一徹さんと考える 「性的同意」とは?
女性向けAV俳優として人気を集める一徹さん。今年6月に著書『セックスのほんとう』を出版し、“性的同意は、今後、僕たちが女性とセックスをしようと思った時に避けては通れない話になっていく”という考えを記しました。性的な行為を行うとき、「同意」を確認することが当たり前になれば、性暴力に苦しむ人も減るのではないか。そんな思いから、一徹さんといっしょに性的同意について考えようと、インタビューをお願いしました。
(聞き手・ディレクター 神津善之 田邊幸)
<一徹さん(40歳)>
1979年生まれ。AV俳優歴16年目。現在は自ら、女性が嫌がる行為をしない、性教育にも使えるAVを制作しようと模索中。自身のオンラインサロンでは、セックスに苦しむ女性たちの悩みにも耳を傾けている。私生活では結婚して子育て中。
AVの世界はファンタジー 現実ではない
AVの世界で働く一徹さんにまず聞きたかったのは、「性的同意のない 性暴力が起きる背景に、AVの影響がある」という意見があることについて。こうした指摘をどのように受けとめているのか-
この仕事をやらせていただいて、少なからずAVはファンタジーとしてみんな楽しんでいるものなんだなと思ってたんですけれども、女性たちの生の声を聞くようになって「意外にそうでもないんだ」って。ファンタジーをファンタジーとして楽しむだけじゃなくて、相手の意見とか意思を尊重せず、おろそかにして自分の欲求をぶつけたいっていう方が多い、それで女性をまた我慢させちゃっているっていう状態が結構多いんだなって分かって。そうなると、なんか自分の作っているものが、たまに「とても罪深いもの」なんじゃないかなっていう、悲しい思いというか。なにかできないかなっていう思いはずっともってましたね。
一徹さんは著書『セックスのほんとう』で、AVはファンタジーだとあえて説明している。その理由はー
いわゆる裏側をあえて話す、せっかく工夫して驚かせようとしてやってるそばからバラすって、一緒にコンテンツを作っている人からすると たぶん「おもしろくない」と思われそうなので、すごく、書くときは考えたんですけど…。
いまはスマホで何でも検索できる時代で、18歳以上じゃなくても「はい」って押せば、その先の映像が見えちゃって、「これがエッチなんだ」と思ってしまう。一方で、「正しいエッチ」というか、「ファンタジーじゃないエッチ」ってどんなだろうというのを学ばないまま、話もしないまま、ずっと「こういうものなんだ」と思って進んでいっちゃう状態がある。だから、言った方がいいと思いました。
また、被害に遭われている、我慢されている方たちの思いがたまっていくと、それが巡り巡って ぼくたちの業界自体がなくなっちゃうかもしれないとも思っているんです。そうならないためにも、これはちゃんと言っていく必要はあるんだろうなって思いました。正直、死活問題だから発信しようという考えもありました。
「痴漢」を題材にしたAVの中には、“じっさいの電車の中?”と思わせるような映像もあるがー
最近、痴漢を題材にしたAVのお仕事を頂いていないので、あくまで聞いた話で申し訳ないですけども、実際にそういう電車のロケセットがあって。で、ロケ用の電車を借り切って、エキストラを呼んで、その中で撮影は行われ、本物の電車では行われていないって聞いていますね。
過去には、僕が、女優さんに満員電車の中で犯されてしまうっていうシチュエーションの撮影をしたことがあります。そのときは池袋にあるスタジオで、電車を輪切りにした半分だけのセットで撮りました。SNSを見ると「女の人も痴漢されたがっている」という発言があったりするんですけど、それは全然ウソで、本物の電車で、どこの誰とも知らない人にいきなり そんな行為をされることは、本当に恐怖でしかないと思います。実際にトラウマになっちゃって電車に乗るのが怖いって方もいらっしゃいます。ですから、痴漢をしている人は、すぐやめてください。相手の人が痴漢されたがっているなんてことはありませんから、今すぐ考え方を改めてください。
「性的同意」は いつでも、相手が誰でも 不可欠
「最低限のルールとして、僕たちは、これからする いかなるセックスにおいても、女性に強要をしたり、同意なしに行為に及んだりすることを避けなくてはなりません」(『セックスのほんとう』より)
一徹さんは「性的同意」をどのようなものと考えているのかー
いま考えている「性的同意」の定義は、シンプルに言うと、「相手が嫌がることはしちゃダメだよ」っていうことなんです。それが「いつでも、だれでも、嫌なら嫌だ」って言ってもいい。たとえ夫婦の間でも、彼氏彼女の間でも。「彼氏の家で2人きりになった」イコール「男女の仲になれるか」といったらそんなこともない。どんなに好きでも、「セックスが嫌なときは言ってもいいんだよ」っていうこと。一方、「セックスしたくない」と言われた側も、自分の人格が否定されたわけではないと理解して、「セックスしたくない」という相手の気持ちをちゃんと尊重してあげるっていうことが大事じゃないかなと思います。
ただ、何をもって同意とするのか明確な基準はなくて、すごく難しい。ちょっとさかのぼって「やっぱりあの時、雰囲気で同意しちゃったけど、あれはその場を収めるために我慢しただけで、じつは強要されていた」って言われたら、何も言えないなと。完璧な同意、みんなが納得できる同意のあかしって、どうやって残すことができるんだろうって思いますね。
例えば、記録として動画や契約書を残すのか。オンラインサロンにいただいた意見を見ると、セックス中に動画を撮影して、その時の楽しそうな様子を同意の証拠として残している人もいるらしいんですよ。まあ、お互いがいいんだったらいいんですけど、何か2人の間でトラブルがあった時、あるいはウイルス感染などで、ふとしたところで その動画がアップされてしまったとしたら…。1回SNSに流れると、記録削除しても残ってしまう。それってまた別の問題を生むんじゃない?って思います。
あとで問題が起きた時に、何をもって同意があったことを証明するかっていうのは、僕自身、まだこれっていう答えがなくて・・・。
同意の確認は、言葉が一番
相手の同意を確認するには、どうすればー
お互い納得して、相手の意思を尊重した状態にあることを示すためには、言葉が一番大切なんだろうなっていう感じはしますね。言葉に出すってすごく野暮(やぼ)だし、かっこ悪いし、「こう察してほしい」って文化って多分あると思うんですが、それは、もうやめた方がいい。素直に言っちゃった方がいいと思います、かっこ悪くても。
例えば「君としたい」って、そこはちゃんと言う。これまでは「恥ずかしいから」と、臭い物に蓋をしてきた人は多いと思うんですよね。なんとなく、お酒を飲ませて、なんとなくそういうことに及んで、相手の意志を確認しないで取り返しのつかないことになるよりも、最初から、ちゃんと言う。とっても大事なことなので、恥ずかしがらず、おしゃべりしてもらいたいですね。
セックスに至るまでにいろいろ確認したりするのは、面倒と感じるかもしれないですが、かけたほうがいい手間だと思います。結局、相手に同意の意思がないのに無理やりやっても、うれしいですか?僕はうれしくないので、できるんだったらお互いの意思が一致した状態でそういった行為をしたい。
頭で分かっていても、口に出せないと感じる人もいる。言葉にするためのアドバイスはー
どうしたら言葉にできるのか、それは「男らしさ」とか「女らしさ」の話になっていくと思うんですよ。「男は黙って何々」みたいなコマーシャルじゃないけど、「男の人もつらいことがいっぱいあるけど、いろいろ話すと言い訳っぽく聞こえてかっこ悪い。いちいち性について話をするのは情けない、女々しい」って思う人は少なくないかもしれません。何か悲しいすれ違いが起きてるのかなって思います。
でも、大事なことだから、やっぱり話した方が良いんですよ、絶対に。で、そのためにはちゃんとお互いを理解するためにコミュニケーションもしていかなきゃダメだと思います。また、時代によってどんどん変わっていきますからね、価値観って。だから やっぱり そのつど確認していかないとダメですよね。
誰もが対等につきあえる社会に
いま、性暴力の被害に遭った人たちが声を上げ始めている。そうした状況をどう思っているかー
「いままで 男性って下駄(げた)を履かされてきたんだよ、パートナーの我慢の上で自分の征服欲を満たしてきたんだよ」っていう声もたくさん聞こえてきています。実際、いままでは、男性、いわゆる対人関係で力を持っている方が、持っていない人に対して、下駄を履かせてもらっていたんだと思います。だから これからは、いい意味で対等になっていくんだろうなっていうことですね。きっと少しずつ、いい方向に向かっていくんじゃないかなと思っています。
取材を通して、一徹さんがセックスや性的同意について真剣に考え続けてきたということ、そしてその背景には、セックスや性の問題で苦しんでいる人たちへの深い思いもあるということを感じました。誰もが対等につきあえる社会になっていけば、性的同意も当たり前になっていくのではないか…そんなことを考えながら、まずは自分自身も、男らしさ・女らしさにとらわれてはいないか、身近な人と対等な関係を築けているのか、問い直したいと思いました。「性的同意」について、これからも取材を続けていきたいと思います。
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