にっぽん縦断 こころ旅
福井県小浜市
北尾久子
三方上中郡若狭町 塩坂越(しゃくし)の浜辺
こころ旅のスタッフの皆さまが再び福井県を訪れて下さると知り、お便りします。
もう六十年近く昔のことになります。現在の若狭町小川の漁村から天秤棒を担ぎ小いか、鰺じゃこ、干物を届けてくれる「おばさん」がありました。夜の明けぬうちから船に乗り、塩坂越(しゃくし)の港につくとバスに乗り、小浜線の三方駅から列車、東小浜駅の我が家まで三時間程かけて来て下さいました。「おばさん」のお魚は新鮮で美味しく、父母と兄姉の七人家族の食卓は幸せでした。
小柄な「おばさん」は「姉さん被りに絣の上下」、白い手拭いを首に当て、天秤担いで、その姿は軽やかでした。何年かが過ぎ「一度 小川の村に」と誘われました。みんなで行くことになりました。三方駅で下車し三方五湖の畔を右に、梅林を左右に眺めながら進むと少し坂になり塩坂越トンネルを貫けると真っ青の若狭湾が広がり、歓声をあげました。急な坂を下ると静かな小さい浜辺が迫り、そこから船に乗りました。海の青 空の青 松の緑の絶景でした。
歳月は流れ 小川への道路、トンネルも整備され 急な坂を下りて、船に乗ることもありませんが 家族で行った三方駅から湖畔を辿り、トンネルを貫けると海の広がる塩坂越の村の浜辺に行っていただけませんか。
私はたまに塩坂越まで行くことが出来ますが、三人の姉のなかで、横須賀に住んでいる姉は、躰の自由がきかなくなり、帰郷が遠のいています。横須賀の紺碧の海も美しいですが、齢を重ねるごとに望郷の念の募る姉に、若狭湾を 浜辺を 三方五湖を 梅林を 見せていただけたらしあわせです。遠い日の家族の風景が、姉の心の旅を呼び戻してくれると思います。
福井県小浜市
北尾久子さん(70歳)からのお手紙