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空き家は“ドリーム”がいっぱい!? 空き家に魅力を感じる10代たち

全国各地で1000万戸に迫る勢いで増える空き家。「古い」、「汚い」など、ネガティブなイメージを抱きがちですが、先入観にとらわれずに、空き家に新しい価値を見出そうと活動している10代の学生たちがいます。
「町歩きしていても空き家にばかりを目がいってしまう」
「スマホで空き家に関するニュースを入手できるように設定している」
「なぜ空き家になってしまったのか、つい思いにふけってしまう」
なぜ空き家にひかれるのか、取材しました。

「どうせ空き家だし…」ネガティブな気持ちが決断を遅らせる

「NHK地域局発 1ミリ革命 みんなでローカルグッド」(2023年4月27日放送)、「クローズアップ現代」(2023年5月29日放送)で空き家問題を特集しました。すると、NHKに150を超える空き家のお悩みが寄せられました。

愛知県50代の女性 
「空き家を手放したいけれど、不便な田舎のため買い手がつきません」
宮崎県60代の男性
「空き家に残された荷物や家財をどう処分したらいいか、わかりません。思い出もあり、整理しづらいです」

多くは、空き家の所有者からの声でした。国の調査によると、空き家にしておく理由は、「物置として必要」、「解体費用をかけたくない」、「さら地にしても使い道がない」などさまざま。

でも実際のところは、空き家事情に詳しい横浜市立大学の齊藤広子教授の分析によると、「この理由で手放したくない」という人は少数だといいます。多くは、「理由を聞かれたから答えただけ」で、本当はどうしたらいいかわからないので、“なんとなく空き家”にしてしまっているそうです。さらに、「どうせ私の空き家なんか…」というネガティブな気持ちが売却や解体などの決断を遅らせてしまう“どうせ空き家”になるケースもあります。

空き家専門のコンサルティング会社でインターンする大学生

“なんとなく空き家”や“どうせ空き家”への対策として、国は、自治体と民間の連携を進めています。2023年6月に改正された空き家対策特別措置法では、自治体がNPOや企業を活用して、所有者に寄り添った相談、所有者の探索、空き家の管理などに取り組むことを後押ししています。

5月に放送したクローズアップ現代「急増!“なんとなく空き家”どうなる税負担!強制撤去も!?」では、いち早く自治体との連携を進める民間会社空き家活用株式会社(東京都港区)を取材しました。この会社では今、20を超える全国各地の自治体と協力し、空き家の調査や活用を進めています。空き家の所有者に対しては、不動産や法律などの専門知識を持つスタッフが悩みをサポートします。例えば、相続に悩む人には弁護士、売りたい人には不動産会社をつなぐなど、希望に沿った解決プランを作り上げています。

私は取材を進める中で、ある興味深い情報を入手しました。
「空き家に対して、すごい熱量を持った大学生がインターンしている!!」

「ぜひ話を聞いてみたい!」
さっそく紹介してもらったのが、都内の大学に通いながらインターンとして働いている東京都出身の河野まりなさん(19)と埼玉県出身の椛田真彩さん(19)です。

河野まりなさん(左)、椛田真彩さん(右)

先入観にとらわれない若者の発想で、空き家に新しい価値を!

2人は、この会社が取り組んでいる売却希望の空き家のPR事業を手伝っています。特に力を入れているのが、若い感覚をいかし、SNSを活用した空き家の魅力の発信です。大分県別府市の大学に通うもうひとりのインターンメンバーも加えた会議を日々重ね、見る人を惹きつける表現やキーワードなどを考えています。彼女たちが作ったキャッチコピーは、“バズる”こともしばしばあるそうです。自信作は、長野県の空き家を紹介する動画に使った「ドリーム環境すぎてがちやばい」。

河野さん、椛田さんが考えたSNS投稿

1分ほどのこの動画を会社のTikTokに投稿すると、これまで多くても数千件だった再生回数が、過去最多となる3万件以上に伸びました。中でも、これまであまり空き家情報を見てくれていなかった20代の心をつかんだことが、バズった理由だといいます。社員たちからは「自分たちでは考えられない発想ですごい!」と絶賛されました。

実は彼女たちの動画は、会社のYouTubeに誘うために作られています。YouTubeでは、和田貴充社長が空き家物件の魅力をユニークに紹介しています。彼女たちの動画がバズったことでYouTubeの再生回数も伸び、紹介した空き家への問い合わせや内覧希望が増え、空き家バンクに3年載せても売れなかった物件が売れたケースもあります。YouTubeの再生回数が多い物件ほど、売れやすい傾向があるといいます。

さらに、売却実績を受けて、新たな空き家の所有者からYouTubeでの紹介を希望する問い合わせも増え、“どうせ空き家”が掘り起こされ、市場に出回るという循環も生まれています。

彼女たちは、「SNSの特徴を使い分けて、アピールすることが大切」と話します。TikTokは、若者がさまざまな情報を入手するツールとして使っているので、空き家に興味がなくても身近に感じてもらえるように、まずは楽しく、魅力が簡単に伝わるように言葉を選んでいます。

河野まりなさん

「お堅いイメージを感じる“空き家”に、“ドリーム環境”というワクワクするようなフレーズを足すことで、言葉のギャップを楽しめたら面白いと思って付けました。SNSでPRして、“なんとくなく空き家”や“どうせ空き家”も売れる!という発想の転換につなげていきたい!」

椛田真彩さん

「将来、同世代の若者たちが空き家の所有者になると思うので、そうなったときに“なんとくなく空き家”や“どうせ空き家”にしないように、スムーズに売却や解体などの決断ができるように、今からPRしていきたい!」

空き家は、身近にある“自分事”の問題

2人はなぜ空き家に興味を持ったのか。河野さんは中学生のとき、親戚が海外に引っ越すことになって、住んでいた家が空き家になることになってしまいました。そこで、家の中の換気、庭の雑草の処理などの管理を誰がするのか、両親や親戚が話し合い、悩む姿を目の当たりにしたことがきっかけでした。それまで社会問題を身近に感じる機会はあまりありませんでしたが、親戚に起きた空き家の問題は他人事とは思えなかったといいます。その後、空き家に関していろいろ調べ始める中で、自分が住んでいる自治体にも空き家がたくさんあるという事実を知り、さらに“自分事”として捉えるようになりました。

高校生のときに、さらに空き家問題に関わる出会いがありました。社会科の先生に「社会問題で興味があることは?」と聞かれたとき、「空き家の問題」と答えたところ、学校のある東京都調布市の担当者とつないでくれたのです。そして、実際に空き家問題の解決を目指して実際に行動するようになりました。そのひとつが、調布市と一緒に空き家を増やさないために企画したキャンペーンです。「住まいのフォトレター展」と題し、自分の家の思い入れのある場所や部屋の写真と15年後のその場所に向けたメッセージを募集しました。自分の家の将来について考えるきっかけになってほしいと企画しました。当初は、200件ほどを想定していましたが、地元のラジオ局やサッカークラブがPRに協力してくれたことで、日本全国から3000件の応募が集まりました。特に河野さんが印象に残ったのが、両親から子どもに対して、「15年後も家を残したい」という優しさにあふれたメッセージでした。この企画を通して、河野さん自身も、自分の家の将来を考えたことがないことに気付かされ、空き家に関する関心がさらに高まったといいます。

一方、椛田さんは、中学生のときに修学旅行で広島県尾道市を訪れ、自由時間で瀬戸内海の景色を見たり、尾道ラーメンを食べたりしていたところ、たまたま空き家を活用したお店を目にしたことがきっかけでした。尾道では、見た目は古民家ですが、おしゃれにリノベーションされた書店やカフェ、ゲストハウスなどがいろいろな形で活用され、若者から人気を集めています。また、商店街や住宅街などの場所に合わせて、空き家のいかし方を工夫していることに驚きました。古い家がおしゃれにリノベーションされ、味わい深さが醸し出されている“ギャップ”に惹かれ、使い方次第で魅力を加えられる空き家の可能性に大きな衝撃を受けたといいます。

その後、椛田さんは自分が住んでいる地域の空き家事情について調べ、対策は早めにしたほうがいいと思うようになりました。そして、地元埼玉県の自治体の担当課に「空き家をもっと活用してほしい!!」とアポなしで提案しに行ったこともあるそうです。しかし、この自治体では、まだ空き家対策に重点を置いていなかったため、取り合ってくれませんでした。さらに、高校2年生の夏に同世代の友人と空き家を活用したカフェを企画し、地域の産業やコミュニティを考えるいい経験になったといいます。

2人はこうした経験を、空き家問題の解決につなげようと日々奮闘しています。

空き家を“負動産”から“富動産”に!

空き家に魅力を感じている若者は、河野さんと椛田さんだけではありません。前出の横浜市立大学の齊藤広子教授の研究室の学生は、横浜市金沢区の空き家を自分たちで借りてリフォームし、「せとさんち」と名付け、地域活動の拠点として活用しています。学生にとって、空き家はまるで白いキャンバスのようで、自分たちの色に染められることが楽しいといいます。さらに、日々リフォームするにあたってわからないことがあれば、地元の工務店や電気店などに相談し、協力してもらっています。空き家を通して地域とつながり、学生自身も成長しているといいます。

活動に参加している阿久綜浩さん

「1番のやりがいは、『コミュニティが広がること』です。街に何か良い影響を与えられないかと考えて活動していると、自然とたくさんの人と会話ができます。町内会の方々、地元の子どもたちやママさんなど、普通に学生生活を送っていたら一言も話すことがなかったような人たちと関わることができます。このコミュニティがだんだん広がっていくことが活動していてよかったなと思うところです」

空き家は、負の財産として見られ、“負動産”と言われることがあります。でも、河野さんと椛田さんが目指しているのは、“負動産”を“富動産”に変えることです。空き家をもっと“自分事”としてとらえる人が増えたら、解決の道が開けると2人は考えています。

大人は、経験や知識があるのは強みですが、先入観を持ってしまいがちです。一方、若者は知識や経験がないからこそ、フラットな視点で物事をとらえ、常識にとらわれず、斬新な発想を持つことができます。私は日々の取材を通して、今、河野さんや椛田さんのように、地域の課題を“自分事”として考えて、解決に向けて行動に移している若者が増えていると感じています。彼女たちの存在はまさに希望です。「1ミリ革命」では、今後も地域の課題を“自分事”としてとらえている若者たちの活動に注目していきます。

NHKでは、空き家だけではなく、地域のお悩みごとに関する情報を募集しています。お悩みや対策などぜひお寄せください。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

担当 阿部 公信の
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この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター(「1ミリ革命」プロジェクト・クローズアップ現代)
阿部 公信

福島県いわき市出身。福井局や大分局での勤務経験などをいかし、地域課題の解決を目指すコンテンツを制作。みなさんからの情報提供をいかした“エンゲージドジャーナリズム”に力を入れている。

みんなのコメント(2件)

オフィシャル
「1ミリ革命」プロジェクト
2024年3月19日
ありがとうございます。空き家はニーズに合わせて活用していくことが大事ですね。引き続き、みなさんの「空き家活用」の事例を教えてください。
感想
のん
40代 女性
2023年10月29日
空き家をビジネスとしてリフォームするのは面白がって取り組むが、実際に住むのは別のようです。若い人が上京して借りるのはオートロック付き、洗面台付きなどドラマに出てくるような部屋を希望してきます。きれいに床や壁紙をリフォームしてあってバストイレ別、学生なら手頃な家賃でも、外観が古いだのあーだこーだと内見すらしません。