「きっかけは“ガラスの天井”だった」 女性のひきこもり 生きづらさ語る場を
これまで男性が多いと思われてきたひきこもり。
しかし、最近になって女性も多いことがわかってきています。
「生きづらさを抱えた女性に寄り添う居場所でありたい」
そんな思いを胸に、仙台市で自助グループを運営する女性がいます。
(仙台放送局 ディレクター 野口 紗代)
東北ココから「女性のひきこもり〜見過ごされてきた声〜」
【放送】
2023年1月20日(金)1930-1957 [NHK総合・宮城県内]
2023年1月21日(土)1030-1057 [NHK総合・東北エリア]
頑張っても評価されない
ひきこもりの女性を対象にした自助グループ「ひきこもりLadyの会」を運営する仙台市の堀江美惠子さん(64)。ひきこもりの当事者や家族が自由に参加できる定例会を2か月に1回開いています。
「生きづらさを抱えた女性が安心して過ごせる居場所でありたい」
堀江さんがそう思う背景には自身の経験があります。
仙台市で生まれ育った堀江さん。高校を卒業後、公務員として働いてきました。社会のために働く仕事にやりがいを感じていましたが、40代半ばになると、「これ以上どんなに頑張っても評価されない」と感じるようになりました。
きっかけは、職場で新たに始まった昇任試験の制度でした。
「これはチャンスだ!と思って一生懸命勉強しました。しかし、試験に受かって出世するのは男性ばかりでした」
上司は男性職員に追加点をつけて、女性職員にはつけていなかったのではないか…。心の中で疑心暗鬼になることもあったという堀江さん。
これ以上は頑張っても上には行けないという“ガラスの天井”を感じ、落ち込むことも多くなりました。
また、職場にはセクハラも多かったといいます。
「私が20代だった頃ですが、ヌードカレンダーが貼ってあったり、女性職員が男性職員に『俺が子どもを産ませてやろうか』と言われたりしていました。でも、それを笑ってやり過ごすしかありませんでした。上司に無理やりホテルに連れ込まれそうになったこともありますが、当時はセクハラという言葉もありませんでした。どうして女性ばかりが虐げられるのだろうと感じていました」
仕事を頑張る意欲をなくしてしまった堀江さん。45歳の時にはうつ病と診断されました。
ひどいときは自分の体をナイフで傷つけたり、死にたいという気持ちが強くなったりしていたといいます。精神科の医師に「このままでは死んでしまう」と相談したところ、精神科病棟への入院を勧められました。
母と娘のしんどさ
精神科病棟に入院するとき、医師から言われた言葉が意外だったといいます。
「お医者さんに自分の生育歴を話したら、『お母さんは見舞いに来させないでください』と言われました。それまでは自分の生きづらさは仕事が原因だと感じていましたが、そこではじめて母との関係も大きく影響していたのだと気づきました」
堀江さんの母は大正生まれ。戦前の軍国教育を受けた世代で、行きたい学校には行けず、結婚は決められた相手とするしかなかったといいます。母はそうした行き場のない怒りや不満を堀江さんによくぶつけていたそうです。
「母は自分の親に言えない不満を私にぶつけていたのだと思います。『兄弟の名前はみんな可愛いのに、私だけ可愛い名前をつけてもらえなかった』とか、『祖父からもらった実印に自分だけ割れ目があった』とか、自分だけが不幸な境遇にあるという話をコンコンとされるのです。そんなの私に言われても困りますよね」
そんな母に対して従順な“いい子”を演じる一方で、憎む気持ちもあったといいます。
「『あんたを産んでから肩が動かない』と母になじられたときは、『じゃあ、産まなきゃよかったでしょ!』と言い返したりもしました。私を育てるのにかかった費用を全て母に返して、母との縁を切りたかったぐらいです。でも、そんな母も亡くなってしまい、心の重しがとれたような感じがしました」
女性の居場所をつくりたい
その後、精神科病棟を退院し、女性の生きづらさについて学びたいと市民講座を受講するようになった堀江さん。偶然、ひきこもりの当事者団体である「ひきこもりUX会議」が仙台市で女子会を開くと知り参加しました。
「それまでは、ひきこもりというと男性のイメージでした。しかし、女子会に参加してみるとたくさんの女性がいて本当に驚きました。専業主婦や家事手伝いという肩書きで自宅にいる女性が実はひきこもりで悩んでいることや、本人のつらさや孤独が周囲に理解されにくいことなどを初めて知りました」
自分がひきこもりだという意識はなかったという堀江さん。
しかし、うつ病で苦しんだ経験を女子会で話したところ、ほかの参加者たちからは当事者だと受け入れてもらえたといいます。
「ここに集まった人たちのために力になりたい」
堀江さんは数人の参加者と連絡先を交換し、のちに、女性のひきこもり自助グループ「ひきこもりLadyの会」を仙台市で立ち上げました。
「ひきこもりLadyの会」では2か月に1回、定例会を開いています。
ひきこもりに悩む女性や家族なら誰でも参加できます。「今日の気分や体調」「最近よかったこと」「困ったこと」「聞きたいこと」などゆるやかなトークテーマを決め、自由に思いを話しています。
堀江さんは、家でひとりぼっちで過ごす人が出かけるきっかけになってくれたらと願っています。
「少しずつですが、リピーターの参加者が増えてきて、いらっしゃったときに目を合わせるとニコッと笑ってくれるようになりました。参加者のなかには連絡先を交換してお茶に行くようになった人もいるようで、新たなつながりが生まれていてよかったです」
番組で女性の声を募集 1月東北で放送
男性が多いと思われてきたひきこもりですが、最近になって、実は女性も多いことが調査などで分かってきています。
これまで、女性のひきこもりが見過ごされてきた背景にはさまざまな要因があります。
例えば、国のひきこもりに関する調査では、主婦や家事手伝いにあたる女性が除外されてきましたし、男性の当事者やスタッフが多いフリースペースなどの居場所に参加しづらい状況もあります。
また、近年は女性の自立が社会で叫ばれるようになり、逆にそのことにプレッシャーを感じている女性も少なくありません。NHKでは、こうした女性の生きづらさやしんどさに向き合う番組を1月に東北地方で放送する予定です。
女性の当事者の方が感じている気持ちや困りごと、周囲の人にこんな風に接してもらえたら楽だ、こんな社会になってくれると生きやすいなど、思いを聞かせていただけないでしょうか。
できるだけ多様な女性の声を受け止め、考えていきたいと思っています。ぜひ、お声をお寄せください。
東北ココから「女性のひきこもり〜見過ごされてきた声〜」
【放送】
2023年1月20日(金)1930-1957 [NHK総合・宮城県内]
2023年1月21日(土)1030-1057 [NHK総合・東北エリア]