男性特有の前立腺がんは血液検査で早期発見できる 進行と症状、検査について

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前立腺がん排尿がおかしい尿の色がおかしい泌尿器

前立腺がんとは

前立腺は、男性特有の生殖器官です。

前立腺の場所

膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあって、膀胱から続く尿道の周りを囲み、精液の成分をつくるなどの働きをしています。
前立腺がんは50歳代から増え、高齢になるほど多くなります。2017年の統計では、日本で前立腺がんを発症した人は年間約9万人で、男性に発症するがんの第1位です。ただ、前立腺がんは進行が比較的ゆっくりなので、死亡率はほかのがんに比べるとあまり高くはありません。

<前立腺がんのリスクを高める要因>
前立腺がんは、男性であれば誰でも発症する可能性がありますが、さらに発症のリスクを高める要因がいくつか知られています。1つは食生活です。食生活の欧米化が進み、肉や乳製品など、前立腺がんに関係すると考えられている高脂肪の食事を多くとる人が増えています。また、遺伝的な要因も指摘されています。特に、父親や兄弟に前立腺がんを発症した人がいる場合、発症のリスクが2~5倍程度高くなるといわれています。さらに、加齢もリスクを高める要因です。社会の高齢化に伴い、前立腺がんの患者数が増えています。

患者数が増加した背景には、こうした社会の変化に加えて、検査の普及や検査機器の進歩などにより、小さながんも検知できるようになったため、前立腺がんが発見される人が増えたことも一因と考えられています。

前立腺がんの進行

前立腺がんの多くは、前立腺の外側の「辺縁域」と呼ばれる部分に発生します。その進行は大きく3段階に分けられます。

前立腺がんの初期の状態、限局がん

がんが前立腺の中にとどまっている初期の状態が「限局がん」です。この段階では、がんが膀胱や尿道に影響を及ぼすことは少ないため、自覚症状が現れることはほとんどありません。

局所進行がん

がんが大きくなって、前立腺を覆っている膜を突き破り、外に出ているのが「局所進行がん」です。がんが尿道を圧迫するため、頻尿や、尿が出にくいなどの症状が現れます。血尿が現れることもあります。

転移がんについて

がんが体のほかの部位に転移しているのが「転移がん」です。前立腺がんでは、リンパ節や骨への転移が多く起こります。リンパ節に転移すると脚のむくみ、骨に転移すると背中や腰の痛みが現れます。がんが脊髄を圧迫すると、下半身のまひが現れることもあります。前立腺がんは、転移がなければ経過観察や治療によって寿命を全うできるケースが多いのですが、転移があると5年生存率は5割程度に下がります。

早期発見のための「PSA検査」

前立腺がんの初期には、自覚症状がほとんどありません。早期発見のためには、採血して行う「PSA検査」が重要です。

PSA検査について

PSA(前立腺特異抗原)は、前立腺の細胞でつくられるたんぱく質の一種です。PSA検査では、前立腺から血液中に漏れ出したPSAの量を調べます。

前立腺がんが大きくなるほどPSAの量が多い

PSAは、健康な状態や、前立腺肥大症などがある場合でも血液中に漏れ出しますが、前立腺がんがある場合、がんが大きくなるほどPSAの量が多くなります。
PSAには基準値があり、年齢によって異なります。

PSAの年代別基準値

PSAの基準値は、50~64歳では3.0、65~69歳では3.5、70歳以上では4.0となります。この値を超えると「前立腺がんの疑いがある」と判断されます。

PSA検査が勧められる人

50歳以上の人や、40歳代でも父親や兄弟に前立腺がんを発症した人がいる場合、PSA検査を受けることがすすめられます。PSA検査は、人間ドックや医療機関を受診して受けることができ、いずれも費用は自己負担で3000円程度となります。また、自治体によっては、住民検診でPSA検査を行っている場合もあります。

基準値を超えていてもがんがない場合も

PSAが基準値を超えていても、前立腺がんではない場合があります。

50歳以上の5人に1人が前立腺肥大症

50歳以上の男性の約5人に1人が発症する前立腺肥大症という病気の場合や、サイクリングや性行為などで前立腺が刺激を受けた場合などにPSA値が上がることがあります。

基準値以下でもがんがある場合がある

前立腺がんがあるのに、基準値以下であることもあります。

がんが小さい場合PASの量が少ない

がんが小さい場合は、漏れ出るPSAの量が少ないケースがあるためです。そのため、基準値に収まっていても油断は禁物で、その後もPSA検査を受けることがすすめられます。

PSA値が低くても検査う受けることがすすめられる場合

PSA値が1.1以上の場合は1年に1回、1.0以下の場合は3年に1回PSA検査を受けることがすすめられています。このように定期的に検査を受ければ、がんを早期のうちに発見できると考えられています。

がんが疑われる場合の精密検査

PSA検査の結果、がんが疑われた場合は、精密検査が行われます。

前立腺がん・精密検査

直腸診

「直腸診」は、医師が手袋をして肛門から指を挿入し、直腸の壁越しに前立腺に触れます。硬い部分やでこぼこがあると、前立腺がんがあることが強く疑われます。

MRI検査

前立腺がんのMRI画像

「MRI検査」では、前立腺の内部の様子を画像に映し出します。上の図は、前立腺周辺を正面から見たものです。黄色い矢印で示した箇所が膀胱で、その下にある赤い矢印で示した箇所が前立腺です。前立腺の右側の広い部分で色が濃く見えるところが前立腺がんです。

前立腺がんのMRI(水平断面から見た場合)

上の図は、水平断面で見た前立腺がんです。左側の画像では、緑色の矢印で示した部分が直腸、赤い矢印で示した部分が前立腺です。前立腺の右側には前立腺がんがあり、色がやや濃くなっています。
右側の画像では、赤い矢印で示した部分に前立腺がんがあり、周囲に比べて色が濃く映し出されているのがよりはっきりわかります。
このケースでは、がんが直腸から離れた場所にあるため、直腸診ではがんがわかりません。MRI検査では直腸診では触れにくい場所にあるがんを見つけることができるというメリットがあります。

確定診断は生検で

直腸診・MRI検査でがんが強く疑われる場合や、定期的なPSA検査で急に値が高くなった場合には、確定診断のために生検が行われます。局所麻酔をした上で、前立腺に細い針を10か所以上刺して組織を採り、顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。検査後、出血したり、尿が出にくくなることがあるため、多くの場合1~2日間入院して行われます。

がんだとわかったら

生検の結果、前立腺がんと診断されたら、さらに、治療方針を決めるための検査が行われます。がんの「悪性度」は生検で調べ、2~10の範囲でスコアをつけます。8以上だと悪性度が高いと判定されます。がんの「進行度」は、MRIやCTなどの画像検査で前立腺周辺を見て判定します。また「転移がん」が発生していないか調べることも重要です。リンパ節や前立腺の周囲の臓器への転移の有無はCT検査で、骨への転移は「骨シンチグラフィー」という検査で調べます。

骨転移(骨シンチグラフィー)

骨シンチグラフィーでは、骨の新陳代謝が活発な部位に集まる性質がある「放射線同位元素」という物質を含んだ薬剤を患者さんに注射し、その物質が出す放射線の量を測定して画像化します。上の図の特に白っぽく写っている部分が、骨転移したがんです。

経過観察を続ける場合(監視療法)

前立腺がんでは、がんが小さく悪性度が低い場合、積極的な治療をすぐには行わず、定期的に検査を受けながら経過観察を続ける「監視療法」が行われるケースがあります。

監視療法の条件

監視療法は、「PSA値が10未満」、「限局がんである」、「悪性度が6以下」、「陽性コアが2本以下」という条件がそろった場合、本人が希望すれば選ぶことができます。陽性コアとは、生検で指した針のうち、がん細胞が見つかった針の本数のことです。

監視療法中の定期検査

監視療法中の期間は、PSA検査を3か月ごとに、直腸診を6か月ごとに、生検は前立腺がんと診断されてから1年後、4年後、7年後を目安に受けることが推奨されています。最近では、進歩したMRIにより、がんの広がりが見つけやすくなったため、監視療法中の定期的なMRI検査も多く行われるようになってきています。

積極的な治療開始の目安

監視療法を続けるうちに、がんが進行するなどの変化がみられれば、積極的な治療の開始を考えます。明らかにがんが大きくなってきた、悪性度が7以上に上がった、陽性コアが3本以上に増えたといったことが治療開始の目安となります。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年9月 号に掲載されています。

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