歯を守るためには?

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歯を守るためには?

歯を失う原因で代表的なのは「歯周病」と「虫歯」です。
現在では歯を失ってもブリッジや入れ歯など、さまざまな選択肢がありますが、原因に対する対処をしないかぎりは、歯を失い続けてしまいます。では、「歯を守る」ためにどんなことができるのでしょうか?

次々に歯が抜ける!歯周病

歯が抜けたときのイメージ写真

Aさん(男性・71歳)は長年、歯科とは縁がなく、歯には自信がありました。
しかし、7年前、突然、歯に異常を感じました。
「上下の奥歯の安定が悪く、揺れているような感じがしました」
歯磨きを徹底すれば元に戻ると思ったAさんは歯科には行かず、一層丁寧に歯磨きに励みました。しかし、歯は日に日に抜けていきました。3週間ほどの間に奥歯が4本も抜けてしまったのです。奥歯をほとんど失ったAさんはやわらかいものしか食べることができなくなってしまいました。
途方にくれたAさんは、近所の歯科を受診。歯が抜けた原因は「歯周病」だとわかりました。

歯周病になるとなぜ歯が抜ける?

歯周病になるとなぜ歯が抜ける?

歯周病は、歯を支える歯ぐきや、歯ぐきの中にある骨などに炎症が起こる病気です。その原因は、歯周病菌が作り出すプラークです。プラークは2日から2週間ほどたつと、やがて石のように固いかたまり、「歯石」になります。
歯周病菌は歯石の中でさらに増殖し、毒素を出します。この毒素が歯ぐきに炎症を起こすのが「歯肉炎」です。
歯肉炎がさらに進行すると、歯と歯ぐきの隙間が深くなっていき、そこに「歯周ポケット」という溝ができてしまいます。歯周ポケットの奥までは歯ブラシの毛先が届かず、プラークを除去できないため、歯周ポケットはさらに深くなっていきます。歯周ポケットに潜んでいる歯周病菌は増殖しながら毒素を出し続け、炎症を引き起こすだけでなく、歯を支えている「歯槽骨(しそうこつ)」を溶かし始めます。これを「歯周炎」と言います。こうなると歯ぐきが下がって歯がグラグラするようになり、最終的には抜けてしまいます。

歯周病から歯を守るチョイス

①プラークコントロール

歯周病への対処

歯周病によって歯を失わないためには、遅くとも「歯肉炎」の段階で対処しましょう。
そのためにまずできることは、セルフケアによる「プラークコントロール」の徹底です。プラークコントロールとは、歯についた歯こうを歯ブラシや歯間ブラシなどで除去することです。歯周病の予防にもなります。

②スケーリング

歯科で受ける「スケーリング」は、セルフケアの歯ブラシでは除去できなかった、歯の歯こうや歯石を器械で取り除くことです。3~4か月に1回程度、歯科に行って除去することが大切です。

③フラップ手術+歯周組織再生療法

フラップ手術

歯肉炎が進行し、歯ブラシの毛先が届かないところまで歯周ポケットが深くなると、セルフケアやスケーリングでは歯石を除去することができなくなってしまいます。その場合には「フラップ手術」が有効です。
フラップ手術では、歯肉の内側に入り込んでいる歯石を除去するため、歯ぐきを切開する必要があります。

歯周組織再生療法

歯肉の状態によっては、フラップ手術だけではなく、さらなる治療を行うことがあります。それが「歯周組織再生療法」です。
歯周組織再生療法では、歯石が取り除かれた空洞の部分に、たんぱく質を主成分とする特殊な薬を注入します。すると、歯周組織の細胞が増殖したり、空洞に栄養が送り込まれたりするようになります。その結果、失われた骨や歯肉が再生されていきます。
この治療は保険適用で受けることができます。1本の歯の手術と再生療法の場合、3割負担で1万円程度です。多くの場合、複数の歯をまとめて治療します。歯周組織の回復が確認できるまでには半年から1年以上かかるため、歯科を定期的に受診してメンテナンスを行うことが勧められます。

抜けた歯は元に戻せない?

抜けた歯を持つ写真

抜けた歯を元に戻すことは難しいのが現状です。歯を支える土台となる「歯槽骨」が壊れていることや、歯と骨をつないでいる「歯根膜(しこんまく)」という組織が歯周病菌によって壊されてしまっているためです。
ただし、ケガなどで歯が折れてしまった場合は、条件が合えば折れた歯を元に戻すことが可能です。その場合、歯についている組織が死ぬまでに処置する必要があるため、速やかに対処します。

治療したはずが再び虫歯に!

電話をかける写真

会社員のBさん(女性・30歳)です。
虫歯を治療した奥歯に3年前から違和感を覚えるようになりました。気になったBさんは歯科を受診したところ、意外なことを告げられました。
治していたはずの虫歯が再発し、進行してしまっているというのです。実は、虫歯を削っても詰め物のすき間から再び虫歯菌が入り込み再発してしまうことがあるのです。これを2次虫歯と言います。

歯の断面のイラスト

虫歯の進行

虫歯の進行は4段階に分けられます。
初期がC1、進行に応じてC2、C3、C4と進んでいきます。
虫歯菌によって歯がむしばまれると、虫歯菌が出す酸によって歯が溶けてしまいます。すると、歯髄と呼ばれる神経まで進行し、この状態を放置すると神経が死んで腐り、周囲の組織にも影響を与え、C4と呼ばれる抜歯せざるを得ない状態になります。
Bさんの虫歯は、歯の神経まで虫歯が進んだC3でした。この状態がさらに進むと、神経が死んでしまい、歯の根元に膿がたまって炎症を起こします。

虫歯から歯を守るチョイス「根管治療」

虫歯を放置すると最終的には歯を抜かなくてはなりません。
それを避けるためには「根管治療」が有効です。根管治療では、歯を削ったあと、虫歯に汚染された「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経などの組織を除去して消毒、充てん剤で満たし、最後にかぶせものをします。

根管治療の難しさ

根管治療の難しさ

根管治療は、一見簡単そうですが、実は難しい治療です。
歯髄を完全に除去できないと再感染を起こすリスクが高いうえ、根の先は直径1ミリ以下ととても細く、複雑な形をしているためです。「かき出す」「殺菌」「封をする」と目的はシンプルですが、一つ一つの治療内容が細かく、3つのステップのうち一つでもうまくいかないと再感染を起こしてしまいます。

再感染のリスクを下げるために

根管治療での再感染を徹底的に防ぐための試み

再感染のリスクがある根管治療では、再感染を徹底的に防ぐためにさまざまな試みが行われています。

<CT検査>
CT検査は、歯髄の形状などをX線では把握できない場合に検討します。
あらゆる角度から撮影することができるため、X線では見つけることのできない歯髄の特徴を、治療を始める前につかむことができます。

<ラバーダム>
ラバーダムは、薄いゴムでできたシートで、治療する歯以外を覆います。治療中の歯に周囲から細菌が侵入して再感染することを防ぎます。

<根管長測定器>
歯の根の先端の位置を調べるため、電極をつけた器具を歯の穴に差し込みます。歯髄を除去するためには器具をどれくらい深くまで入れればよいか、正確に把握することできます。

<マイクロスコープ>
スコープと一体化した照明で歯を直接照らし、さらに20倍まで拡大することができるため、根管の入り口もはっきり見え、その奥にある歯髄や汚れも正確に除去することができます。

根管治療を受けるには?

日本歯科保存学会の認定医・専門医・指導医、日本歯内療法学会の専門医・指導医がいる歯科にご相談ください。
費用の目安は、歯種・抜髄・感染根管処置などによって異なりますが、保険適用の場合、3割負担で1本あたり1200円~4000円程度です。自費の場合は5万~15万円程度です。

歯がすり減る!?

歯科で治療を受けるために座るいす

Cさん(男性・72歳)は、5年ほど前、食べたり飲んだりすると口の中に痛みを感じるようになりました。
そこで近所の歯科を受診したところ、「すり減っている歯が何箇所かあるが、私の手には負えない」と歯科医に告げられてしまいました。

歯がすり減る主な原因

歯がすり減る主な原因

歯がすり減る原因は主に3つ考えられます。

1つは、酸蝕(さんしょく)。
酸性の食品を食べたり、逆流性食道炎で胃酸が口まで逆流したりすると、口の中が酸性となり、その酸によって歯が溶け、すり減りやすくなります。食品では、炭酸飲料やスポーツドリンク、乳酸菌飲料、果汁飲料、柑橘系などをとると口の中が酸性になりやすくなります。
そして摩耗。研磨剤入りの歯磨き粉を使って歯を強く磨きすぎても歯はすり減ります。さらに、寝ている間の歯ぎしりが原因となることもあります。

すり減った歯を改善させるチョイス「コンポジットレジン」

コンポジットレジン

「コンポジットレジン」と呼ばれる、もともと虫歯の治療に使われていたプラスチックにセラミクスを混ぜた材料を使って、歯の修復をする治療法があります。

虫歯の治療に使う場合、まず虫歯の部分だけを最小限、削ります。
削った部分に接着剤を塗ったあと、LEDの青い光をあてると固まっていきます。そして、その上にコンポジットレジンを充てんしながら形を整えます。
コンポジットレジンも青色のLEDの光をあてると固まる素材です。再び歯に接着剤を塗り、コンポジットレジンを充てんします。この作業を何回も繰り返し、元の歯と同じようになるまで修復していくのです。

コンポジットレジンの治療前と治療後の写真

コンポジットレジンはその人の歯の色に近いものを選びます。紫外線をあてると3秒程度でしっかりと固まります。

<耐久性は?>
欠けることがあります。また、境目に色がついたり、その境目が虫歯になったりすることが起こりえます。ただし、欠けてもまた歯科を受診すれば1回の通院で治すことができます。

<費用の目安>
虫歯や酸蝕歯など、病気が原因の一般的な治療は保険適用になっているので、3割負担で1本1000円弱です。

<どこで受けられる?>
材料自体はどの歯科でも扱っていますが、技術が伴いますのでどこでも受けられるとは限りません。日本保存歯科学会、日本補綴歯科学会、日本接着歯学会など複数の学会に関係する領域なので、専門医はこうした学会のホームページを手がかりにお探しください。

コンポジットレジンの応用

歯が抜けてしまっている写真

歯が抜けてしまってもコンポジットレジンで歯を1本まるごと作り上げる試みも行われています。下の写真では、作られた歯が両隣の歯に接着剤で固定されています。ただし、これは保険適用外の治療です。

作られた歯を両隣の歯に接着剤で固定している写真

この記事は以下の番組から作成しています

  • チョイス 放送
    歯科最新情報2 歯を守るには