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Vol.21 地方で暮らすLGBTQの“私たち”

好きになる相手の性、自分の認識する性は、ひとりひとり違います。でも、同性の人を好きになる、恋愛感情をもたない、自分の性に違和感があるなどのLGBTQ※当事者の人たち、とりわけ地方に住むLGBTQの人たちにはなかなか焦点があてられてきませんでした。(※LGBTQ…L(レズビアン)、G(ゲイ)、 B(バイセクシャル)、T(トランスジェンダー)、Q(これらの定義でくくれない性)

NHK松江放送局では、そうした皆さんのことを、広く知ってもらうために、「私たちはここにいる」キャンペーンを行っています。島根県の出身者や島根県に住んだことがあるLGBTQ当事者の方々の声を取材して集め、松江放送局のホームページやツイッターに掲載しています。

当事者の皆さんの声から見えてきたのは、あからさまな差別ではないものの、固定観念や偏見によって相手を傷つけてしまう行為、“マイクロアグレッション(小さな攻撃)”の実態でした。

(松江放送局ディレクター 岩永奈々恵)

「LGBTQがいないことになっている」当事者のつぶやき

キャンペーンを立ち上げたきっかけは、私がLGBTQの当事者の方々に取材でお話を聞く中で、出雲市に住むシロクマさん(30代)がポツリとつぶやいた一言でした。「島根県では、LGBTQが“いないこと”になっているんです」

“いないことになっている”…。その意味がすぐには理解できませんでしたが、話を聞いていくうちに、シロクマさんのように同性のことが好きになる人や、男性も女性も好きにならない人、自分の体と自認する性が一致しない人など、多様な性をもつ人たちがいる実態が日常生活の中で“無視されている”場面がたくさんあるということが分かりました。

シロクマさんが特に違和感を覚えたのは、中学生の保健の授業だったそうです。「人は、思春期になると、異性への関心が高まってきます」。そのように習い、“異性”という文言にシロクマさんは動揺し、「自分はおかしいんじゃないか」「ばれたらどうしよう」と不安になったといいます。

友達との会話でも、「好きな異性のタイプは?」「彼氏はいるの?」と“異性愛が前提”の話が出る度に、本当の感情は押し殺してウソをつき、そのことに傷ついていたそうです。「男性と女性の2つしかいない世界」「人は異性を好きになるものだという前提で成り立っている世界」では本当の自分のままでは生きていけないのだと、当時は将来への希望も持てず、絶望的な気持ちで過ごしていました。

シロクマさん

「もしも、保健の授業の時に、先生が『異性を好きになる人ばかりじゃないんだよ』『同性を好きになる人もいるし、恋愛感情を持たない人もいるよ』と補足してくれてさえいればどんなに救われたか…。」

このように、悪意がなくとも、何気ない日常の中で、自分にとっては“普通”でないことを“普通”として認識させられるような状況も、マイクロアグレッションの1つです。

同じ悩みを抱えるLGBTQ当事者が見えづらい…

松江市出身で広島県在住の松島彩さん(30歳)。LGBTQについての情報がネットや書籍などで出ている今は自分の性別について「男でも女でもない」、好きになる対象も「性別問わず」と感じているそうですが、テレビなどで「オカマ」と揶揄(やゆ)される人たちを見て、“自分のことは絶対に周囲には言ってはいけない”と ひた隠しにしてきたといいます。また、自分と同じような悩みをもつ人たちが周りにいることにも、日々の暮らしの中では気づくことはなかったそうです。

高校生の頃、自分の性別や恋愛対象のモヤモヤを母親に話したことがありました。しかし、返された言葉は意外なものでした。

「小さい頃は、性同一性障害を疑って、病院に連れて行こうと悩んだこともあったんだけど。最近は女の子らしくなって安心していたのよ。」

女性らしい振る舞いをしたがらない娘を心配して、母親なりに調べ、身体の性と自分自身が認識している性が一致しない「性同一性障害」かもしれないと考えたようでした。しかし、その説明は自分にとってはしっくりくるものではありませんでした。

「“性別がない”と思っているのは、世界で私ひとりなんだろうな」。学校の先生や、友人に相談することもなく、孤独に悩み続けていたといいます。

2年前、大阪でLGBTQの集まりに参加した際に、初めて「Xジェンダー(性自認が男性にも女性にもあてはまらない)」という言葉を知り、自分は性同一性障害ではなく、男らしさ・女らしさなど社会がつくり出した性(ジェンダー)と自分自身が認識している性の違いを非常に敏感に感じていることが分かったそうです。

松島彩さん

「あの頃、もし自分の周りにも、自身の性について悩みを抱えているLGBTQの当事者の存在が見えていて、お互いの思いや心の声を語り合える仲間がいたら、どれだけ心強かったか…と思います。」

「気にしすぎだよ」善意のつもりでも…

当事者が抱えている悩みを、周りが軽く受け流したり、善意のつもりでかけたりする言葉も、当事者のアイデンティティや気持ちを傷つけてしまうことにつながる場合もあります。

5年前、東京から島根県の中部の山あいの邑南町(おおなんちょう)に移住した藤彌葵実(ふじや あみ)さんは恋愛感情をもっていません。また、松島さんと同じように、女性・男性という性別で区別されることに違和感を覚えています。ことし4月に放送したNHKの番組でそのことを話してくれました。すると、放送後に周りの人から「気にしすぎじゃない?」「藤彌さんは、カミングアウトしなければ、普通の人と変わらないから大丈夫だよ」という言葉をかけられたといいます。

藤彌葵実さん

「自分が日常生活で傷ついたり、悩んだりしているのは、私が『気にしすぎ』だからなのかな?カミングアウトせずに、周囲に合わせていたらいいってこと?それとも、私を励まそうと善意で言ってくれているのかな…。それぞれの言葉を聞いて、モヤモヤしました。

(自分の存在が)ないものにされてしまっているという感覚が強いです。女性は女性らしく振る舞うことや、異性と恋愛をすることなど、「○○が普通です」と、“普通です”の顔をした差別がすごくあると思っています。」

“自己肯定感を下げてしまう” マイクロアグレッション

4人目は、日本海に面した島根県浜田市出身で、東京在住の大賀一樹さん(32歳)。臨床心理士としてLGBTQの人たちの支援も行っています。大賀さんは、明らかな差別ではないものの、誤った先入観や偏見によってLGBTQの人たちを傷つけてしまう「マイクロアグレッション」は、あからさまな暴言や暴力を受けるのと同程度の、心理的な負荷がかかると指摘します。

大賀一樹さん

「そういう言葉をかけられた本人は、私が悪いのかなとか、私はいちゃいけないのかなと思わされてしまうんです。自己肯定感などが低下したり、”死にたい“とか”消えてしまいたい“という気持ちを増幅させてしまう一つの要因となるといわれます。私自身も、島根にいたときにそれを経験して、”もうここではやっていけない、死んでしまうかも“という思いに襲われ、”強くならなきゃ“という危機感があって、東京に出ました。」

大賀さん自身も小さい頃から、自分の性について悩みを抱えてきました。保育園の時から話し方やしぐさが「女っぽい」というだけで「オカマ」と呼ばれ、小中高校時代も、先生、友達、親の理解をなかなか得ることはできず、18歳で逃げるように東京の大学に進学。学生時代に性的マイノリティーのサークルで初めて同じ悩みをもつ仲間と出会って救われたそうです。

大賀さんによると、マイクロアグレッションは、そうした言葉をかける側も、かけられる側も、“差別”として認識していないことがほとんどだといいます。

大賀一樹さん

「マイクロアグレッションは、周りが“相手を傷つけるためにて言っているわけではない”ということ、また言われた側も “私が弱いからダメなんだ”とか、“私がもっと強くないと”と思わされてしまう。どちらの側も、“差別している”、“差別されている”とはっきり認識できないからこそ、複雑で難しいものと思います。

どうすればマイクロアグレッションをなくせるか

LGBTQの人たちに対する社会の理解を深め、マイクロアグレッションをなくすためにはどうすればいいか。当事者それぞれに話を聞きました。

シロクマさん(男性と女性の間の中性だと感じている、女性を好きになる)

「自分だけの考えが全てじゃなくて、色々な人がいるというのを、本当にみんなが思っていれば、声かけひとつ変わってくると思います。自分の考えが正しいとか普通だと思って発言するよりも、自分はこう思っているけど、そうじゃない人たちもいるよねと思って発言した方が、傷つく人が減ると思います。」

松島さん(女性でも男性でもないと感じている、性別を問わず好きになる)

「“ふつう”を持ち出して話をするのではなく、“自分はこう思う”で話をすることだと思います。“ふつう”を持ち出す人は、説明を怠けているんです。そして、言われた側も、「あなたにとっての“ふつう”って何ですか?」と恐れず聞くことが大事だと思います。目の前の人に向き合って、話をすることだと思います。」

藤彌さん(性別で区別されることに違和感がある、恋愛感情をもたない)

「周りにLGBTQであることをカミングアウトしても、やっぱり変わらない部分もありました。地域や文化に強く根ざした価値観や意識を変えるのは非常に難しいと思います。当事者ばかりが頑張るんじゃなくて、行政側も、社会としてLGBTQへの理解を深めたり、差別をなくすような制度や体制を早く整えて、“普通”をアップデートすることも大事だと思います。」

大賀さん(男性でも女性でもない、他者に恋愛的にひかれることはほとんどない)

「自分は“恵まれている”と思う部分と、“人と違うなあ”って思う部分って、自身がマジョリティー、マイノリティーのどちらに属していようが関係なくあると思うんです。“恵まれている” と “人と違う” 部分の両方を自覚することが必要と思います。

また、もし性をめぐることで何か間違った発言や行動をしてしまったとしても、自分や相手を責めるのではなく、言葉を訂正したり素直に謝罪したりして、未来を変えていくのは自分なんだと “主体性”を持つことが大事だと思います。 」

島根でLGBTQの方々を取材して…

普段から地域で、自分の親世代以上の方々を取材する中で、「彼氏はいるの?」「結婚しているの?」「うちの息子の嫁にどう?」と言われることがあります。笑って受け流していますが、こうした質問が重なると つらくなることがあります。でも私自身、同世代の人たちとの会話で「彼氏いないの?」「結婚しないの?」「子ども(をつくること)は考えているの?」、こういった言葉を何気なく使っていたことが、これまであったと思います。しかし、LGBTQの方々から「それは“ふつう”の側に立って話しているから出る言葉ですよ」と教えていただくことで、こうした発言には自分の必ずしも正しくない“思い込み”や“常識”が混ざってしまっているということを思い知りました。

相手は何かしら自分の“常識”とは違う部分を持っているかもしれません。それを私が知らないだけかもしれません。それを思うと、言葉選びも変わってきます。「彼氏いないの?」ではなく「パートナーはいるの?」。「結婚しないの?」ではなく、「結婚とか考えたりするの?」。「子どもいないの?」は聞かない、などです。

いろんな人がいることを知り、それをわざわざ評価せずに、「そうなんだ」とただ思うだけでいいと思っています。

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みんなのコメント(1件)

こすぬ
40代 女性
2021年7月8日
横浜のある住職が自身が持っているラジオ番組の中でLGBTQはカルマが重い・深いということを認識しなければならないと言っていましたが、大学にて多様性に対してのプロジェクトを推進する仕事をしていた身として、 言葉が一人歩きする怖さを感じました。 もし、自身が相談されたりする側だったらどのような形で聞いてあげられるのかを知りたいと思いました。