“学校行事を削減”が約9割 独自調査で分かった現代の学校事情
専門家とともに都内300の公立校に調査を行ったところ、今年度の運動会などの学校行事を、コロナ禍前と比べ削減すると答えた学校は約9割に上りました。
運動会のほかにも、クラブ活動や児童会活動、学級会など「特別活動」の見直しを進める学校は少なくなく、専門家は「日本の学校教育の大きな特徴である特別活動が曲がり角を迎えている」と指摘しています。
背景には教員の過重労働を抑制するための働き方改革や、外国語教育・プログラミング教育など学ぶべき内容の増加も。現代の学校事情を考慮しながら、子どもが主体となった学びの時間をどうしていくのがいいのか考えます。
(クローズアップ現代取材班)
※ 記事の末尾に「コメント欄」があります。変わりゆく特別活動について、教員や保護者の方をはじめ、ご意見や経験談がある方はぜひメッセージをお寄せください。
運動会は“午前”まで 狙いを絞って教育効果を高めようとする学校
板橋区立上板橋第四小学校は、コロナ禍以降、運動会を午前中までとしてきました。制限がなくなった今年もそれを継続することにした一方、時間を短くするだけではなく、教育効果を高めるための工夫を凝らしました。
① 団体競技を、2学年合同チームで実施
力を合わせる経験をしてほしいと、コロナ禍で中止していた団体競技を復活。玉入れの前に全員が踊りを披露する「ダンシング玉入れ」を導入し、全員の見せ場を作りながら、異なる学年どうしが交流する機会を作りました。2学年が合同で行うことで競技回数を減らし、時間短縮も実現しました。
② 徒競走、参加していない時間は教室で休憩
学年ごとに行われる徒競走は待ち時間が長くなるため、熱中症対策の意味もあり、ほかの学年は教室で休憩。子どもたちは競技の振り返りを自発的に行うなどして過ごしていました。
③ 運動会の“運営”を子どもたちが担う
最高学年の6年生。これまでは応援団をつくり、時間をかけて練習したり演技を披露したりしてきました。
ことしの6年生は、応援団は結成せず、ゴールテープを持つ係やゴールした児童を誘導する係など、運動会の運営に参加。全体の時間は短くしながらも、責任感を養う仕組みを随所に盛り込みました。
④ その日のうちに「振り返り」を実施
「特別活動」では、取り組んだ活動を振り返り、どのような学びや課題があったか子どもたち自身で確認し、次の成長につなげることが大切にされています。
今回学校は、運動会を終えた午後に、その日の出来事を振り返る時間を設けました。熱の冷めないうちに行われた話し合いでは「負けていても最後まで応援する姿がよかった」「運動会での団結力を、次の音楽会や中学校生活にもつなげていきたい」など、積極的に意見が出されていました。
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運動会を統括した教員
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どこまで保護者の願いに応えながら、子どもたちが輝く場を作れるかはすごく悩みました。もっとやりたい部分はあるけど現代ではそれは成り立たないという悔しさもあります。でも、子どもたちの活躍の場は残していくべきなんじゃないかと感じるので、この時代に合った形で学校行事を行うのがこの先はいいんじゃないかと思います。
“運動会は午前中まで”が7割 学校行事の最新事情
いま学校行事は縮小傾向にあります。
番組ではこの秋、都内の公立小学校を対象に、学校行事についての調査を実施。300校から回答を得ました。その結果です。
今年度の学校行事について、コロナ禍前の令和元年度と比べ、数や時間、内容など削減・精選するか聞いたところ、約9割の学校が「はい」と答え、削減傾向にあると分かりました。
具体的な削減内容は「行事の種類を減らした」が12.3%、「行事の時間や期間を短くした」が46.3%、「準備に時間をかけないようにした」が24.3%でした。
最も象徴的な例が運動会です。今年度の運動会にあてた時間について、「午前中で終わり」と答えた学校が7割以上。午後まで実施している学校は全体の4分の1程度でした。
学校行事以外の特別活動も縮小傾向に。コロナ禍前の令和元年度と比べ、今年度の実施予定時数が減っているのは「学級活動」が13%、「クラブ活動」が14.7%などとなっています。
そもそも「特別活動」とは
「特別活動」は、国語や社会・算数などと並んで国の学習指導要領に定められている授業の1つです。協働し課題を解決する力を養うことなどを目的としています。多くの人が経験してきた「学級会」や「委員会」、「クラブ活動」、そして「学校行事」が特別活動として実施されています。
特別活動の授業時数は、国の学習指導要領では「学級活動(学級会)に充てるものとする」とされており、学校行事などほかの活動はそれぞれの学校が必要に応じて実施することになっていて、具体的な実施時間は定められていません。
縮小の背景にある教員の多忙 “学校行事を精選”へ
その特別活動が縮小している背景の1つが、教員の過重労働です。
文部科学省がことし行った公立の小中学校の教員向けの調査で、勤務時間が平日で▼中学校では11時間1分、▼小学校では10時間45分。国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員は中学校で77.1%、小学校で64.5%に上っており、長時間勤務の教職員が多いことがわかっています。
こうした中、文部科学省の諮問機関である中央教育審議会はことし8月、教員の負担軽減のために、授業時数の見直しとともに「学校行事の精選・ 重点化を図る必要がある」と提言。専門家は「日本の学校教育の大きな特徴だった特別活動は、いま大きな岐路にある」と指摘しています。
大きな曲がり角を迎えた特別活動 子どもが輝く教育を実現するには?
特別活動の研究者や小学校の校長らが集まった会議では、現状への危機感や今後の方策について議論が交わされていました。
コロナ禍で特別活動の機会が減って、人間関係の希薄さというか、人のために頑張るっていうのがすごく少なくなったなって感じています。例えば掃除では「みんなのため学校のためにきれいにしようね」と働きかけても、なかなかその思いが伝わらない。コロナの影響なのか、自分を守らなきゃ、自分さえよければいいというところがあるように感じられて、課題だなと。
コロナ禍で先生になった若手の方の中には、人と人とをどうつなげたらいいのかが分からないという先生もいらっしゃる。先生たちにも人間関係の作り方を指導していかないといけないなと最近感じています。
運動会は残すけれども業者に任せるという考え方もありますが、それはどうなんだろうという気がしています。学校は教師と子どもの関わりがすごく大事。その中で、学校行事は楽しい時間や思い出を作る時間として大切だと思うんです。
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文部科学省 初等中等教育局 安部恭子 視学官
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中教審から‟学校行事の精選”が提言されましたが、これが安易な削減になってはいけないと思います。学校行事は子どもたちにとって、日ごろの教科学習では発揮できない自分の良さとか、友達の頑張りとかを実感できる場です。すでにコロナ禍で行事はだいぶ精選されたので、その中で効果的にやるためには何が大事かを考える。うちの学校では何を大事にしていきたいのかということを、もう一度見直していただくことが大事だと思います。
これからの時代を生きる子どもたちの大事な資質能力を育むのは、各教科だけではなく、特別活動のように実生活や実社会で活用できる汎用的な力が絶対に必要だと思いますので。
どうする「特別活動」?あなたのご意見を聞かせてください
現代に合わせながら特別活動を実施するアイデアや実践例などもぜひお待ちしています。コメント欄で一緒に議論を深めませんか。