“病院が次々と破壊されている”【ザポリージャ州立医大】
WHO=世界保健機関によると、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで、医療施設や救急車などに対する攻撃はこれまでに180回。73人が亡くなり、52人がけがをしたということです(今月2日時点)。
マリウポリなど激戦地からの避難者が集まる南東部のザポリージャ州で、負傷者の治療にあたる州立医大が、現地の切迫した医療の状況、そして、ある日本人医師への感謝を語りました。
学生寮はマリウポリからの避難者でいっぱいに
今回、オンラインで取材に応じてくれたザポリージャ州立医大。1903年に前身となる教育機関が設立されて以来100年を超える歴史があり、医学部や薬学部などの学部があるほか、集中治療室など医療施設も兼ね備えています。現在、外科や神経外科などの医師ら約800人が所属するほか、約1万3千人の学生が在籍。医師たちは、大学に勤める傍ら、近隣の病院でも働いています。
学長を補佐する立場で大学病院の運営にあたるナターリャ・ピドコヴィッチさん。激しい戦闘が続く東部や北部からザポリージャに逃れてきた人はこれまでに11万人を超え、州立医大の寮の1つは、マリウポリからの避難者でいっぱいになったといいます。
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ナターリャさん
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「医師たちは(ロシアによる軍事侵攻が始まった)2月24日から病院に住んでいるといっても過言ではありません。そこで治療し、そこで寝て、休みなく働いています。
戦場から多くの負傷者が来て、彼らは常に治療を必要としています。手足の負傷がとても多いです。お腹や胸、顔や頭の負傷…、ここにはあらゆる臓器の負傷があります。子供を含めて手足の切断をせざるを得ない人もいます。銃撃による負傷もあります。市民が意図的に狙われて撃たれるケースもとても多いです」
さらに、ナターリャさんは、病院が次々と破壊されていると、切迫した実態を訴えました。
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ナターリャさん
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「戦いがあった町や占領された町では病院が破壊されています。地雷が仕掛けられている病院もたくさんあります。医者や患者が捕虜になった病院もたくさんあります。ロシア軍はその病院を自らの軍隊病院にしたり、破壊したりしました。そのため、市民のための医療機関がとても不足しています。ザポリージャのように避難民が多い町は特にその不足を感じます」
ある日本人医師への感謝
災害医療や軍事医療が専門のオレフ・リョヴキン准教授は、ある日本人の医師への感謝を口にしました。
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オレフさん
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「モンマ先生には、とても感謝しています」
救急救命医の門馬秀介さん。国際NGO「国境なき医師団」の一員として、3月からウクライナ国内で支援にあたり、先月中旬、帰国しました。
門馬医師たちが支援のために訪れたのが、ザポリージャ州立医大。多数のけが人が一斉に搬送された場合の対処法、「マス・カジュアリティ・プラン」とよばれる研修を行いました。けがの程度によって優先順位をつけて治療するトリアージのやり方などを指導したのです。
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オレフさん
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「それはとても効果のある、タイムリーな訓練でした。これからザポリージャやその周辺で負傷者が増えてしまうことを恐れて、現地の病院はその状況に対応し、より多くの被害者を治療できるようにしないといけません。このようなトレーニングが必要なのは言うまでもないです。
モンマ先生は、診断を下すのに時間を無駄にしないようにと強調しました。『医者としての経験は、いったん忘れなさい。判断をするのに数秒しかないのだから』と。彼は、とても暖かい雰囲気で、より多くの負傷者を助けるためにはどうすればいいか、一生懸命教えてくれました」
“薬や医療器具の支援を”
いま、ザポリージャ州立医大では、市民を対象にした医療訓練を毎日行っているといいます。負傷者への応急手当の仕方などを教え、これまで訓練に参加した市民は1500人に上ります。
また、学生たちも、避難者を受け入れるキャンプを中心に、注射や点滴、血圧測定を行うなど、医療ボランティアとして活動しているといいます。
いま、現地ではどのような支援が求められているのか。ナターリャさんは、最後に次のように訴えました。
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ナターリャさん
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「薬や医療器具が足りません。今は戦闘による負傷が最も多く、主な死因になっているのは大量出血です。止血帯などは足りなくなることが多いです。消毒用品も足りていません。また、呼吸困難になる患者も多く、その治療に使える医療器具なども必要です。抗生物質や点滴なども需要がありますが、あらゆる種類の薬が必要です。全部必要です。今はボランティアができる限りのものをヨーロッパで買って、ここで提供している状態なのです。
日本の皆さんはウクライナ支援のために募金していると聞いてとても感動しました。ウクライナ国旗の色のマスクなどをつけているのも感動しました。日本からの支援には感謝してもしきれません」