みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

性的指向・性自認をカミングアウトしたときに”うれしかった言葉”

「自分のセクシュアリティーについてポジティブになれたきっかけや思いを共有したい」

19歳のリーさん(仮名)が『虹クロ』(Eテレ 毎月第1火曜 午後8時~)に寄せてくれた声です。

自分の性のあり方について悩んでいたリーさんが前向きになれたきっかけは、友だちの何気ない言葉でした。

LGBTQ+の当事者で人生の先輩でもあるメンター(助言者)たちと“うれしかった言葉”について語り合いました。

  (「虹クロ」ディレクター 橋口 恵理加)

【関連番組】虹クロ『“うれしかった言葉”教えてください』
2024年2月6日(火) <Eテレ>午後8:00~8:29
(再)2024年2月17日(土) <Eテレ>午前0:45~1:14 [※16日(金)深夜]
※本放送後1週間、見逃し配信(NHKプラス)でご覧いただけます

「似合ってるじゃん」 友人の言葉で周囲が肯定的な雰囲気に

『虹クロ』は自分の“性のあり方”に悩む10代が胸の内を打ち明け、LGBTQ+の当事者で人生の先輩でもあるメンター(助言者)たちと体験や気持ちを語り合う番組です。

今回のメンターは、井手上漠さん(モデル&タレント)、ロバートキャンベルさん(日本文学者)、サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)、若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)の4人。

左から 井手上漠さん(モデル&タレント)、若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)、サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)、ロバートキャンベルさん(日本文学者)、中央下:リーさん(大学生)

番組に声を寄せてくれたリーさんは19歳の大学1年生。生まれたときに割り当てられた性は女性で、性自認はどちらとも言えない、服装など表現する性は男性寄りです。

自分のセクシュアリティーにポジティブになれたきっかけについてみんなで経験を語り合うことで、その話がセクシュアリティーについて悩みを抱える人や相談を受けた人の参考にもなるかもしれないと考えたリーさん。まず自身が親友から言われてうれしかった言葉について話してくれました。

リーさんが高校生のとき、女子の制服に対する違和感が次第に強くなり、初めて学ランを着て登校した日のことです。

リーさん(仮名・19歳)

いざ学ランを着たけど周囲になんて思われるか不安だったんです。


でも友だちが「似合ってるじゃん」「やっぱそっちのほうがいいよ」 と言ってくれてすごくうれしくて。クラスの教室に入っても「これ見て!すごく良くない?」と周囲を巻き込んでくれて、その子の言葉で朝からクラスの雰囲気がまとまった感じでした。

右:リーさんが初めて学ランで登校すると、友人の言葉でクラスは肯定的な雰囲気に

リーさんの高校では女子の制服にスラックスが導入されていましたがリボン着用が必須だったため、リーさんには違和感がありました。そのため先生に相談し、男子の制服である学ランの着用を認めてもらいました。

前例がなかったので初めて学ランを着て登校したとき非常に緊張しましたが、友人が発した言葉におおいに救われたそうです。

リーさんの話を聞いてメンターは。

左:サリー楓さん(建築デザイナー&モデル) 右:ロバートキャンベルさん(日本文学者)
ロバートキャンベルさん(日本文学者)

クラスのみんなのリアクションを先導してくれる人がいるっていうのは、いいですよね。

サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)

やっぱり1人目が大きい声で「似合ってるじゃん」と言ってくれたら、周りもそれに乗るじゃないですか。1人目の言葉って重要ですよね。「これからも新たなチャレンジをしよう」という気持ちにもなりますよね。

「どうでもえぇんけど」 “軽い受け止め”

リーさん(仮名・19歳)

みなさんにもそういう言われてうれしかったこととか、お聞きできたらいいなと思います。

トランスジェンダー男性で俳優・舞台プロデューサーの若林佑真(ゆうま)さんは、カミングアウトしたときの親友からの言葉に救われたといいます。

若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー) ※割り当てられた性:女性 性自認:男性 好きになる性:女 表現する性:男
若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)

「どうでもえぇねんけど」


大学1年生のときに意を決して親友にカミングアウトしようと思って、夜中1時ぐらいに呼び出して「実は男性でこれからホルモン注射とかして戸籍も男性として生きていこうと思う」と言ったんです。


そうしたら親友から「えっ?どうでもえぇねんけど。なんや、もっと大事なことかと思うたわ」と言われて。「いやいや僕からしたらめちゃくちゃ大事なことやねんけど」っていう。


たぶん親友は「どうでもいい」と思っていなかったと思うんですけど、でも、あえて軽い言葉で片づけてくれたのはその子の愛だったのかなって。

リーさん(仮名・19歳)

自分も同じような経験があります。学ランを着てみたけど“自分は完全に男子になりたいのかな?”と迷っていたときがあって、ぬいぐるみとかかわいい物も好きだし、“性自認はどっちなのかな?”みたいな。


そのことを「学ランかっこいいね」って言ってくれた友達に話したら「いや、なんでもいいんじゃない?あなたはあなただし、中身は別に変わらないんだから」と言ってくれて。

若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)

こっちは重く捉えているときに、あえて「なんでもいい」とか「どうでもいい」とか言ってくれるのって、すごく気持ちが楽になりますよね。

サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)

私、若林さんの友達はもしかしたらちょっとだけ“どうでもよかった”のかもしれないなと思って。本当に友達だから健康とかそういうほうが大事で。“あなたがどういう人間であっても友達だよ”というメッセージが込められているのかなって。

井手上漠さん(モデル&タレント)

「どうでもえぇねんけど」が投げやりじゃなくて、あたたかく包み込みながらも否定はしていないみたいな。その絶妙な感じ。

「彼女できたら教えてね」 “未来への安心感”

リーさんや若林さんのように、相手の“軽い受け止め”がうれしかったという声は番組に寄せられた10代の声の中でいちばん多く聞かれました。

エリさん(仮名・15歳)もその一人です。カミングアウトしたら、相手に否定的な反応をされたり、過度に気を遣われたりしないかという不安な気持ちでいっぱいでしたが、相手のさらっとした反応で肩の力がぬけ、ふたりの関係性は変わらないという安心感が得られたといいます。

左:エリさん(仮名・15歳)※割り当てられた性:女性 性自認:女性寄り 好きになる性:男女または全て 表現する性:女性寄り
エリさん(仮名・15歳)

「そーなんだ。彼女できたら教えてね!」


学校でセクシュアリティーについての授業があり、その当時は“自分は女性のことが好きだ”と思っていたのでレズビアンなんだと分かって、休み時間に親友に「さっき授業があったじゃん、レズビアンかもしれない」と伝えたところ、親友は「そーなんだ。彼女できたら教えてね!」と返してくれました。


当たり前のものを当たり前だと言ってくれた気がしてすごく気持ちが楽になりました。

軽い受け止めのあとに“何かあったら味方になってくれそう”“今後も相談できそう”と感じられるひと言が添えられていることに、スタジオでは共感が集まりました。

リーさん(仮名・19歳)

「彼女できたら教えてね!」って、もし彼女ができたら、その喜びも一緒にわかってくれるのかな?っていう。そのひと言が大事と思いますね。

井手上漠さん(モデル&タレント)

たしかに。未来への安心感。これから恋愛をしたときにこの人はきっと味方でいてくれるだろうっていうのも、すてきですよね。

「変わることも含めてあなただから」

サリー楓さん(建築デザイナー&モデル) ※割り当てられた性:男性 性自認:なし 好きになる性:全て 表現する性:全て
サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)

「悩んで変わることも含めてあなただから」


私は学生のときにカミングアウトをして当初は「トランスジェンダーで女性になりたい」と言っていたんです。実際にホルモン治療を始めるとかステップを踏んでいたんですけど、男性らしさが完全に消えたなというところで、これ以上女性側に進まなくていいんじゃないかなと思った地点が来たんですよ。


今も悩んでいるんですけど、男性用のスーツとかは好きなんです。でもメークもメークで好きなんです。そういう好きなものの“いいとこ取り”をしたいときにどう伝えたらいいかわからなくて。


初めてカミングアウトをした友達に言ったら「人間ってやっぱり好きなものは変わっていくし、常にゴールにいるわけじゃない、全部プロセスなんだから。そう悩んでいることも含めて楓ちゃんなんじゃない?」って言われてすごく安心しました。

若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)

井手上さんが先ほどおっしゃっていた“未来への安心感”ですよね。「あなたが決めたんだったらいいんじゃない?」と言ってくれる人がいるだけで、何かチャレンジしてみようと思えるので。

リーさん(仮名・19歳)

サリーさんのお話は、すごくわかります。自分は見た目とか声とかは男性寄りになったけど、あえて戸籍は女性のままで女性的な名前から中性的な名前に改名しました。性別はどっちかって決めちゃわないで“自分らしく真ん中らへんで漂っている”ほうが今は心地がいいなって思うので。

井手上漠さん(モデル&タレント)

(自認する性や好きなものなどが)変わるのって自分でもわからないですからね。“それも含めてすべてあなただよ”っていうのは、かっこいいなと思います。

周りの意見に左右されない肯定の言葉

10代からは周囲の状況や意見に左右されず、一人の人間として個性や生き方を肯定してくれた言葉がうれしかったという声も寄せられました。

ミキさん(仮名・19歳)

「あなたはあなたの人生を生きればいい」


アロマンティック・アセクシュアルを自認しています。今後、同世代の友人が結婚したり子どもが生まれたりする中で両親に気を遣わせたくない、今のうちに話しておきたいと思い、両親に「異性も同性も恋愛対象にならず結婚や家庭を持ちたいという願望もないのでおそらく一生独身でいると思います。孫は見せられないと思います。ごめんなさい」と伝えました。


すると父が「結婚や家庭を持つことが全てではない。ミキはミキの人生を生きればいいんだよ」と言ってくれました。


時折、“私も恋愛をしたほうがいいのか?でもその気にはなれない…”と葛藤することもあります。そのときに父の言葉を思い出して“私は私。無理しなくていい”と思えるようになりました。

レナさん(仮名・18歳)

「特別なことではない 私はいいと思う」

男性も女性も好きになることを誰にも言えずに抱え込んでいてこのままでは壊れてしまうと思い、一番信頼している親友にだけ嫌われる覚悟でカミングアウトをしました。

すると友人は「特別なことではないよ。それって自由じゃない?ほかの人がどう思うか何を言ってくるかはわからないけど、私はいいと思う」と言ってくれました。


身近に1人理解者ができたことがうれしくて、気持ちが楽になりました。

左:レナさん(仮名・18歳)※割り当てられた性:女性 性自認:流動的 好きになる性:男女 表現する性:女性
ロバートキャンベルさん(日本文学者)

“何より良い”とか“何より良くない”ではなく、単純に“私はいいと思うよ”というのは「…」がないですよね。本当に直接話法で「私はいいと思う!」って、すごく安堵(あんど)しますよね。

リーさん(仮名・19歳)

そのほかのマジョリティーの意見じゃなくて、一対一で「私はいいと思う」ってすごく刺さりますね。「自分に何があっても肯定してくれるんだな」みたいな感じに聞こえてくるので。

“わからない” わかったフリをしない素直な言葉

井手上漠さん(モデル&タレント) ※“性別はない”
井手上漠さん(モデル&タレント)

「わからない」


“私は女性として見られているのか男性として見られているのかで、その人への接し方を変えなきゃいけないのか”とかいろんなことを友人に打ち明けたときに、その子のキャラクターもあるかもしれないんですけど「わかんない」って言われたんです。

でもこれが不思議で、正直に“わからないものはわからない”と言ってくれたことがうれしかったんです。

サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)

どうでもいい相手だったら、わからなくてもわかったっぽい感じで受け流すと思うんです。知りたい、わかりたいから「わからない」と言うと思うんですよ。


最近、LGBTであるとかセクシュアルマイノリティーであるっていうことを言うと“理解しなきゃいけない”“配慮しなきゃいけない”“差別してはいけない”みたいに身構えられてしまって、「自分(自身が理解する)」というものがその後に来ちゃうんですね。

リーさん(仮名・19歳)

“わからない”と思うのも大事だなって思います。LGBTQ+で同じセクシュアリティーでもやっぱり考えていることってそれぞれ違うし。同じセクシュアリティーだから全部わかってくれるというのはないと思うので。

“言葉ではない” 仲間がいること・居場所があることの重要性

今回「LGBTQ+の当事者が言われてうれしかった言葉」をテーマについて話しましたが、本当にうれしく感じるかどうかは、相手との関係性やシチュエーション次第で、“正解”はありません。同じ言葉でも相手を傷つけることもあります。

ロバートキャンベルさんは10代にとって安心できる仲間や居場所の存在が重要という点に改めてふれました。

ロバートキャンベルさん(日本文学者) ※割り当てられた性・性自認・好きになる性・表現する性:男性
ロバートキャンベルさん(日本文学者)

僕は自分の経験を振り返って考えると、言葉というよりも仲間がいることにすごく勇気づけられた気がするんですね。


1970~80年代はテレビをつければヘイトに満ちた言葉が飛び交っていて実際に日常でも結構厳しいところがありました。でも自分のベースみたいな場所があったからヘイトが刺さってこない気がしたんです。


一瞬の言葉で救われることもあると思うんだけれど、自分と同じ指向性、思考とか属性とかをもった仲間が周りにいる、アクセスできるかどうかが10代にとって大事かなと感じました。

若林佑真さん(俳優&舞台プロデューサー)

僕は東京レインボープライドでパレードに参加したときに、全然周りは話したことがない人ばかりなのにすごく安心する空間にいるなって感じたことがあって。


キャンベルさんのおっしゃることは、僕がそのときその空間で感じた感覚なのかなと思いました。

サリー楓さん(建築デザイナー&モデル)

友達とか恋人とかって、ずっと過ごしていて本当に仲良くなってきたら言葉数が減ってきませんか?一日中黙って一緒にいるけど、それが心地いいみたいなこともあると思うんです。そういう見えない言葉や、うなずきみたいなものに守られているのかなって思いました。

リーさん(仮名・19歳)

自分が初めて学ランを着て登校した日、みんながみんな「いいじゃん!」と言うわけじゃなくて、でも誰も否定してこない。そのまま受け入れてくれる、その空気感みたいなものはすごく感じていて。


言葉じゃないけど、みんなそう思ってくれているんだろうなっていう空気はすごく伝わってきましたね。

みんなが元気になるような言葉やエピソードを番組を通じて伝えたいと言っていたリーさん。今後は自分も悩みを抱えている人を励ましていけるような存在になれたらといいます。

リーさん(仮名・19歳)

高校のときに自分は堂々と学ランを着ていたので、“こういうのをわかってくれる人なんだ”と思われていたみたいで、「ちょっと聞いてほしいんだけど」って相談してくれる人もいて。


意外と周囲にもセクシュアルマイノリティーの人がいたんだってわかったんですよ。


自分がセクシュアリティーについてオープンにしていることで、ほかの人の悩みのはけ口みたいになれることもあるんだなって。今後はそういうこともできたらいいなと思いました。

取材を終えて

“うれしかった言葉”に共通点があるとしたら井手上漠さんがおっしゃっていた“未来への安心感”ではないかと感じています。

リーさんをはじめ番組に寄せられたエピソードには続きがあり、その後もその言葉をかけてくれた相手にいろいろな悩みを相談している、その人が味方になってくれたなど、“言葉”をきっかけに関係が深まっているそうです。

今回の番組ではリーさんの声をきっかけに、あえて言葉がもつポジティブな側面に注目しました。セクシュアルマイノリティーについてSNSのタイムラインやコメントがポジティブで優しい言葉であふれるような社会になるよう、私たちはこれからも発信を続けていきたいと思います。

【放送予定】 虹クロ『“うれしかった言葉”教えてください』
2024年2月6日(火) <Eテレ>午後8:00~8:29
(再)2024年2月17日(土) <Eテレ>午前0:45~1:14 [※16日(金)深夜]
【見逃し配信】本放送後から1週間、NHKプラスからご覧いただけます

セクシュアリティーやジェンダーに関連して、学校のルールや慣習で疑問に思うことや困った経験はありますか。LGBTQ+も含めてみんなが過ごしやすい学校にするためには、どんな仕組みや工夫があればいいと思いますか。みなさんのご意見や記事への感想などを下の「この記事にコメントする」(400字まで)か、 ご意見募集ページ(800字まで)からお寄せください。

みんなのコメント(0件)