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問い合わせが殺到!? 大分・アライグマの習性いかした“巣箱型ワナ”

イノシシ、シカ、アライグマなど野生生物といえば、これまで山や田畑の近くで目撃されるイメージでしたが、最近では都市部でも出没するようになっています。生息範囲が広がることで深刻になるのが獣害です。農作物への被害額は、農林水産省の調査によると、2021年度は、年間およそ155億円にのぼります。さらに人的被害も報告され、特にクマによる被害が全国各地で相次いでいます。そうした中、大分では、アライグマ被害を食い止めようと新たな技術を用いた対策が進んでいます。

感染症のリスクも!全国に拡大するアライグマの生息域

特定外来生物のアライグマは、1970年代のアニメ番組で人気を集め、北アメリカなどからペットとして大量に輸入された後、飼い主が屋外に放してしまったことで野生化したといわれています。メスは生後1年で生殖能力を持ち、年間1回の出産で平均3~5頭の子どもを産みます。この繁殖力の高さで、生息域は10年間で全国各地に広がりを見ています。また、手先がとても器用で木の実や農作物から昆虫類や魚類まで何でも食べる雑食性のため、生ゴミをあさることもあります。年々、農林水産業や生態系への被害が深刻になっているのです。

さらに今、リスクが高まっているのが、感染症です。国立環境研究所生態リスク対策評価・研究室室長の五箇公一さんによると、アライグマの体に付着しているマダニなどがウイルスを人に媒介させ、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)や狂牛病などの感染症を引き起こすリスクがあります。現在は特効薬もないため、感染すると重症化してしまい、死に至る恐れもあるといいます。

捕獲数が急増!大分市で設置が進む「巣箱型ワナ」

そうした中、大分市では、「アライグマ防除実施計画」を策定し、捕獲に力を入れています。10年前に“あるワナ”を導入したことで、アライグマの捕獲数が急激に増加しています。2020年度は、過去最多の299頭を捕獲しました。

いったいどんなワナなのか。大分市環境対策課が取り組んでいる捕獲活動に同行しました。向かったのは、この数年、アライグマの捕獲が増えている大分市東部の小志生木地区です。住宅街を抜け、山中を少し歩くと、ため池が広がる場所にたどり着きました。そこに置かれていたのが、木でできた細長い箱でした。

中を開けて見せてもらうと、1頭のアライグマが捕獲されていました。暴れることもなく、こちらの様子を静かにうかがっていました。アライグマは夜行性のため、日中であれば、捕まってもおとなしくしているといいます。

大分市が設置したワナの最大の特徴は、エサを使ってアライグマをおびき寄せる従来のワナとは違い、「エサをまったく使っていない」という点です。アライグマは、木の中にできた隙間“樹洞”などを住み処にしているため、それを模して作り、中に穴を開けておくと、巣だと勘違いして入ってきます。さらに、好奇心がとても旺盛で、構造物があるとつい近寄りたくなってしまう習性もいかしています。この「巣箱型ワナ」は、水路、ため池、河川など、アライグマが好む水辺の環境に設置されています。アナグマやムササビも木の穴を住み処にしていますが、他の生き物が捕まることはありません。そして大分市では、捕獲したアライグマを行政が適切に処分しています。

毎日見回る必要なし!効率性も備え持つ巣箱型ワナ

「巣箱型ワナ」は、効率性が高いのも特徴です。これまで使っていたワナは、エサの交換や捕まったかどうかを確認するため、毎日見回る必要がありました。一方、この巣箱型ワナはアライグマが入ると自動的にフタが閉まり、備え付けられた通信機器から担当者の携帯電話にかかる仕掛けになっています。そのため、連絡が入ったタイミングに確認に行くだけで済みます。1箱にかかる費用は、制作費と維持費も合わせて3万円以内と低価格で、従来のワナより人件費を抑えることができるのがメリットです。

「巣箱型ワナ」は今、大分市環境対策課の職員がひとつひとつ手作りしています。捕獲されたアライグマは、ワナの中で日中は静かですが、夜になると暴れるので、内部はボロボロに壊れてしまいます。その修理も職員たちが担っています。
今、県内外の自治体から視察や問い合わせが相次いでいます。大分市では、多くの地域で活用してもらうため、希望する自治体には無料で貸し出しを行っているほか、将来的には設計図も渡すことを考えているといいます。大分県内では現在、7市1町が連携して広域防除を進めているほか、大分県別府市に巣箱型ワナを活用してもらっています。

大分市環境対策課 島田健一郎さん

「このワナはエサも必要ないし、捕まったら、電話で知らせてくれるので、毎日見回る必要がありません。行政は今、予算も人員も限られているので、どれだけ労力を減らして、捕獲を効率的にやっていくかがポイントになっています。このワナは、少ない人でも運用管理ができるので、他に類をみない効率的なワナだと思っています」

巣箱型ワナの開発に携わったアライグマ専門の職員

大分市環境対策課でアライグマ対策に取り組んでいるのは現在、5人。そのリーダーである島田健一郎さんは、アライグマ対策のために採用された専門の職員です。琉球大学でマングースを研究した後、北海道大学大学院で外来種を研究している池田透研究室に移り、アライグマの生態の研究や捕獲するためのワナの開発に取り組んできました。

島田さんたちが「巣箱型ワナ」の開発に参考にしたのが、アメリカの家庭の裏庭に設置されていた巣箱でした。捕獲実験はアメリカからこの巣箱を取り寄せ、ワナ機能を加えるところから始まりました。島田さんは、「アライグマの気持ちになって、どうすれば入りたくなるかを考えてきた」と話します。特にアライグマの手の習性を研究し、ワナに設置する踏み台の場所や大きさに工夫や改良を加えてきました。

ワナの開発を進めていた研究室にSOSを出したのが、大分の環境系NPOでした。当時、大分では、アライグマがウミガメの卵を掘り起こす被害が頻発していました。島田さんは、大学院に籍を置きながら、大分のアライグマの生息調査に乗り出しました。その後、大分市の委託職員などを経て、現在は、アライグマ対策の専門職員として働き、着実な成果を上げています。

専門職が考える獣害対策で必要なことは?

外来種の生態に詳しい五箇公一さんは、島田さんたちが開発した巣箱型ワナを高く評価しています。

国立環境研究所生態リスク対策評価・研究室室長 五箇公一さん

「巣箱型ワナは、アライグマの習性をいかすだけではなく、人にとっても利便性が高く、とても画期的です。外来種の対策も生物学や生態学の新しい知見を集積して活用していくことが大事。アライグマの本質を見抜いている島田さんが現場の最前線に立って試行錯誤しながら取り組んでいることは大分市の強みであり、こうしたケースは他の地域でも広がってほしいです」

アライグマの捕獲に携わって14年になる島田さんは、獣害対策に必要なことをこう話してくれました。

大分市環境対策課 島田健一郎さん

「自治体の中に外来生物や有害鳥獣の専門知識を持つ職員がいることが大切だと思います。自治体職員は異動して何でもできるようになることが求められがちですが、積み上げてきた経験や知識がないと対策が遅れてしまいます。成果が出ないと予算が削られる悪循環になってしまいます。動物種ごとに専門に研究している学生もいるので、行政が積極的に採用していくこともいいのでは。専門職がいれば、対策にもスピード感が出ると思います」

もはや「待ったなし」とも言える獣害対策。感染症が広がってしまい、「手遅れ」とならないためにも、巣箱型ワナのような効率的な対策が進むことが大切だと感じました。1ミリ革命では、引き続き全国各地の獣害の被害や対策を取材していきます。

NHKでは、獣害だけではなく、地域のお悩みごとに関する情報を募集しています。お悩みや対策などぜひお寄せください。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター(「1ミリ革命」プロジェクト・クローズアップ現代)
阿部 公信

福島県いわき市出身。福井局や大分局での勤務経験などをいかし、地域課題の解決を目指すコンテンツを制作。みなさんからの情報提供をいかした“エンゲージドジャーナリズム”に力を入れている。

みんなのコメント(1件)

体験談
メダカ
70歳以上 女性
2023年10月29日
熊の出没多いみたいですが、
捕まえたら動物園に送ったらどうでしょう?
昔、熊本の阿蘇さんに行った頃、月のわぐまをみまして、ほんとうにくびに白いマークがあるのだと思ったのを覚えています。
動物は捕まえたら動物園に送りましょう!