ホルモン補充療法の効果と副作用 治療をいつまで続けるか

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女性の更年期 症状は100以上!?

女性の更年期に起きやすい症状

女性の更年期にはさまざまな症状が発生します。理由は主に2つあります。
まずは、卵巣から分泌される、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの減少によるもの。エストロゲンは全身のさまざまな場所に作用していますがこの働きが弱まってしまいます。もうひとつが、脳の下垂体のホルモンの過剰分泌です。
卵巣が上手く働かなくなっていくと、「頑張ってホルモンを出しなさい!」と脳の下垂体がホルモンを過剰に分泌し、自律神経失調症状を引き起こします。

  • 主にエストロゲン不足で起きる症状
    関節痛・くよくよする・怒りっぽいなど
  • 主に自律神経についての症状
    のぼせ・ほてり・発汗・寝汗・動悸・息切れなど

歯周病などは、エストロゲン不足も、自律神経失調症も無関係のように思われますが、エストロゲンの減少はさまざまな場所に「乾燥」を引き起こします。口の中が乾燥すると、菌の繁殖が増え、歯周病につながります。
このように1つの症状が、さまざまな症状を引き起こすこともあるため、たくさんの症状が現れてくるのです。

更年期障害の診断

更年期障害の診断

更年期障害は、次のように診断されます。

問診

更年期症状の強さや現れ方は個人差が大きく、人によって感じ方はさまざまです。ある人にとってはそれほど気にならない症状でも、ある人には生活に支障をきたすほどつらく感じられることもあります。そのため、更年期障害は“主観的な病気”ということができ、問診が重要になります。

【問診で聞かれる主な項目】

  • 症状
    どんな症状がつらいのか、いつごろから始まったのかなど、質問紙を使って症状を点数化し、評価することもある。
  • 月経
    初経や閉経の年齢、月経の周期・日数、月経不順の有無、妊娠・出産の有無など。基礎体温をつけていれば、診察時に見せるとよい。1年以上月経がなければ、さかのぼって閉経とみなす。
  • そのほか
    生活環境やストレスなど

血液検査

更年期には女性ホルモンが大きく関係します。血液検査で血液中の女性ホルモンと、女性ホルモンを分泌するのに必要な脳下垂体ホルモンの数値を調べることができます。ただし、更年期には、女性ホルモンが大きくゆらいでいることが多いため、現在のホルモン状態を把握するためには、間をあけて、少なくとも2回は血液検査を行う必要があります。

ほかの病気の検査

子宮がんや子宮筋腫など婦人科疾患のほか、更年期とよく似た症状があらわれる甲状腺の病気関節リウマチなど、ほかの病気が隠れていないかも検査します。

更年期障害かもしれないと感じたらどこを受診する?

更年期障害かもしれないと感じたら、「婦人科」を受診するとよいでしょう。
専門医を調べたい場合は、日本女性医学学会のホームページに「女性ヘルスケア専門医」が掲載されているので参考にするとよいでしょう。

日本女性医学学会のホームページはこちら
※NHKサイトから離れます

更年期障害の治療はオーダーメイド

更年期障害の主な治療法

更年期障害の治療の中心は、ホルモン補充療法漢方薬です。また、本人の性格や生活環境、ストレスも深く関わっているので、カウンセリングも重要な役割を果たします。必要に応じて、睡眠導入剤や抗うつ薬、抗不安薬、そのほか症状に合わせた薬が処方されることもあります。
一人ひとりの症状に合わせて治療法を使い分けながら、その人に合った“オーダーメイド”の治療法を探していきます。

ホルモン補充療法とは?

更年期障害の最大の原因は、女性ホルモン、特にエストロゲンの減少とゆらぎです。この不足したエストロゲンを薬で補い、ゆらぎを小さくするのがホルモン補充療法です。

エストロゲン製剤

ホルモン補充療法では、人工的に作ったエストロゲンを含む「エストロゲン製剤」を使います。エストロゲン製剤には、貼り薬、ジェル状の塗り薬、のみ薬の3つがあります。貼り薬と塗り薬は、皮膚から吸収されて血管に入るため、肝臓や胃に負担がかからず、副作用が少ないというメリットがあります。そのため、貼り薬や塗り薬で治療を始めることが多いですが、患者と医師で相談して使いやすい形の薬を決めていきます。

のみ薬の中には、一部には非常に作用の弱いタイプのものもありますが、それを除けば、どの剤形でも効果は同じです。また、すべて健康保険が適用されます。

貼り薬は下腹部に貼って使用します。週に2回程度、張り替えるだけでOKです。

ホルモン補充療法の貼り薬

ジェル状の塗り薬は入浴後などに両腕に塗ります。サラッとした感触で違和感なく使用できます。

ホルモン補充療法 ジェル状の塗り薬

効果

主な更年期症状

ホルモン補充療法で不足していたエストロゲンが補充されると、乱れていた自律神経のバランスが整い、多くの症状が改善します。特に、ホットフラッシュと呼ばれる「のぼせ」「ほてり」「発汗」に高い効果を発揮します。そのほか、イライラや気持ちの落ち込みが改善したり、記憶力や集中力が戻ったりして、自信を取り戻して前向きになる人もたくさんいます。

こうした更年期症状の改善に加えて、下記のような効果も報告されています。

副作用

ホルモン補充療法の主な副作用

ホルモン補充療法を始めると、「不正性器出血」「乳房の張りや痛み」「胃のむかつきや吐き気」が現れることがあります。しかし、1か月から3か月程度で治まることがほとんどです。不正出血が続く場合は、薬の投与方法を変更したり、ほかの病気が隠れたりしていないか調べます。

また、ごくまれに血栓症を引き起こすことがあります。そのため、特に使い始めの時期には慎重に様子を見ます。なお、喫煙や肥満がある人は血栓症のリスクが高いため、エストロゲン製剤の投与には特に注意が必要です。乳がん脳卒中心筋梗塞にかかったことがある人は、ホルモン補充療法を受けることができません。ホルモン補充療法を受けられるかどうかは、担当の医師に確認してください。

疑問解消!ホルモン補充療法

ホルモン補充療法を受けると、乳がんになりやすい?

20年ほど前に「ホルモン補充療法によって乳がんの発症が増加する」という報告があり、ホルモン補充療法は5年以内に終了するべきと考えられてきました。しかし、その後の研究で、ホルモン補充療法が乳がんの発症に与える影響は、肥満やアルコール摂取が与える影響と同程度、つまりとても小さいということが分かってきました。そのため、現在では、定期的に乳がん検診を受けていれば、ホルモン補充療法を5年以上続けることも可能です。

ただし、血縁者に乳がんや卵巣がんを発症したことがある人がいる場合、遺伝的に乳がんになりやすい可能性もあります。その場合は、長期のホルモン補充療法を行うかどうか、担当医とよく相談してください。

子宮体がんになりやすい?

エストロゲン製剤だけを半年以上使うと、子宮の内膜が増え続けて、子宮体がんのリスクが高まることが知られています。そのため、ホルモン補充療法を行う際には、エストロゲン製剤に加えて「黄体ホルモン製剤」も併用します。もう1つの女性ホルモンである黄体ホルモンには、内膜の増殖を防ぐ働きがあり、併用することで、子宮体がんのリスクを抑えることができるのです。エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の2つを併用してホルモン補充療法を行えば、子宮体がんの心配はありません。

手術で子宮を摘出した場合には、子宮がんの心配がないので、エストロゲン製剤だけで治療を行います。

ホルモン補充療法 子宮がある場合とない場合

治療はいつまで続ける?

最新のガイドライン(ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版)では、「ホルモン補充療法の投与継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」とされています。治療によるメリットがリスクを上回っていて、本人がリスクについても十分理解した上で継続を希望するのであれば、継続が可能です。実際、70代・80代でホルモン補充療法を続けている人もいます。

逆に「体に合わない」「あまり効果が感じられない」「薬がなくてもやっていける自信がついた」などの場合は、やめることも可能です。その場合は医師と相談してください。

あなたに合った漢方を

更年期障害の治療には、漢方薬もよく使われます。体全体の調子を整えてくれる漢方薬は、全身にさまざまな症状が現れる更年期の不調を和らげるのに大変向いています。とくに、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は「婦人科三大処方」とも呼ばれ、更年期障害の治療によく用いられます。

漢方では、症状だけでなく「証」といって、その人の体力や体質などを総合的に診て、その人に合った薬を処方します。そのため、同じ症状でも人によって処方される薬が異なります。また、季節によっても処方される薬が変わることもあります。

当帰芍薬散

当帰芍薬散

当帰芍薬散は、体力が弱く(虚証)、冷え症で貧血の傾向があり、疲れやすい人に向いています。

加味逍遙散

加味逍遙散

加味逍遙散は、体力が普通から弱い人で(中間証〜虚証)、のぼせや肩こり、疲れやすい、不安、イライラといった症状がある人に向いています。

桂枝茯苓丸

桂枝茯苓丸

桂枝茯苓丸は、比較的体力があり(実証)、肩こりや頭痛、めまい、のぼせ、足の冷えなどの症状がある人に向いています。

漢方薬は、ほとんどの婦人科や内科で処方しています。また、更年期障害の診断がついていれば、健康保険も適用されます。おだやかな効き目で安心して使えるものがほとんどですが、薬なので副作用もあります。自己判断で量や種類を増やしたりせず、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年6月 号に掲載されています。

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