にっぽん縦断 こころ旅
正平さん、チャリオ君、スタッフの皆様、おはようございます。
私が訪ねてほしいこころの風景は、京都府京田辺市、田辺東小学校近くの木津川の堤防です。昔、母と散歩したおもいでの場所です。
大人になってからの私はけして母と仲が良いとは言えませんでした。母が亡くなった時も、やっと干渉から解放される、と、亡くなった母が不憫で泣きはしたものの、自分が母を亡くしたという悲しみは正直ありませんでした。
その後、結婚し、初めての出産を終え、生まれたばかりの娘をあやしていた時、テレビから「おぼろ月夜」の歌が流れてきました。その刹那、私の脳裏に母を大好きだった頃の記憶がよみがえりました。
ほの暖かい春の夕暮れ、通っていた小学校近くの堤防を母と散歩していました。片方には夕日に赤く染まった木津川、もう片方はただただ広がる田んぼ、そのむこうに菜の花が咲いているのが ふと、目にとまり、どちらからともなく♪菜の花ばたけに入日うすれ♪・・・と「おぼろ月夜」を歌いはじめました。歌い終わると母がふと足をとめ「いつか たえこが大人になって子どもが生まれて、その時、もうママは死んじゃっていなくて。昔ママと散歩して歌うたったりしたなぁ、とか、こんなどうってことないことを思い出したりするんかもなあ」とつぶやきました。幼い私は大好きな母がいつかいなくなってしまう恐怖と悲しみで、往来だというのに大声で泣いてしまいました。そうです、たしかにあの時私は母が大好きだったのです。
我が子を抱きしめて私はその時、はじめて自分が母を失った悲しみに涙しました。
季節的に菜の花も咲いていないでしょう。風景もすっかり変わってしまったかもしれません。それでも正平さんに母と散歩した あの堤防を訪ねていただいて、母を大好きだったあの頃を偲んでみたい、そう思うのです。
よろしくお願いいたします。
奈良県高取町
大原たえこさん(50歳)からのお手紙