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脱炭素先進国・オーストリアと比べてみた!日本と何が違うの?

レジ袋有料化が昨年7月に始まり、1年が過ぎました。
ことし8月からは大手コンビニの一部店舗で、使い捨てスプーンを木製のものへ試験的に切り替えるなど、身近なところでの環境対策が進んでいます。
一方で、「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」が政府目標になる中、他国と比べて日本の気候変動対策の遅れを指摘する声は少なくありません。
では具体的に、海外と日本で何が違うのでしょうか。
積極的に脱炭素政策を実施する国の一つ、オーストリアと比べてみました。
現地在住の有識者や日本人が知る、オーストリアの現状とは?

(地球のミライ 取材班 ディレクター 捧詠一)

オーストリアの人口は約880万人

‟脱炭素競争“での先駆けを目指すオーストリア

ヨーロッパ中部に位置し、北海道とほぼ同じ国土面積を有するオーストリア。
首都ウィーンは音楽の都として知られ、日本とは音楽分野での交流が活発です。

世界の先進国の首脳が近年、「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を次々と宣言する中、オーストリアはより野心的な目標を掲げています。
それは、「2040年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」「2030年までに国内で生産される電力をすべて再生可能エネルギーで賄う」というもの。
オーストリアの環境相は、「欧州で100%再生可能電力を生産する先駆者となる」と強調しています。

日本の現状からすると、そんなことが可能なのかと驚く気持ちもありますが、オーストリアでは既に具体的な達成の道筋を描いています。

オーストリアで生まれ育ったデアシュミットさん

ジェトロ・ウィーン事務所にて、20年以上にわたりエネルギー政策について調査・分析を続けるエッカート・デアシュミットさん。
オーストリアでは、再生可能エネルギーを活用する土壌が長年かけて培われてきたといいます。

デアシュミットさん

第二次世界大戦で甚大な被害を受け、早期の復興を余儀なくされたオーストリアでは、必要なエネルギーを得るために、国内の豊かな自然に目を向けました。
国土の地勢を生かした水力発電に力を入れる政策が打ち出されたのです。

オーストリアのエネルギー政策の大きな特徴は、なんといっても水力発電の割合の高さ。 発電電力量の57.9%を水力発電が占めており、その結果、再生可能エネルギーの割合77%に上ります。
日本の水力発電量は全体の7.8%。再生可能エネルギーの割合は18.1%
無論、全体の発電量にも差があるので単純比較はできませんが(オーストリアの年間発電量650億kWh、日本の年間発電量10238億kWh)、水力発電に頼る度合いの差を実感します。

オーストリアにはアルプス山脈が広がり、国土の実に3分の2を急しゅんな山岳地帯が占めています。
さらに、ドナウ川をはじめとした豊かな河川が数多くあるため、川の流れを生かした水力発電を重視した施策が長年続けられてきました。 国内には3,000か所を超える水力発電所があり、得られた電力は国内消費だけでなく、他国に輸出もしています。

協議を重ね模索しながら “脱炭素“への道を歩み続ける

長年かけ、自然に頼った発電を強化させてきたオーストリアですが、過去には原子力発電導入を進めようとした時期もありました。
国内での発電量を早期に増やそうとしたためです。国内初の原子力発電所建設が開始されたのは、1972年のこと。

しかし、原子力発電に対する懸念が次第に広がり、1978年に発電所稼働の是非を巡って国民投票が行われます。結果は反対が多数を占め、以来、脱原発の政策が続けられています。

再生可能エネルギーへの完全移行も、順風満帆というわけではありません。
数多くの水力発電所を建設した結果、これ以上の建設は環境への負荷が大きすぎるとして、別の再生可能エネルギーを増やす方向へと舵を切っています。
特に太陽光発電については、市民からの投資も奨励する形で積極的に建設が行われ、発電量を大幅に増やす政策が進められています。

デアシュミットさん

オーストリアは、脱原発を徹底してきました。
放射性廃棄物の処理問題や安全性への不安が国民の間で大きかったからです。
一方で日本は、福島第一原子力発電所の事故を経験したにも関わらず、今もエネルギー政策の中に原子力発電が含まれています。オーストリアに暮らす私たちから見ると、理解に苦しむところです。 持続可能な脱炭素社会構築を見据えた長期的なプランを、妥協せず選び取ることが必要ではないでしょうか

現地で暮らす日本人にはどう見える?

オーストリアで生まれ育ったデアシュミットさんに、オーストリアの脱炭素事情を伺いましたが、日本人の視点からはどう映るのでしょうか。
オーストリア・ウィーンに移り住んで10年になる、飯野福哉さんに話を伺いました。

国際連合工業開発機関(UNIDO)で働き、開発途上国の産業開発を支援する飯野福哉さん

オーストリアでは街中を歩くと、気候変動に対する配慮を至る所で目にするといいます。
例えば、スーパーへ買い物に行ったとき。
積まれた果物や野菜を手にとり買い物カゴに入れる際、備えつけのビニール袋に入れますが、素材は自然に還りやすいとされる生分解性プラスチックです。

また、日本では昨年7月からレジ袋が有料化されましたが、オーストリアでは既に5年前から主要スーパー・小売りチェーンが自主的にレジ袋有料化を開始。
そして昨年からは生分解性以外のプラスチック袋の使用自体が法律で禁止されました。

スーパーに並ぶのは紙製の有料レジ袋

飯野さんは2年前からプラグインハイブリッド車を利用していますが、購入にあたっては政府から減税措置を受けることができました。街を走ると充電ステーションが各地に配備され、‟充電難民“になることはありません。

飯野さん

ウィーンでは、普段から「環境負荷が高いことはできるだけ避けよう」という空気を感じます。政治でも争点になりやすいですね。
環境配慮に関して、どのような政策を考えているのか。
選挙での当落にも大きく関わってきますので、政治家も熟慮していると感じます。

海外では声を上げるのが当たり前 ぜひ議論・行動を!

2019年にデモに参加したジョジィさん(右から2人目)

飯野さんの娘・ジョジィさんは高校2年生。これまでに何度か学校を休み、政府に気候変動対策を訴えるストライキを行ってきました。
「学校には欠席連絡をしているのだろうか」と単純な疑問が湧いたのですが、ジョジイさんが学校に相談したところ、むしろ「ストライキを勧められた」そうです。

飯野さん

ストライキをすることで、環境問題について深く考える機会になる。政治について学ぶきっかけになる。そういった前向きな視点で、学校から「金曜日に学校を休んでストライキをしてみてください」と言われたそうです。
学校が休むように言うなんて、ちょっとびっくりしますよね。

さまざまな分野について議論し、意見発信することを尊重する教育現場。
そうした土壌があるため、地球環境が危機的状況にあることがわかれば、積極的に声を上げ、社会全体が持続可能な方向へと舵を切っていく。
社会をよりよくするために「声を上げるのが当たり前」であり、それを受け止める文化がある。 飯野さんは、日本に暮らす人々も臆することなく、「声を上げる」ことに積極的になるべきと感じています。

気候変動対策強化を求め声をあげる若者たち(今年6月10日)
全国122か所で同様のアクションが行われた
飯野さん

日本は声を上げる人を奇異な目で見がちではないでしょうか。
でもそれでは変化は生まれません。
よりよい社会のイメージが掴めているのであれば、実現のために動くべきです。 実際に行動に移している人々が世界にはたくさんいます。

ためらっていては、海外との差は開く一方で、取り返しがつかなくなる恐れもあります。 日本は道筋が定まれば、実行力は高いと海外から見て感じます。
実現性あるロードマップを早期に固めれば、活路は開けるはずです。

国土の地勢を生かした再生可能エネルギー政策を長年かけて取り組み、ライフスタイルも積極的に変えていくことで、早期の脱炭素化を実現させようとするオーストリア。

2030年、そして2040年、2050年を見据え、目指すべき社会にするために声を上げ行動する。
日本政府も温室効果ガス排出の削減量を分野ごとに試算する中、海外から学ぶべき事例を間髪を入れずに実行するスピード感が求められているのではないでしょうか。
あなたはどう思いますか?

みんなのコメント(1件)

ロンミミ
40代 男性
2021年8月21日
私は主に荒川区南千住でゴミのポイ捨て問題に取り組んでいます。取組みの1つが、(一社)プロギングジャパン、㈱Gabの若者達と毎月開催している隅田川沿いでのプロギングイベントです。「楽しく環境問題に取組む」、SNSを活用した情報発信によりたくさんの方々を巻き込む…日本のZ世代のパワーも決して海外に引けを取らないと感じております。