低年齢化する脱毛 子どもから脱毛したいと言われたら?
最近、15歳以下の子どもが医療機関やエステサロンに通って「脱毛」の施術を受けるケースが増えているといいます。
全国展開する医療脱毛クリニックに聞いてみたところ7年間で8.1倍、大手脱毛エステサロンでは10年間で55倍、と脱毛を希望する小中学生が急増していました。
番組で実施したアンケートでも6割以上の親が子どもから脱毛をしたいと相談を受けたことがあると回答がありました。
一方で「小中学生から脱毛に通うのは早いんじゃないか?」「成長期の肌へのダメージがあるのでは?」など、子どもの脱毛に関する不安の声も寄せられました。
そこで、実際に子どもから脱毛に通いたいと相談されたとき、どうするのか?専門家の意見とともに、話し合いのヒントとなる情報お伝えしていきます。ぜひ親子で参考にしてみてください。
子どもの脱毛への疑問 Q&A
番組には、たくさんの子ども脱毛への疑問が寄せられました。
慶應義塾大学医学部の皮膚科で普段から子どもの医療脱毛に携わっている医師の大内健嗣さんとともに疑問にお答えしていきます。
脱毛をすることで成長期の肌へのダメージはありますか?
基本的には大丈夫です。脱毛レーザーは黒いメラニン色素に反応するので、真っ黒な日焼けや皮膚炎に伴う色素沈着がなければ皮膚へのダメージはありません。成長期の毛穴や皮膚への長期的な副作用も今のところ確認されていません。
ただ、一般的なリスクとして脱毛でのやけどや、毛が太く硬くなる、ニキビができるというリスクもあるので、脱毛を検討する際には親子でリスクについてもしっかりと確認しておきましょう。
脱毛の施術を受ける場所の種類が多すぎてわからない…。
医療脱毛とエステ脱毛の違いを知りたい。
脱毛を大きくわけると、皮膚科などの医療機関で行う「医療脱毛」とエステサロンで行う「エステ脱毛」の2種類があります。
医療脱毛は強いレーザーを使い、毛を破壊して脱毛する医療行為です。施術をする人は、医師または医師の監督下にある看護師です。
エステ脱毛は光などを使い、減毛や除毛をすることで、施術をする人はエステティシャンとなります。エステ脱毛では、毛包を破壊する医療行為に該当するような強い出力は使用できません。
大内先生としては、医療脱毛とエステ脱毛どちらがオススメですか?
それぞれにメリットがあると思います。
エステ脱毛の方が比較的低価格で医療と比べると敷居が低いと感じる方もいらっしゃるでしょう。また、普段の毛の処理回数を減らすくらいでいいという方は、エステ脱毛を選ばれるのがいいと思います。
一方で、脱毛によって熱傷などが起きた場合の適切な処置やそうならないための見極めは皮膚科医だからこそ可能です。安全性を重視され、手入れが一切必要ない状態を目指す方は医療脱毛を選択されるのが良いと思います。
もし脱毛を始めるとしたら、いつ頃からが適切ですか?
私としては、二次性徴が終わり、身長の伸びが止まるころ、女子ではおよそ15歳ごろ、男子だとおよそ16歳ごろです。
どうしても二次性徴が終わる前だと、毛が柔らかくてレーザーが効きにくいため、大人になったときに再び毛が生えてくることがあるからです。どの時期がいいのかは親子でよく話し合ってください。
ただ、早期に毛が太くなったりと本人がとても気になってコンプレックスに感じたり、いじめやストレスなど本人の精神的な問題も加味して身体的なリスクがないようであれば、15歳未満でも脱毛してもいいと思います。
なぜ子どもたちは脱毛したい?
大内さんは、子どもの脱毛が増えているのには3つの理由が考えられると言います。
「SNSの利用による美意識の低年齢化」
今はスマホを開けば、SNSを通じて簡単に美容情報にアクセスすることができます。自分の好きなインフルエンサーが脱毛体験の投稿していたり、動画サイトで脱毛の広告を目にしたりすることで、「やってみたい」と感じる小中学生が増えているといいます。
また、SNSなどに投稿されている画像は加工され体毛のないことも多く、自分もそうした姿に近づきたいという理由から美意識の低年齢化が起こっているそうです。
番組で取材をした小中学生も、「プールで肌が見えるから恥ずかしい」「クラスで毛がない子が綺麗だと思ったから自分も脱毛したい」などの理由で早く脱毛をしたいと話していました。
さらに「親に脱毛経験者が多く、脱毛への抵抗が少ない」「痛みの少ない機械の登場」という理由から脱毛の低年齢化が進んでいるそうです。
脱毛が低年齢化することへの懸念も…
子どもの脱毛について関心が高まる一方で、番組にはこんな声も寄せられました。
自分も毛深いのが悩みだったので気持ちはわかるが、最近は電車の車内が脱毛広告ばかりで過剰にコンプレッス意識をあおっているように思う。そうしたルッキズムへと駆り立てる社会の動きに対して良くないと思っている。
最近は美しくあることが求められすぎなのではと疑問を感じています。脱毛のCMが多くそれが常識のように思わされているのでは?テレビなどで脱毛の話題が出るたび、肩身の狭い思いになります。
子どもの脱毛がだんだん浸透していくと、脱毛してないと劣等感を感じたり、経済的な理由などから脱毛できない子どもがいじめの対象になったりしかねません。教育の場で、いろんな価値観があることを教えることも必要だと思います。
皮膚科医の大内さんも子どもの間で脱毛が当たり前になってしまうことへ懸念を示しています。
成長過程の段階で脱毛の施術をうけることを積極的に勧めたいとは考えていません。ルッキズムの助長につながるのではないかと懸念しています。本来、人に毛は生えているものなので、毛をなくしたい人はなくして、生やしたい人は生やすという多様なとらえ方ができればと思っています。
変化していく体毛への価値観
脱毛の低年齢化の一方で、体毛に対するイメージを変えようという動きも始まっています。去年、大手カミソリメーカーは「“ムダ毛”という表現やめます」という宣言をしました。
マーケティング本部長・疋田智彦さんは「ムダ毛」という表現をやめた理由をこう話します。
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大手カミソリメーカー・疋田智彦さん
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『ムダ』には必要ないもの、良くないものというネガティブな印象があります。体の大事な部分に生えている毛をムダなものと一方的に決めつけるのではなく、カミソリメーカーとして、自分の好きなように体毛をデザインして楽しんでもらいたいという狙いを込めています。
こうした考え方のもとで、このカミソリメーカーは親子で正しく体毛について学べるWEBサイトを開設しています。思春期に起こる体毛の変化や、カミソリを使った体毛の正しいお手入れの仕方などがわかりやすく紹介されています。
さらに、SNS上でも体毛への価値観が変わろうとしています。
今年3月、小中学生に人気のインフルエンサーの竹下☆ぱらだいすさんは動画サイトで「すね毛だって大切な命なんだよ」という楽曲のミュージックビデオを公開しました。
281万回再生を記録したこの動画の歌詞には、
「無駄毛じゃないよ!全部キャワ毛」
「生やしてOK 剃ってもOK」
「生まれたまんま ありのまんまアンタの個性だ」
など、体毛についてポジティブにとらえる表現が多く用いられています。
コメントには
「本当にいい曲。流行って日本の長年の問題を解決して欲しい」
「剃るな!って強要するんじゃなくて、剃ってもどっちでも可愛いってスタンスなの好き」
など多くの共感の声が寄せられています。
(再生回数は2023年10月17日時点のものです)
注意したい脱毛の契約トラブル
医療機関やエステで若者の脱毛が増えたことで、契約などのトラブルも増えています。昨年度、国民生活センターに寄せられた10代の消費者トラブルで最も多い内容は脱毛エステでした。
2021年には203件だった相談が、2022年には1222件と、1年間でおよそ6倍に急増しています。
「体験で店舗へ行ったところ、全身脱毛の説明をしつこくされて契約してしまった」
「解約の電話をしているが繋がらず、メールを送っても返事がない」
「契約した脱毛サロンが倒産したが、請求が続いている」
などのトラブルが多いそうです。
未成年の場合は契約は親子で行き、契約内容に納得するまで説明を受けたり、期間や回数もしっかり確認しましょう。
契約内容に悩んだり、トラブルが起こってしまった場合は、消費者ホットライン「188(いやや!)」に相談してみてください。
取材後記として
取材の中で、子どものうちから脱毛に通わせる理由として「毛が濃くてクラスの男子に“毛蟹”とからかわれていたこともあり、体育の時間に半袖が着られなくて早く脱毛がしたかった」「自分が毛深いのがコンプレックスだったから、子どもにはそんな思いをさせたくなくて早いうちから脱毛に通わせたい」という自身のコンプレックスから脱毛を考える声が多く聞こえました。
脱毛の低年齢化が進んでいるということは、裏を返せば「毛がないこと=キレイ」という社会の価値観が広がっており、毛が生えていることにコンプレックスを感じる子どもが多くなっているということだと感じています。
私自身は20代半ばになり、学生時代に比べるとあまり体毛のお手入れに執着しなくなりました。
それでも、電車やSNSなどで脱毛の広告を見るたびに、「ツルツルになるまで毛を脱毛しないとやっぱりダメなのかな」「周りの人に毛のお手入れを怠っていると思われていたらどうしよう」とコンプレックスをあおられて不安になることがあります。
毛はもともと体に生えているものです。それを理由でからわれたり、コンプレックスを抱いたりするような社会であってほしくないと思います。