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国土の約4分の1に爆発物が・・・ ウクライナ“地雷除去”の最前線

「あと30年」。
ウクライナに残る地雷や弾薬など、爆発物を除去するのに必要とされる時間です。軍事侵攻が長期化する中、最前線の戦闘だけでなく、ロシア軍の占領から解放された町や村でも、ロシア軍が残した爆発物との戦いが続けられています。
その除去を担う、ウクライナ国家非常事態庁(SESU) の専門職員に話を聞くことができました。
(社会番組部ディレクター 中川雄一朗)

暮らしの再建を阻む ロシアが残した地雷

ロマン・シュティロさん

ロマン・シュティロさん、43歳。2006年から爆発物除去の仕事をしているスペシャリストです。ロマンさんがいま活動の拠点としているのは、去年11月にロシア軍から解放された南部ヘルソン州の村。ロシア軍が撤退する際、家屋や農場などに残した爆発物の除去を、約40人の職員とともに行っています。

ウクライナでは、国土のおよそ4分の1にあたる16万平方メートルの土地が地雷などによって汚染されていると言われています。その周辺には500万人が暮らしているとも言われ、人々が安心して復興へと歩み出すためにも、地雷除去は欠かせないことだといいます。

ロマンさん

「住民が破壊された町に戻ると、家、土地、庭が地雷で埋まっているという問題に直面します。私たちは通報を受け、現場に出向き、調査します。私たちが1日に1〜4軒の家屋を調べて処理を終えることで、ようやく住民たちに居住許可を出せるのです。また、ほとんどの畑は地雷だらけですので、農家は種をまくことができません。これは非常に大きな問題です」

命がけの爆発物除去「3人の仲間が命を落とした」

ロマンさん

「(除去の)最初のステップは、目視で確認したり、金属探知機を使ったりして、地雷や爆弾を発見することです。見つかったら、その場で破壊するか、ほかの場所に持って行って破壊します。

爆発物のほとんどは、「KOBE 3B30」というクラスター弾です。地面に落ちていて、人が触れたり、車や人が(上を)通ったりすると爆発します。ほかにも「Pom-2」、「Pom-3」という対人地雷では、16メートル離れた人の足取りを検知して爆発します。そのため、人は地雷に気づきません。

対人地雷や対戦車地雷、不発弾やトリップワイヤーなど、さまざまな種類の爆発物の存在があります。私のチームはすでに2,000個を破壊しましたが、まだ2,000~3,000個が残っています」

(左)ロシア軍が残したクラスター弾 「KOBE 3B30」と(右)対人地雷「Pom-2」(写真提供:ロマンさん)

さまざまな爆発物を処理する際に障害となるのが、ロシア兵たちが撤退の際に残していったトラップです。屋外だけでなく、家屋の中に手りゅう弾が仕掛けられていることもあります。こうしたトラップで作業が妨害される上、爆発で負傷、死亡する職員もいて、ロマンさんのチームだけで、これまでに9人が負傷し、3人が命を落としました。

家屋の中に仕掛けられたトラップ(写真提供:ロマンさん)
ロマンさん

「職員たちには、『恐怖を感じなければ、待っているのは死だ』と言っています。非常に危険な作業なので、常に恐怖を感じ、爆発物のひとつひとつに細心の注意を払わなければならないのです」

復興へと進むために “地雷除去”は使命

常に危険と隣り合わせの仕事に、ロマンさんの家族は、複雑な思いを抱いていると言います。

ロマンさん

「妻は、私の仕事が復興のために不可欠だと理解してくれていますが、私に引退してほしいと言います。

毎日、妻は私にこう言うのです。『生きて帰ると約束して』と。私は『約束する』と返事をします。(前線で)戦っている人、地雷除去をしている人、電気やガスの修理をしている人。この戦争では、誰もが自分の仕事、自分の使命を持っています」

いまSESUでは、膨大な地雷を除去するために職員の数を増やそうとしています。未経験の人でも採用し、特別な訓練を行うことで、地雷との長い戦いに備えようとしています。

ロマンさん

「建築やガス、林業、警察官など、さまざまな職種の人が応募してきて、面接をします。命や健康を脅かす大変な仕事だと伝えると、納得してくれる人もいれば、そうでない人もいます。彼らは、特別な施設で1か間の訓練を受け、その後、私のところでさらに1か月間訓練して、テストを行います。そこで合格するとようやく地雷除去に携わることができる」

日本は最新の地雷探知機を供与

日本政府は、JICA=国際協力機構を通じて、除去作業への支援を行うことになっています。JICAは、これまでラオスやカンボジアなどで過去の内戦で設置された地雷除去の支援を行ってきた経験があり、蓄積されたノウハウを生かしていくと言います。
4月下旬には、東北大学が開発した「ALIS」という最新の日本製の地雷探知機4台をウクライナ側に供与しました。

1月にJICAがSESUの職員をカンボジアに招き、ALISを使った研修を行った(写真提供:JICA)

取材の最後に、日本に何かできることはあるのかと聞きました。

ロマンさん

「日本には優れた最新の地雷探知機があります。私たちにはそれが必要です。私たちの地雷探知機では、ロシアの地雷を感知できないことがあります。残念ながら、多くの地雷探知機が故障し、地雷に当たってしまいます。すると探知機は減っていき、人が増えても地雷探知機の数が足らない状況なのです。

(日本のみなさんには)ウクライナで起きていることを世界に見てもらい、ウクライナ人にとって、地雷除去がどれだけ重要で、どれだけ困難なことなのかを理解してもらいたいです」

みんなのコメント(3件)

質問
わんわんさん
その他
2024年3月13日
危ない
提言
栗きんとん
50代 男性
2023年7月12日
日本は最大限に地雷除去 インフラ整備などあらゆる助けになることを迅速に対応する必要がある
それは数年後の自国の事と考え今すぐ行動する事を強く願う
感想
かに
40代 男性
2023年7月8日
「家屋の中に手りゅう弾を使用したトラップが仕掛けられている」という部分を読んでゾッとしました。避難先から戻ってきた人々、地雷処理に関わる人々まで狙うというのは、ウクライナに関係する全てに対する強い憎しみが現れているような…。