にっぽん縦断 こころ旅
前略
火野正平さんはじめ「こころ旅」のスタッフのみなさん、こんにちは
私は毎日 朝と夜の「こころ旅」を楽しみに視ています
先月九十三歳になりました。元気で一人暮らしをしている老婆です。雨の降る日や風の強い日、急坂をフウフウ言い乍ら上られる姿に大変だなあと思いながら見ています。もう自分では絶対に行くことの出来ない日本中の色々な景色を見せて下さり毎日長生きしてよかったと思っています
この度(たび) 京都府を旅されると知り 私の思い出の場所を見せて頂きたいと思いお便りしました
今から八十年も昔になりましたが 私は女学校の臨海学校で京都府の丹後湊(みなと)と言う海岸に三夏行きました
そこは日本海側の海岸の村でおよそ海水浴の客などは見かけたことのない所でした。
京都駅から山陰線に乗って(その頃は蒸気機関車で煙がすごかった)丹後神野(かんの)と言う所で降り 湖のように広い入江を船で渡り湊と言う小さな集落に着きました
そこの小学校の教室に畳を敷いて寝泊まりしました
一週間か十日間の合宿生活でした 昼間は波の静かな内海(うちうみ)で泳ぎを習い 波の荒い外海(そとうみ)は波と戯れる遊びの場の様でした 沖にある小さな島まで遠泳もありました
青い松林 白い砂浜と絵の様に美しい海岸でした 私は小学校と海岸の往復のみで集落の方にはあまり行かず記憶が無いのですが その後ホテルでも建ってリゾート地になったのではないかなどと考えています
もう八十年も昔の思い出ですが あの美しかった海岸の風景をもう一度見たいと切に願っています よろしくお願いします 皆様のご健康と旅の安全を願いつつ筆をおきます
七月四日
かしこ
「こころ旅」係さま
坂本和賀子
千葉県四街道市
坂本和賀子さん(93歳)からのお手紙