過敏性腸症候群の下痢 原因に合わせた対策

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試験や大事な仕事の前などに緊張すると、急におなかが痛くなって下痢を起こす。いつ下痢になるか心配で、電車に乗ると不安になる。このような症状は、もしかしたら「過敏性腸症候群」かもしれません。過敏性腸症候群は、ストレスなどがきっかけで腹痛がつづき、下痢や便秘を繰り返す病気です。でも実は、ストレス以外にも、食べ物や生活習慣など、さまざまなものがきっかけになっている場合があります。そのきっかけを知ることで、自分に合った対策を見つけることができるかも知れません。原因に合わせた下痢対策を紹介します。

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は、内視鏡などの検査をしても大腸に異常が見つからないのにも関わらず、腹痛を伴う下痢や便秘が繰り返し起こる病気です。症状が週に1日以上起こり、それが3か月以上続くと、この病気と考えられます。男性では下痢型、女性では便秘型が多いですが、両方を繰り返す混合型もあります。特に下痢が繰り返し起こると、仕事や学校など日常生活に大きな支障をきたしかねません。成人のおよそ10%もの人が過敏性腸症候群だと言われ、特に20代~30代の若い人に多くみられる傾向があります*。
*機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 過敏性腸症候群(IBS)

ケーススタディ 30歳・会社員 Aさん

トイレのため中座

Aさんは、大事な商談の最中、緊張すると腹痛が起き、トイレに行くために中座することがよくあります。

電車で苦しむ絵

通勤のために電車に乗るときも、いつ下痢に襲われるか不安で仕方ありません。すぐにトイレに行けるよう、各駅停車にしか乗れません。

駅トイレの位置把握

途中にある駅のトイレの位置は、すべて頭に入っていますが、何度も電車を降りてトイレに行くため、会社に遅刻してしまうこともあります。

この病気は、ストレスが引き金になって起こることが多い病気です。電車に乗っているときも「トイレに行きたくなったらどうしよう」という精神的なストレスが腹痛や便意につながります。緊張する大事な場面で症状が出るために困っている人も少なくありません。性格的には、心配性の人が過敏性腸症候群を発症しやすいといわれています。

ストレスと下痢・便秘の関係

ストレスと下痢・便秘の関係

脳と腸は密接な関係にあります。脳がストレスを感じると、その信号が神経によって腸に伝えられます。
すると、ぜん動運動をコントロールする自律神経のバランスが崩れ、腸の動きが不安定になります。

下痢便秘イラスト

大腸では水分が吸収されますが、腸が過剰に動き過ぎると、水分を吸収する前に便が通過し、下痢になってしまいます。
逆に腸の動きが悪くなると、便を排泄できず、便秘になってしまいます。

ストレス以外の原因

過敏性腸症候群は、腸が通常よりも過敏になっていることも原因になります。
そのきっかけの一つは細菌やウイルスなどの感染です。サルモネラ菌、カンピロバクター、ノロウイルスなどによって感染性腸炎になると、治療後に治ったように見えても、腸の粘膜に軽い炎症が続いて、腸が過敏になってしまいます。新型コロナウイルス感染後に起きる例も報告されています。
また、腸内細菌のバランスの異常や、生活リズムの乱れ、睡眠不足や運動不足など生活習慣の乱れも、関係があると考えられています。

過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群には、ストレス、生活習慣、食べ物など、さまざまな要素が関係しており、人によっても違います。複数の要因が重なっている場合も少なくありません。そのため、それぞれの状況に合わせて、生活習慣の改善・食事の注意・薬による治療・心理療法などを組み合わせて行っていきます。

生活習慣の改善

生活のリズムを整える

まず、「生活のリズムを整える」ことが大切です。起床・食事・睡眠などのリズムが乱れると、体内時計が狂います。すると、呼吸や血液の循環、内臓の働きなどを調整している自律神経が乱れて、胃や腸に変調をきたします。また、脳もストレスを感じやすくなります。そこで、起床時間・3度の食事・就寝の時間を毎日なるべく一定にするように心がけましょう。
また、「適度な運動」がおすすめです。運動に自律神経のバランスを整える効果があることは、さまざまな研究・調査で明らかにされています。

運動前後の症状の強さを比較するグラフ

上のグラフは過敏性腸症候群の患者さんが、3か月の運動プログラムに参加した前後で症状の強さがどのくらい変わったかを示したものです。ウォーキングなどの有酸素運動を週3~5日、1日20分~1時間行ったところ、3か月後には症状スコアが改善したという結果が出ています**。また、このような運動を5年続けたところ、精神面の症状も改善したという報告もあります***。運動はストレスを解消したり、腸の動きを正常にしたりするので、過敏性腸症候群の治療に効果的です。
**Johannesson E,et al.Am J Gastroenterol. 2011
***機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 過敏性腸症候群(IBS)

食事の注意

控えたほうがいい食品

あぶらを使った料理、カフェイン、アルコール、香辛料などのとり過ぎは症状を悪化させるので、控えましょう。人によっては、食物アレルギーが症状の原因になっている場合があります。特定の食べ物をとったときに腹痛などの不快な症状が起こるので、何が原因になっているのか知って、それを避けることが大切です。

注意が必要な食品

原因になる食品は人によって違いますが、脂質やカフェイン類、香辛料、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、たまねぎ、小麦、大豆やひよこ豆、レンズ豆などの豆類などがあります。また、単糖、オリゴ糖、多糖などの糖類に敏感な人もいます。加工食品にこれらの糖が含まれているかどうかは、食品表示を確認しましょう。このような食品を避けることで、症状に改善が見られる人も多くいます。ただし、必ずしも、これらの食品を全くとってはいけない、ということではありません。たとえば牛乳をよく飲んでいた人が、そこに原因があることがわかったら、これまでより牛乳を飲む頻度を減らす程度でも、症状が改善することがあります。

積極的にとりたい食品

積極的にとりたい食品

肉や魚などのたんぱく質は積極的にとるようにしましょう。食物繊維は、下痢と便秘、どちらの改善にも有効です。乳酸菌やビフィズス菌などを含むヨーグルトなどの乳製品もおすすめです。乳製品で悪影響が出る人もいますが、そうでない人は、ヨーグルトなどを積極的にとったほうがよいでしょう。

お通じ日誌

自分はどういうタイミングで下痢を起こすのか、どんな生活をして何を食べたときがいけないのか、把握するためには「記録をつけること」をおすすめします。たとえば「お通じ日誌」です。

お通じ

お通じ日誌

お通じ日誌に記録するのは、排便の回数や便の形、残便感や不快感などはないか、食事の内容、睡眠の状態、どんなストレスがあったか、などです。排便習慣と日々の行動との関係、どういうときにストレスを感じやすいかなど、自分なりのパターンが見えてきます。また、こうした情報を記録しておくと、自分のふだんの生活の説明がしやすくなり、医師の診察を受ける際にも役立ちます。

薬による治療

生活習慣や食事の改善を行っても、症状がよくならない場合は、薬による治療が行われます。Aさんのように、たびたび腹痛や下痢の強い症状が現れる場合は、腸の動きを抑える「セロトニン受容体拮抗(きっこう)薬」が処方されます。ストレスで増える腸内のセロトニンの作用を抑え、腹痛や下痢の症状の改善が期待できます。
そのほかに、腸の動きを調節する「消化管運動機能調節薬」、腸内環境を整える「整腸剤」、便を適度な固さにする「高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)」などの薬があります。それでも症状の改善がみられない場合は、下痢を止める「止痢(しり)薬」、腹痛を抑える「抗コリン薬」などを使います。食物アレルギーが原因の場合は「抗アレルギー薬」が有効な場合もあります。

ストレスが原因になっている場合 心理療法など

ストレスなどにより気分が落ち込みやすくなっている人には、「抗うつ薬」や「抗不安薬」を使う場合もあります。この場合は精神科医とも協力して治療を行います。
また、心理療法や深呼吸によるリラックス法などで効果が出ることもあります。
心理療法の一つ、自律訓練法は、自己暗示によって心と体の緊張をほぐし、自律神経のバランスを整えるトレーニングです。リラックスした姿勢で「気持ちがとても落ち着いている」「手が重い」「手が温かい」などの言葉を心のなかで繰り返し唱えます。このようにして心と体をリラックスさせることで、過敏性腸症候群の症状が緩和することがあります。

自律訓練法の行い方はこちら

過敏性腸症候群は、体質だからといってあきらめている人も多いかもしれませんが、日々の生活に困っているのであれば、ためらわずに受診しましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年3月 号に掲載されています。

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