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なぜマイクロアグレッションは起こるのか?

ことし9月7日に掲載した『マイクロアグレッションとは?』という記事では、ミックスルーツであるディレクター自身の経験を紹介しました。

マイクロアグレッションとは? ~日本で生まれ育ったミックスの私の体験~ - インクルーシブな社会のために - NHK みんなでプラス

マイクロアグレッションを考えるシリーズの第2弾は、なぜマイクロアグレッションが起こるのかを、四国に暮らすミックスルーツ20名以上の方々への取材をもとに、ひもといていきます。

今回の取材を通して、ミックスルーツの当事者で傷ついた経験がある私でさえも、「マイクロアグレッションをしてしまったことがあるな・・・」と気づくことができました。悪意がないからこそ、どんな言葉が相手を傷つける可能性があるかを知ることが大切だと思います。

ケース①“見た目” ~マイクロアグレッション なぜ起こる?

ミックスルーツの方に取材するなかで、体験談として最も多くの声があがったのが“見た目”という表面的な情報だけで判断をされて傷ついているという声でした。

たとえば、こちらの漫画をご覧ください。アフリカ生まれ、日本育ちの漫画家・星野ルネさんの体験談です。

“黒人”という見た目から、「黒人は足が速い」「スポーツができそう」「ダンスが上手そう」というイメージを押しつけられることが多いそうで、幼いころからモヤっとした経験をしてきたといいます。

星野ルネさん
星野ルネさん

「みんながなんとなく抱いているアフリカに対しての思い込みやステレオタイプが嫌だった。その思い込みから生まれる『一番足が速くないとおかしい。』『視力がいいんだろうな。』というような前提で話をされているのが嫌だなと思っていた。」

“見た目”から抱かれるイメージを押しつけられることに傷つき、さらに、そのイメージ通りの期待に応えられないと自信がなくなり、次第に自己肯定感が下がる。ここが、黒人系のミックスルーツの方が皆語っていた「しんどさ」でした。

“見た目”をもとに起こるマイクロアグレッションは、他にもこのような体験談がありました。

・黒人系ルーツのミックスルーツの場合、似ていなくても、黒人の有名人に似ていると言われる。
・肌の色が暗いミックスルーツの場合、色の黒いキャラクターのあだ名をつけられる。
・出身地を聞かれて日本の地名を答えると「ロサンゼルスとか言いそうなのに!」といじられる。

ケース②“好奇心” ~マイクロアグレッション なぜ起こる?

誰しも、見慣れない存在を目の前にすると好奇心・興味が湧きます。目立っている存在に対して向けられる、周囲の人の好奇心が、ときにはマイクロアグレッションになってしまうのです。

取材をした方々はこのような体験談を話してくれました。

・外出するたびに、知らない人から頭の先から足先までジロジロと見られる。
・授業参観の日、みんなが自分の親を見て「ガイジンだ!」と言っていた。
・不思議そうに「顔が違う」「目が大きい」と顔をまじまじと見られる。

香川出身で黒人系のミックスルーツのジョーンズ菜希亜さんも、香川で生活する中で“好奇心ゆえに向けられる視線”を不快に感じることが多く、高校を卒業後、東京に引っ越しました。

ジョーンズ菜希亜さん
ジョーンズ菜希亜さん

「外に出たら常に視線を感じて、こそこそ「ガイジン」とか言われたりするのかなと思って、すごくおびえていました。


小学校低学年から高学年ぐらいまで、外に出たくなかったです。「また見られるじゃん」と思って・・・。なので、極力、家で過ごすようにしていました。


ジロジロと見られていたら、いろいろ疑問視するんですよ。

「髪が気になるのかな・・・」とか、

「肌の色が気になるのかな・・・」とか、

「なんかおかしいかな・・・」とか。


だんだん「自分がおかしいのかな?」と思っちゃって、そこからもう自分は外れているみたいな認識でしたね。見られることによってそういうのが植えつけられていました。」

また、初対面の相手にプライベートな質問を根堀り葉堀りされるという声も聞きました。

たとえば・・・

・お父さんとお母さんのなれ初めは?
・外国人だから“行ってらっしゃいのキス”とかするの?
・(外国人の)親のフルネームは?
・オリンピックはどの国を応援するの?

取材に応じてくださった方々は、「プライベートに少し入り込みすぎているな」と感じたそうです。しかし、質問する側には悪意がなかったため、“答えざるをえない状況に”なったといいます。

好奇心や興味を相手に向けているだけのつもりでも、受け取る側は不快な思いをすることがあります。このギャップがマイクロアグレッションの難しさだと私は考えています。

ケース③“気遣い” ~マイクロアグレッション なぜ起こる?

ほとんどの場合、マイクロアグレッションをする人に悪意はありません。むしろ、思いやりから生まれる“気遣い”がマイクロアグレッションになってしまう場合もあるのです。

たとえば、こちらの漫画をご覧ください。

外国人の見た目をしている人が日本語を上手に話している姿を見て、「頑張って日本語を勉強したのかな?すごいな~!」「仲良くなりたいな~」「上手だから褒めてあげよう!」と、ポジティブな気持ちで「日本語上手ですね」と言ったことがある方は多いのではないでしょうか?

しかし、日本で日本人として生まれ育ち、日本語を母国語として生きてきたミックスルーツの方にとっては、あまり心地良いことではない場合があるのです。

漫画家の星野ルネさんも漫画で思いを発信しています。

ミックスルーツの人にとって「N・J・D」つまり「日本語・上手・ですね」という言葉は、生まれてきてから何度も何度も繰り返し言われてきた言葉です。そして、この先もずっと続く「行列」ができているような感覚なのです。

同様に、“気遣い”がマイクロアグレッションになってしまっている体験談は他にもあります。

・飲食店に行くと、日本語で会話をしていても英語のメニューを置かれる。
・礼儀やマナーに関することでミスをすると、「外国では習わないかもしれないけど、日本では○○するんだよ」と教えられる。
・日本語で話しかけても、英語で返答されたり、「ソーリー、ノーイングリッシュ」と言われたりする。

取材した方の中には・・・「相手に悪意がなく、さらには“気遣い”だと感じると、なおさら『傷ついています』と指摘しづらくなってしまい、モヤモヤは心に閉じ込めざるをえなくなる。」と話してくれた方もいました。

“悪意のない”マイクロアグレッションを防ぐためには・・・

さまざまな体験談を紹介してきましたが、「じゃあどうすればいいの?」「傷つけてしまうのが怖いから、話しかけづらい・・・」と感じる方もいると思います。

2023年8月4日に放送した番組「四国らしんばん アップデート委員会」では、
20名の学生とともに、マイクロアグレッションを減らすためにできることを話し合いました。

「いろんな人と関わることで、その人がどう考えるかとか、どのようなことでどう思うかっていうのを知ることができるので、人と関わって知っていくっていうのが、大事だと思います」

「ほかの人と話しているときは、けっこう気を遣ったりするんですけど、友達と話したりするときとかはあんまり気を遣っていなくて、なので、ボケたりツッコんだりするときは、気を遣いたいなって思いました」

【関連リンク】番組の詳細・記事はこちら👇

漫画家の星野ルネさんが、マイクロアグレッションを減らしていくために、こんな話をしてくださいました。

星野ルネさん

「言っている側に悪気はないし、無自覚なんですよ。言われている方だけ傷ついている。でもそれは言えない、っていう状況になっていて。


これどうするか考えたときに、やっぱり伝えやすい状況にならないといけない。言ったら関係が壊れたり、気まずくなっちゃうんじゃないかなってなると、言う側も言われる側も進展しないので、“ごめん今の傷ついた”って言える。

言った側も“そうだったんだOK!分かった分かった!”と言って素直に受け取れて、お互いにアップデートし合える関係性を社会で作っていく。


“責め合うんじゃなくて、一緒に高め合っていきましょうよ”」

ミックスルーツのディレクターが取材で感じたこと

ディレクター・エイブルみちる

私はミックスルーツの方だけではなく、性的マイノリティの方や、障がいがある方、障がいがある子どもを育てていらっしゃる方など、多様なバックグラウンドがある方々とお会いしました。

取材を通して、マイクロアグレッションで苦しんできた私でも「これ、自分も言ってしまったことがあるな・・・」と、話を聞いて初めて気づき、自責の念を感じることが何度もありました。

マイクロアグレッションを受けてきた当事者でも、知らないうちに相手を傷つけてきたかもしれない。これが、マイクロアグレッションの恐ろしさだと感じました。

防ぐためにまずできることは“知る”ことだと思います。「マイクロアグレッションという概念があるのか・・・」「これは相手を傷つけてしまう可能性がある発言なのか・・・」と知ることで、マイクロアグレッションをしてしまうことを防いだり、「それマイクロアグレッションだよ」と指摘されたときに、受け入れやすくなったりします。このサイクルができることで、マイクロアグレッションを受ける側も指摘しやすい環境が作り出されると思います。

明日から、会話のふとしたときに、「これってもしかしてマイクロアグレッション?」と思い出していただければ、うれしいです。

この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。

担当 エイブル みちるの
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この記事の執筆者

高松放送局 ディレクター
エイブル みちる

岡山県出身。父はアメリカ人、母は日本人。2019年にNHK入局後、東京で教育番組を制作。「ミックスルーツ」や「LGBTQ」などマイノリティに関するテーマなどを取材し、番組を制作している。

みんなのコメント(2件)

感想
のぐ
50代
2024年4月14日
英国系南アフリカ人とハーフ(この記事的にはミックス)の子供を2人持つ日本人母です。記事の中で、日本語が話せる時点で日本人という表記がありますが、うちの子供達は日本パスポート所持者(日本人)ですが日本語力が小学校2年生程度なのでガイジン扱いとなります。
日本語が出来ない日本人もいるという事をお忘れなく。
感想
はるの
19歳以下 女性
2024年1月5日
顔立ちが日本っぽくないから「日本人じゃない」訳では無いし、英語圏の出身でなければ英語が苦手な人も沢山いる。