乳がんが再発するメカニズムや症状、治療方針について

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乳がんが再発するメカニズム

乳房の断面図
非浸潤がん
浸潤がん

多くの乳がんは、母乳を乳頭まで運ぶ乳管にできますが、がんが乳管内にとどまっている場合は、非浸潤がんと言います。この状態は、まだ早期の状態なので、転移することはありません。

一方、がんが進行して、乳管の壁を破った場合は浸潤がんと言います。この状態になると、乳房内やそれ以外の臓器にもがんが転移する危険性があります。
乳管から外へ出たがん細胞は、体のどこかへ潜みます。最初に治療するときは、手術や薬、放射線などで、がんを攻撃しますが、それでもしぶとく生き残ったがん細胞が、その後大きくなって見つかると考えられています。これが「再発」です。

再発の2種類 「局所再発」と「遠隔転移」

再発する場所

再発には「局所再発」「遠隔転移」という2つの種類があります。
局所再発は、手術後の乳房や、その周りの皮膚やリンパ節に再びがんができるタイプの再発です。遠隔転移は、脳や骨、肺、肝臓といった乳房とは離れた別の場所にがんができることをいいます。
乳がんが再発した場合の治療は、局所再発なのか遠隔転移なのかによって方針が変わります。

局所再発の症状と治療方針

局所再発の場合、皮膚の赤みやしこりなどの自覚症状によって気づく場合があります。局所再発の治療は根治を目指します。1度目の治療と同じように、手術でがんを取り除き、必要に応じて放射線や薬を使って治療します。

遠隔転移の症状と治療方針

遠隔転移した場合は、転移した部位によって症状が異なります。たとえば、脳に転移すれば頭痛や吐き気、手足のまひが起こり、肺ならせきや息切れ、骨なら痛み、肝臓であればおなかの張りや倦怠(けんたい)感などが起こります。こういった症状によって再発に気づくケースもありますが、自覚症状が全く起こらないケースもあります。
遠隔転移の場合は、転移が確認されたがん以外にも、がんが潜んでいる可能性があります。現在の治療法では、がん細胞をすべて死滅させるのは困難なので、がんの根治を目指すのではなく、進行を抑えたり、痛みをやわらげたりすることで生活の質を保つ治療が行われます。
遠隔転移の根治は困難ですが、現在は、糖尿病や高血圧のように、病気を抑えながらがんと共存していくことが可能になってきているので、がん=死と思い込まないことが肝心です。

遠隔転移の薬物療法

遠隔転移の場合は、乳がん細胞がリンパ液や血液の流れにのってほかの臓器で増殖するため、そのがんは乳がんの性質をもっているといえます。薬の治療は、1度目の治療と同じく、乳がんのタイプごとに適した薬が使われます。ところが、遠隔転移の治療では、薬の使い方が少し異なる場合があります。

そもそも、遠隔転移の治療方針は、"がんとの共存"なので、可能な限り長く薬を使用することになります。しかし、同じ薬を長期間使い続けているとだんだん効かなくなってきます。
そこで、まずは1つの治療法を行って、効果があるうちはそれを続け、効果がなくなれば別の治療法に変更していきます。とくに薬の使い方が異なるのは、女性ホルモンによってがんが増殖するルミナルAとルミナルBです。通常は、ホルモン剤のみで治療が行われますが、この効果がなくなってきたら、抗がん剤による治療に切り替えます。

再発した乳がんに有効な最新薬もある

最近注目されているのが、再発性のがんに効く新薬、CDK4/6阻害薬です。この薬は、ルミナルA、ルミナルBタイプの再発性がんに効果がある分子標的治療薬です。ホルモン剤による治療の効果がなくなってきて抗がん剤による治療に移行する一歩手前で使われます。
CDK4/6阻害薬は、がんだけに作用し、がんが増殖するスピードを制御する薬で、副作用の少なさが大きな特徴です。ただ、白血球の減少など、いくつかの副作用は認められますが、抗がん剤ほど大きな副作用がありません。この薬は飲み薬なので、抗がん剤のように通院して点滴をする必要がありません。
2017年11月に、日本でも保険適用になりました。

乳がんの再発率を調べられる「多重遺伝子検査」

乳がんの再発のリスクがあるかどうかがわかるのが、多重遺伝子検査です。
手術中に採取したがん組織を使い、再発に関係する複数の遺伝子を解析して、10年以内の再発のリスクや、抗がん剤による治療がどのくらい効果があるかなどを調べます。
多重遺伝子検査を行えば、再発の可能性が低い場合は安心することができ、患者さんの精神的負担も減らすことができます。また、抗がん剤があまり効かないとわかれば、不要な抗がん剤治療を受けずに済むので、体の負担も軽減できます。
一方、検査によって再発の可能性が高いことがわかり、さらに抗がん剤による治療の効果が高い場合には、納得して抗がん剤治療を受けることができます。
多重遺伝子検査は、現時点では、保険適用にはなっていないため、自己負担で30万~50万円かかります。また、多重遺伝子検査にも色々な種類があるので、検査を受けたい場合にはまず主治医に相談することをおすすめします。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2017年8月 号に掲載されています。

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