福岡県内でアライグマの生息範囲が拡大中！

NHK福岡のニュース番組内で放送している「追跡！バリサーチ」は、視聴者から送られてきた情報をもとに調査するコーナーです。そこに寄せられたのが、「自宅にアライグマが侵入した」というお悩みでした。この投稿をきっかけに取材を進めたところ、アライグマが山から都市部へと生息範囲を広げ、最近では住民が多く住む市街地にも出没していることが判明しました。

中でも、スイカやスイートコーンの産地である北九州市若松区では、深刻な農業被害が出ていました。

アライグマ対策の最前線に立っている北九州市若松猟友会会長の岩本光徳さんによると、行政に協力して捕獲に力を入れていますが、限界があるといいます。

北九州市若松猟友会会長　岩本光徳さん

「アライグマの有害駆除をやろうとしている人がなかなかいない。捕獲しようとしても、罠を設置したら1日に1回でも確認する必要がある。サラリーマンでは時間がなかなか取れない。高齢者も体力的な問題もあり、点検が非常に困難」

専門家は、対策が遅れてしまうと、アライグマの生息域がさらに拡大し、感染症の危険性が高まってしまうと指摘します。

国立環境研究所生態リスク対策評価・研究室室長 五箇公一さん

「いちばん心配している問題のひとつが、感染症です。アライグマをはじめ、野生生物は、言ってみれば病原体の宝庫。本来なら山奥にいたはずのマダニなどのウイルスがアライグマに付着して人間社会に近づいています。人に媒介して、SFTS（重症熱性血小板減少症候群）や狂牛病などの感染症を引き起こし、最悪のケースとして死に至る場合もあります」

福岡県が進める「福岡県ワンヘルス推進基本条例」

福岡県では、こうした状況を受け、野生生物が引き起こす感染症の対策を始めています。2020年に全国で初めて制定したのが、「福岡県ワンヘルス推進基本条例」です。
（※2023年には徳島県も条例を制定。）

ワンヘルス（One Health）とは、「人の健康」、「動物の健康」、「環境の健全性」をひとつの「健康」と捉え、一体的に守っていく考え方です。各分野にまたがる問題を解決するためには、医師や獣医師・研究者などの専⾨家や⾏政、企業、⺠間団体、市民などが一緒になって推進していくことが重要とされています。

「福岡県ワンヘルス推進基本条例」の基本項目の中には、「人獣共通感染症対策」という、人間と動物がともに感染してしまう病気の対策も進めていくことが記されています。
「人獣共通感染症」の中には、シカやイノシシ、アライグマの体に付着しているマダニなどがウイルスを人に媒介させ、SFTS（重症熱性血小板減少症候群）などの感染症を引き起こすリスクがあります。

SFTS（重症熱性血小板減少症候群）の発生状況と今後の対策

SFTSは、国内で海外渡航歴のない人が、2013年に罹患したことが初めて報告された新しい感染症です。福岡県でも、2015年にSFTSへの感染が初めて確認され、2023年8月までの累計で28件が報告されています。

福岡県では感染状況を受けて、有害鳥獣駆除や狩猟により捕獲されたシカやイノシシなどの野生動物から血液を採取し、SFTSウイルス抗体の保有状況を検査する調査を実施してきました。さらに、近年は個体数の増加や分布拡大が問題となっているアライグマも調査することを検討しています。

福岡県の担当者は、SFTS調査による効果を期待しています。

福岡県環境部　自然環境課　吉瀬利明（きちせ としあき）課長補佐

「アライグマは都市環境に適応し、人間の生活圏への侵入が危惧されています。調査を行うことで、市町村においては、鳥獣被害対策や外来種対策に加えて、人獣共通感染症対策の観点からの対策を検討することができるようになります。また、医療機関・団体においては、SFTS感染の可能性を早期に探ることで、迅速な診断や治療を行うこと等が期待できます。県民の方においては、SFTS感染への予防対策を講じることもできます」

目に見える農作物被害だけではなく、感染症といった未知の危険性をもはらんでいる都市部への野生生物の侵入。1ミリ革命では、引き続き全国各地の獣害の被害や対策を取材していきます。

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