大人になったいま、自分が支える側になりたい|「あの日」の子どもたちへの10の質問
東日本大震災を経験し、大切なものを失った子どもたちに、いまだから語れる気持ちを尋ねる、「『あの日』の子どもたちへの10の質問」。
今回答えていただいたのは、宮城県東松島市出身の武山ひかるさん(22)。震災当時は10歳、小学4年生でした。
武山さんは自宅へ戻る途中に車ごと津波に飲まれそうになった経験をしています。幸い家族は無事でしたが、学校の同級生などを亡くしました。
自分の体験を語り継ごうと精力的に語り部活動を続け、ことし新社会人となった武山さんに「10の質問」をしました。(2023年3月)
最近あったうれしかったことは、就職先が決まったことです。その理由は、就職活動をする暇が、(いま)大学4年生なんですけど、実習とかの関係で全くなくて、1年ぐらいフリーターでいいかなって思っていたんですけど、とある方からご紹介いただいて、就職先が決まったことがいちばんうれしかったことです。
武山さんは大学時代、子どもの支援ができる仕事がしたいと勉強に励み、精神保健福祉援助実習やスクールソーシャルワーク実習など忙しい日々を過ごしていました。
その後、地元にある、障がいのある子どものための児童福祉サービスを提供する企業から無事に内定をもらい、ことしの春から児童指導員として働いています。
震災を思い出すのは、私が東日本大震災の語り部をやっているので、そのときによく思い出しますし、東日本大震災津波伝承館というところで解説員のアルバイトもしているので、そういう場面でも思い出しますし、夕方のニュースとかで震災のことを取り上げているのを見るので頻繁に思い出しています。
武山さんは高校生のときに友人に誘われて語り部活動を始め、以来全国を飛び回って自分の体験を伝えてきました。さらに2021年に石巻市にオープンしたみやぎ東日本大震災津波伝承館でも、東日本大震災のことを伝えています。
震災を受けて自分の中で変わったことは、周りへの見方が変わったかなと思います。震災前は自分のことばかり気にしていたように思うんですけど、震災後、いろんな人と関わることで周りの人がどう思っているのかだったりとかっていう部分で、周りに目を向けられるようになった。で、震災前と変わらなかったことは、震災前の友達とはずっと仲がよくて、いまでも週に1回以上必ず会っていることは変わらないことかなと思います。
うーん・・・とりあえずは「お疲れ」っていうのと、あと・・・「気にしないでいつものように遊んでおきな」って声かけたいと思います。
震災後、避難所生活を送る中で手伝いなどを申し出ても、「危ないからやめなさい、静かにしていなさい」と子どもだからという理由で大人に頼ってもらえず、何もできない自分は「いなくてもいい存在なのではないか」と感じたという武山さん。
いまでは当時の大人たちの気持ちも理解できるようになり、子どもたちに語るときにも「いていい存在なんだよ」と伝えていると言います。
一瞬。本当に短かったように感じます。自分が震災のとき小4だったときのことを本当にいまでもぱっと頭に浮かぶので。こんなに早いんだなって思っています。
10年後・・・ちょっと想像がつかないですけど。宮城にはたぶんいるかなと思います。10年後は・・・(精神保健福祉士)国家資格が、まだ合格発表前ですけど、受かっていたら地元の高校とかでなんかスクールソーシャルワーカーみたいなのができていたらいいな、希望ですけど。たぶん地元にいるんじゃないかなと思います。
「いまでも仲いい友達と一緒に月1か週1ぐらいで遊んでいるか?」って聞きたいなと思います。
いちばん会いたい人は、震災のあとに、長野県のアファンの森というところに招待をしてくれたC.W.ニコルさんにもう一度会って、「いっぱい遊ばせてくれてありがとう」って伝えたいです。
作家であり環境保護活動家でもあったC.W.ニコルさん(2020年4月死去)は、自身が所有する森に被災地の子どもたちを招くプロジェクトを行っていました。
武山さんは小学6年生のときに参加し、ブランコや沢遊びなどをしたといいます。震災の影響で、外で思い切り遊ぶことがなくなっているときに森の中で思い切り遊べたことがとても印象に残っているそうです。
震災前は頼れるイメージだったんですけど、震災後になっていろいろ悩みだったりとか大変なこととかを分かち合って一緒に悩んだりすることができるようになったので。震災前よりは自分も大きくなったし、捉え方も(変わった)。イメージは、震災前は“頼れる人”、いまは“頼りない人”に変わってしまったので、今度は自分が支えられたらいいなって思います。
私の宝物は、いちばんは私の友達かなと思います。物っていうより人なんですけど。震災のときにすごく大変な思いをしたけど、ずっと一緒にいてくれて遊んだりとか、大変なこととか楽しいことを一緒にともにできた友達がいるので、その人がいちばん大切かなと思います。