骨が生み出す「オステオポンチン」の働きとは?老化や免疫力に作用

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人体(NHKスペシャル)

骨は私たちの体を支える大切な役割を果たしていますが、それだけではありません。骨の中の細胞が出すホルモンと呼ばれる物質に、体全体の若さを生み出すすごいパワーがあることが、最新の研究で次々と明らかになっています。

骨はさまざまなホルモン、いわゆる
骨はさまざまなホルモンを放出し、あなたの若さを生み出していることが最新研究からわかってきた

骨が出す「オステオポンチン」が免疫力をアップする

骨の中にはたくさんの細胞が存在していますが、とくにいま"若さを生み出すカギ"として注目されているのが、「骨芽細胞」という骨を作る細胞の出すホルモンです。そのひとつが「オステオポンチン」。骨芽細胞だけでなく、体のいろいろな細胞からも放出されていて、さまざまな働きをしています。中でも骨芽細胞が出すオステオポンチンは、骨髄に存在する「造血幹細胞」の機能を若く保ち、全身の免疫力を活性化する働きがあることがわかってきているのです。

骨をつくる細胞「骨芽細胞」が放出する
骨をつくる細胞「骨芽細胞」が放出するホルモン「オステオポンチン」。造血幹細胞の状態をコントロールする

「オステオポンチン」は免疫細胞の量をコントロールする

造血幹細胞とは、T細胞やB細胞といった体を守る免疫細胞のほか、赤血球や白血球などのもとにもなる細胞です。ドイツ・ウルム大学のハームット・ガイガー博士は、骨芽細胞の出す「オステオポンチン」というホルモンに、"造血幹細胞の機能を若く正常に保つ働き"があることを論文で発表しました。博士は実験で、マウスから取り出した造血幹細胞にオステオポンチンを加えたものと、加えていないものを用意し、それぞれを同じ条件のマウスに移植しました。すると5ヶ月後、オステオポンチンを加えたマウスでは、免疫細胞の量が、加えていないマウスの倍近くにまで増加していました。ということは、その逆にオステオポンチンがなくなると、大事な免疫細胞の量が減ってしまうと考えられるのです。ガイガー博士は「高齢者の死因の多くは感染症や肺炎などです。老化とともに免疫力が低下し、病原菌やウイルスと戦う力が低下するためです。その免疫力の低下に、オステオポンチンが大きく関わっていることが確認されました」と話しています。

骨をつくる細胞が出す「オステオポンチン」が免疫細胞の量を若い状態で保つことを発見した、ドイツ・ウルム大学のハームレット・ガイガー博士。
骨が出す「オステオポンチン」が免疫細胞の量を若い状態で保つことを発見したハームット・ガイガー博士

増えればいいというものではない「オステオポンチン」

オステオポンチンの働きは、老化のメカニズムとの関わりで、いま次々と解明され始めています。たとえば、免疫細胞のひとつであるT細胞が必要以上にオステオポンチンを放出すると、慢性炎症を引き起こし、逆に老化が進んでしまうという研究も発表されています。オステオポンチンは体の免疫力を根本からアップさせ、若さを生み出すという、人体にとって重要な働きがあると同時に、状況によっては、逆に老化の原因物質にもなる可能性もあるのです。人体のメカニズムというのは、かくも多様な働きと精緻なバランスの上に成り立っていることがわかってきています。

活発に増殖する免疫細胞(CG)。オステオポンチンは免疫細胞の量を左右し、若さを保つ一方で、別の組織では老化の原因となる慢性炎症を引き起こす。

活発に増殖する免疫細胞(CG)。オステオポンチンは免疫細胞の量を左右して若さを保つ一方、

逆に老化の原因となる慢性炎症を引き起こすこともある

研究者の間でも、長らく骨は「体を支えるためのカルシウムの固まり」と思われていましたが、今や骨は「若さを生み出す臓器」として大注目されています。ガイガー博士は「骨から出るホルモンが他の臓器や細胞に受け取られることで、老化が進む速さが決定されている」と言います。いわば骨は"老化のペースメーカー"だというのです。その仕組みの解明によって、近い将来、骨が出すホルモンをサプリメントにして飲むことで若さを保てるような時代がくるかもしれない、ともガイガー博士は話しています。

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この記事は以下の番組から作成しています

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