痛くても、恥ずかしさから、なかなか人に言えないのが 痔(じ)の悩み。特に多いのが、肛門が腫れて「いぼ」のようなものができる「いぼ痔」と、肛門の内側の皮膚が切れて痛む「切れ痔」。放っておくと痛みや腫れはさらに激しくなってしまいます。でも、初期の段階なら、手術をしなくても生活習慣の改善と薬で治すことができます。今回は、患者さんが多い「いぼ痔」と「切れ痔」の治療法の選択肢をお伝えします。
いぼ痔(じ)
いぼ痔は、便秘が続くことなどによって誰にでも起こりうる病気です。成人の3人に1人がいぼ痔を持っていると言われていますが、実際の患者数はよくわかっていません。症状があっても受診をためらう人も多いかもしれませんが、初期の段階であれば生活習慣の改善と薬で治すことが可能です。それでも改善しなかったり、悪化したりする場合は、手術を検討します。
いぼ痔の特徴
心当たりがないか、皆さんもチェックしてみてください。
肛門の周辺がうっ血して腫れ上がり、その名のとおり「いぼ」のように大きく膨らむのが「いぼ痔」です。いぼ痔は肛門の内側にできる場合と、肛門の外側にできる場合があります。内側と外側の両方にできることも多いと言われています。
主な症状は、排便時の出血です。排便後に血液がぽたぽた垂れるのが典型的で、痛みはありません。
肛門の内側にできた痔は、排便時、いきんだ時に肛門の外に出ることがあります。
初めは自然に戻りますが、やがて自分で押し込まないと戻らなくなり、さらに進行すると常に外に出ている状態になります。
いぼ痔の原因
「いぼ痔」になる最大の原因は慢性的な便秘です。硬い便を出すために必要以上にいきんでしまい、肛門の周辺がうっ血していぼ痔ができます。その後、次第にいぼ痔を固定している組織が弱くなって、いぼ痔が肛門から外に出るようになり、悪化していきます。
いぼ痔になりやすい人
- 重いものを扱う職業の人
- 長時間座りっぱなし、あるいは立ちっぱなしの人
長時間同じ姿勢が続くと、下半身の血行が悪くなり、肛門付近がうっ血していぼ痔ができやすくなります。 - 妊娠、出産
妊娠時にお腹が圧迫されると、肛門への負担が大きくなります。
また、出産の際は強くいきむので、腹圧がかかって、いぼ痔ができやすいのです。
切れ痔(じ)
切れ痔の特徴
肛門の内側の皮膚が裂けて痛むのが切れ痔です。切れ痔は多くの場合、一時的なものですが、次のような症状が特徴的です。
- 排便時に少量の出血(トイレットペーパーに付着する程度)
何度も切れ痔を繰り返すと、傷が深くなり肛門の皮膚が硬くなるため、肛門が狭くなってしまいます。 - 便が細い
(当初は太く硬い便で切れ痔になりますが、進行すると肛門が狭くなり細い便しか出せません。) - 排便時の強い痛み
「割れたガラスが肛門を通るような痛み」だという人もいます。
思い当たる症状はありませんでしたか?
切れ痔の原因
「切れ痔」になる最大の原因も、いぼ痔と同じく慢性的な便秘です。痔を悪化させる一番の要因でもあります。硬い便を出すため、排便時に肛門に負荷がかかり、感覚が敏感な皮膚の部分が切れるので、強い痛みが襲います。切れ痔になると、排便のたびに激しい痛みが伴うため、トイレへ行くのを我慢しがちです。すると、ますます便秘がひどくなり、便が硬くなるために傷口が治りにくくなるという悪循環に陥ってしまいがちです。
いぼ痔と切れ痔の治療
いぼ痔や切れ痔の初期の段階であれば、「生活習慣の改善」と「薬」で治療します。痔の最大の原因は慢性的な便秘なので、まずは生活習慣を見直して、便の状態を正常に戻すことが大事です。それができないと、痔を治療して治っても、いずれまた再発してしまいます。
便秘改善のポイント
「1日3食を守り、朝食は必ずとる」
食事の量が少ないと便があまり作られず、規則正しいお通じにつながりません。
「食物繊維を適量とる」
食物繊維には、便のカサを増やすことで、便を出しやすくする働きがあります。
「腸内環境を整える」
腸内細菌のバランスが崩れていると便秘を起こしやすくなります。腸内環境をよい状態に保つには、食物繊維のほか、ヨーグルトや納豆などの発酵食品をとりましょう。
「水分をこまめにとる」
水分を適量とることによって便が軟らかくなり、便秘の改善につながります。
「適度な運動」
腸の動きを活発にするためには運動も大切です。ウォーキングなどの適度な運動を習慣にしましょう。
痔の予防・改善につながる「お尻にやさしい生活術 5か条」
- 排便習慣の改善
食後などに便意を催したら、すみやかにトイレに行くなど、排便の習慣をつけましょう。 - トイレは短く
排便にかける時間はできるだけ短くしましょう。目安は3分以内です。 - 過度にいきまない
過度ないきみは肛門に負担がかかります。 - 入浴
お尻を温めると血行がよくなり、痔の症状を改善します。 - 長時間同じ姿勢を続けない
仕事などで長時間同じ姿勢を続けることは肛門に負担をかけます。
休憩の際は、軽いストレッチなどで体を動かしましょう。
痔の薬
- ざ薬
固形のタイプと軟膏のタイプがあり、いずれも肛門内に挿入して使います。痛みや腫れ、出血に対して効果があります。肛門内で直接患部に働きかけるため即効性があります。 - 軟こう
肛門の表面のいぼ痔の腫れに対してぬります。
初期の痔であれば、生活改善と薬だけで症状をコントロールし、悪化させないことも可能です。
いぼ痔の初期治療
肛門の外側にできたいぼ痔は、入浴などでお尻を温め、ざ薬や軟こうで治療すると、数日~数週間で痛みや腫れが消え、治っていきます。
肛門の内側にできたいぼ痔は、進行すると生活習慣や薬だけでは根本的に治すことは難しくなります。
症状が進行すると、排便後には「いぼ」が外に出て、指で戻さなくてはならなくなります。不快感を伴うのであれば、より積極的な治療が必要になります。
いぼ痔が進行した場合の治療法
症状が進行した場合、肛門の奥にできたいぼ痔に対しては、「ゴム輪結さつ法」もしくは「硬化療法(注射)」を行います。
ゴム輪結さつ法
いぼ痔の根元をゴムで縛ることで血流が止まり、徐々にいぼが え死して、1週間程度で自然に脱落します。
治療中や治療後の痛みが少ないため、外来(日帰り)で行っているところもあります。また、再発しても繰り返し治療することも可能です。ただし、血液を固まりにくくする抗血栓薬をのんでいる場合や、いぼが大きすぎる場合は行えません。
硬化療法(注射)
いぼ痔に炎症を起こす薬を注射し、いぼを硬化させて小さくします。その結果、出血やいぼが肛門から出てくるのを防ぐことができます。外来(日帰り)で行うこともありますが、2~3日入院する場合もあります。硬化療法は、いぼの大きさに関わらず行うことができますが、手術と比べて再発は多くなります。
手術
肛門の内側のいぼ痔の手術で広く行われているのが、「結さつ切除術」という方法です。いぼ痔に通じる血管を糸で縛って血流を止めて、いぼを切除し、傷口は縫い合せます。手術時間は15~30分で、約1週間の入院が必要です。根治させるにはこの手術が、最も確実な方法です。
切れ痔が進行した場合の治療法
切れ痔になった後も便秘が続くと、硬い便が通るために、最初は浅かった傷がだんだん深くなります。すると皮膚が硬くなって、肛門が狭くなります。そのために排便に支障をきたすようになると、手術が必要になります。
手術では、肛門の切れ痔で硬くなった皮膚を切除し、周りの軟らかい組織で覆う肛門の形成術を行います。手術時間は15~30分くらいです。約1週間の入院が必要です。
いぼ痔・切れ痔 手術の目安
自分の症状と進行具合、手術の方法をよく理解し、納得して手術を受けましょう。
- いぼ痔
「指でいぼを押し込むのがわずらわしい」「出血が続いて 酷い貧血がある」など、生活に支障を感じていれば手術を検討します。 - 切れ痔
2~3か月治療を続けてもよくならず、排便時の苦痛が強いときには手術も選択肢になります。
手術で治しても、肛門に負担をかける排便を続ければ、再発することがあります。正しい排便習慣を身につけて便秘を防ぐことが何よりも予防になります。手術を受けたあとも、お尻にやさしい生活を続けることが大切です。