

科学的に十分に検証された根拠をもとに、現時点で最もお勧めできる治療法は「標準治療」と呼ばれます。日本では、多くの標準治療には公的医療保険が適用されていて、自己負担が比較的少なく、質の高い医療を受けることができるようになっています。 とはいえ、高額な治療や薬剤も多く、複数の治療から選択するときには、コストも重要な側面といえます。

一方、科学的な根拠がまだ十分でないものは、臨床試験などで効果や安全性について評価が必要です。「自由診療」と呼ばれ、全額自己負担で、効果や安全性について確立していない診療がなされていることがあります。「高いお金を払うほどいい治療が受けられる」と思いがちですが、費用に関する記載についても注意しましょう。

⑨情報源と利益相反: 情報源・研究開発の主体(研究機関・研究者など)・資金源など、利益相反について読者が判断できるように述べていますか?

「情報源と利益相反」の項目は、筆者にとって都合のいい情報源や、筆者や関係者への利益誘導につながる要素について注目するポイントです。

医療や健康に関する情報を伝える場合に、内容が偏った見解や独りよがりの主張ではなく、独立した複数の情報源から発信されてるかどうかに注目する必要があります。
また、ある薬に効果があるとする研究結果を発表したのが、実はその薬を販売する製薬メーカーだったり、製薬メーカーから多額のお金を受け取っていた研究者だったりするケースもあります。このように取り扱う内容に影響を与える可能性のある立場や利害関係がある場合、その内容が適切に扱われているかを注意しながら読むことも重要なポイントです。

⑩見出しの適切性:見出しは、内容を適切に分かりやすく要約していますか?

最後の項目は、日本独自の指標で「見出しの適切性」です。インターネットの記事や書籍などのタイトルが、目を引く極端な内容になっていないかに注目します。

特にネット記事については、タイトル(見出し)では極端なリスクやメリットについての記載があることがあり、本文を読まずにタイトルだけで「分かった気になってしまう」「印象を植え付けられてしまう」ことに注意が必要です。
見出しに書かれていることと、実際の内容が違うこともありますので、本文を確認した上で、冷静に文章の中身を読むように心がけましょう。

日々、腫瘍内科医として、がんを患う当事者やご家族と接している渡邊さん。
診察室の外に数多くあふれる医療情報と触れる中で、心に留めておいてほしいことがあるといいます。

渡邊清高さん 帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授

「書籍やネットの情報にも共通していることかもしれませんが、分かりやすい情報が、必ずしも科学的根拠が十分な情報とは限らないですし、中には注意が必要な情報も含まれるということは、意識をしておく必要があると思います。信頼できる複数の情報源を持っていただいて、ご自身の健康や医療上の判断に役立てられるかどうかということを、冷静に判断していただくというように、うまく情報を吟味して活用していただいて、医師や相談できる人のサポートも得ながら、振り回されることがないようにしていただくのが大切です」

担当 藤松翔太郎ディレクターの
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この記事の執筆者

首都圏局 ディレクター
藤松 翔太郎

「#がんの誤解」「みんなのネット社会」担当。
2012年入局、宮城・福島で勤務し津波・原発事故の取材を行う。その後、クローズアップ現代、NHKスペシャルなどを担当後、「フェイク・バスターズ」「1ミリ革命」を立ち上げ。継続取材テーマ(がん/フェイク情報/原発事故/性教育/子ども)

みんなのコメント(3件)

感想
40代 男性
2022年8月5日
癌が治るとか断定的な情報を与えるのは怪しいと感じます。私がコロナに関して私が読んだ本はコロナに罹らない方法や罹っても必ず治るという内容ではなく、コロナ対策が社会を疲弊させた側面や生命至上主義になり人間としての誇りや楽しみを奪われたことへの警鐘を鳴らす内容でした。その本を読んで私は対策しない人を差別し村八分にする社会は危険だと感じコロナを恐れず楽しく生活しようと考えてます。
感想
やま
30代 男性
2022年8月5日
医師です。よくぞこのような放送をしてくれました!この特集だけでも受信料払い続ける価値がある。再放送し続けてほしい。
感想
ペンギン
40代 女性
2022年8月5日
友人が反ワクチンを支持していて、SNSにも投稿しており、付き合いをやめようかとまで悩んでいます

統計の読み方が違うんじゃないかな?と示唆しても聞く耳を持ちません

友達を失うのは大変残念ですが、このまま連絡するのをやめようと思っています