血管性認知症 脳卒中で起こりアルツハイマー型との合併が多い

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脳卒中を繰り返すほど起こりやすい「血管性認知症」

認知症の患者数は国内で700万人ほどと推定されており、そのうちの2~3割を血管性認知症が占めるとされています。血管性認知症は、主に脳卒中が原因で起こります。脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞や、脳の血管が破れる脳出血などがあります。
脳卒中が起こると、脳の組織に送られる血液が不足して脳の組織が障害を受けるため、認知症が起こりやすくなります。脳卒中を繰り返すたびに血管性認知症が起こるリスクは高くなり、初めて脳卒中が起こった場合は約5人に1人、2回以上起こった場合は約3人に1人の割合で認知症と診断されます。
そのため、脳卒中の予防はもちろんのこと、脳卒中が起こってしまった場合は再発を防ぐことが重要です。

あるケース 脳卒中を起こしたAさん

血管性認知症はどのように始まるのでしょうか。ある人のケースを見てみましょう。

妻と2人暮らしのAさん

70歳代のAさんは、妻と2人暮らしです。

ふらつきや言葉でなくなって脳梗塞と診断された

あるとき、突然、片側の手足のまひとふらつきが起こり、言葉が出なくなりました。救急車で運ばれ、脳梗塞と診断を受け、そのまますぐに脳の血流を復活させるカテーテル治療を受けました。その後無事に退院しました。

料理をしているときに手間取るようになった

でもその後、趣味である料理をしているときに、手間取るようになりました。

ぼーっとすることが多いなと感じたAさんの妻

妻は、夫が「ぼーっとすることが多いな」と感じています。

話をしているときはしっかりしていて記憶障害はない

でも、2人で話をしているときは夫の判断力や知識はしっかりしています。記憶障害はありません。2人とも「脳梗塞の後遺症が少しあるみたいだけれど、しかたない」と考えながら過ごしています。

血管性認知症の初期症状

実はAさんには、血管性認知症の典型的な初期症状が起こっています。それは、料理など「物事を段取りよく進められなくなる」「ぼーっとしている時間が長くなる」という症状です。こうした症状は、脳卒中により脳細胞の一部が死滅したために、以前よりも頭の回転が遅くなることで現れます。ただ、頭の回転が遅くなるだけなので、特に初期のころは判断力や知識などは保たれていることが多いのです。
また、血管性認知症の初期では、記憶障害は「以前よりも物事を思い出すのに時間がかかる」といった程度であまり目立たないことが多く、“明らかな記憶障害=認知症”と思い込んでいる人は見逃してしまうため、注意が必要です。

早期発見のため脳卒中後3か月間は要注意

脳卒中を起こした人が血管性認知症になる場合、大体3か月以内に症状や変化が現れます。目安として、脳卒中の発症から3か月たったころに、「以前とは何か様子が違うな」と本人や家族が感じたら、一度受診をすることがすすめられます。
また、歩きにくい、しゃべりにくい、飲み込みにくい、トイレが近くなったといった脳卒中の後遺症が強くなっている場合も受診がすすめられます。通常は、脳卒中の発症後3か月程度では、こうした後遺症は強くなりません。たとえば、歩きにくいという後遺症が強くなっている場合、平行して血管性認知症も起きている可能性が高くなります。
このように血管性認知症が疑われる場合は、脳神経内科や脳神経外科など、脳卒中について詳しい医師を受診することがすすめられます。受診すると、問診や質問式の認知機能検査、MRIやCTなどの脳の画像検査により、血管性認知症の診断が行われます。

あるケース 脳卒中に気づくのが遅れたBさん

もし受診が遅くなった場合、血管性認知症はどのような経過をたどるのでしょうか。Bさんのケースを見てみましょう。

片手のまひによる症状

Bさんは73歳のとき、箸がうまく使えなくなりました。でも、深刻に考えず、受診しませんでした。実はこれは片手のまひによる症状で、すでに1回目の脳梗塞を起こしていました。

階段でふらついて転倒したのきっかけに脳梗塞と診断

しばらくしてから、階段でふらついて転倒し、受診した結果、脳梗塞と診断されました。

脳のMRI画像

こちらが、そのときに撮影した脳のMRIです。左の画像の白い箇所は、脳梗塞を起こして間もない箇所です。右の画像は同じ時期に撮影したもので、脳梗塞に関連して血流が減り、酸素不足になっている箇所が白くなっています。この白くなった箇所を「白質病変」といって、この病変が広がったり増えたりするほど、認知症の発症や進行につながります。

Bさんが質問式の認知機能検査を受けた結果

Bさんは、質問式の認知機能検査を受けた結果、30点満点中23点で、「血管性認知症」と診断されました。一般的に、23点以下から医師は認知症を疑います。
その後も、Bさんは少なくとも4回は脳梗塞を再発していることがわかっています。

Bさんの73歳と77歳のときのMRI画像

右の画像は、Bさんが77歳になった現在の脳のMRIです。73歳のときと比べると、白質病変の範囲が大きく増えています。

Bさん77歳の時の認知機能検査の結果

認知機能検査の結果は12点まで下がり、「高度の認知症」と診断されています。
Bさんの場合、箸がうまく使えなくなった時点、すなわち1回目の脳梗塞のときに受診して治療を始めていれば、その後の血管性認知症の進行速度が変わっていた可能性があります。

脳卒中を再発すると認知症が一気に進行する

Bさんのように脳卒中を再発する人は多く、脳卒中患者の2~3割は10年以内に再発しているといわれています。すでに認知症がある人が脳卒中を再発すると、認知症が大きく進行してしまいます。

アルツハイマー型認知症の進行

認知症の進行のしかたは、アルツハイマー型認知症の場合、徐々に緩やかに認知機能が低下していきます。

脳卒中を再発と認知症の進行

一方、血管性認知症の場合、一般的に、脳卒中を再発するたびに、認知機能が一気に低下します。

血管性認知症の治療

血管性認知症は、脳卒中を再発しなければ多くの場合は進行しません。そのため、脳卒中の再発を防ぐための対策が何よりも重要です。脳卒中を起こした人は、必ずその危険因子を持っているため、その対策を行います。
主な危険因子は、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症といった生活習慣病、喫煙習慣、脳梗塞の既往歴です。生活習慣病に対しては、食生活の見直し、適度な運動、処方薬などによって、数値をしっかり管理していきます。喫煙習慣がある人は、必ず禁煙することです。脳梗塞を起こしたことがある人は、血液を固まりにくくする抗血栓薬の服用が基本です。
ただし、血圧は加齢とともに高くなりやすく、危険因子への対策をしても、残念ながら再発を防ぎきれないこともあります。それでも、しっかり対策すれば、再発のリスクを5割程度に減らすことができるとされています。

「DASH(ダッシュ)食」+「適塩」で脳卒中を予防

加齢と共に血圧が上がり脳卒中のリスクが増えるため、特に脳卒中を起こした人には血圧を下げる対策がすすめられます。そこでおすすめの食事法として、実践しやすく覚えやすい「DASH食」を紹介します。
DASH食は、アメリカで考案された高血圧の予防と改善が目的の食事法で、実際に血圧を下げる効果も実証されています。

DASH食の基本

DASH食では積極的にとりたい栄養素として、血圧を下げるのに役立つカリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、たんぱく質があげられています。

食品でいうと食べる量(摂取量)を増やすことがすすめられているのが、野菜、果物、精製していない米やパンなどの全粒穀物、低脂肪の乳製品、魚、鶏のささみや胸肉、豆類、ナッツ類、植物油などです。

摂取量を増やす食品、野菜、果物、精製していない米やパンなどの全粒穀物

低脂肪の乳製品、魚、鶏のささみや胸肉

豆類、ナッツ類、植物油

逆に食べる量を減らしたほうがよいとされている食品が、食塩、脂身の多い肉、高脂肪の乳製品、スイーツなどです。炭酸飲料やスポーツドリンクなどの飲み物は糖分を多く含んでいる商品が多いため、とりすぎないように注意することがすすめられています。

DASH食は脳卒中リスクも下げる

DASH食は、高血圧だけでなく、脳卒中のリスクも下げることが数多く報告されており、2018年にそれらの報告を分析し直した研究が行われました。およそ55万人を5年以上追跡したところ、DASH食の実践を続けた人たちは、そうでない人たちと比べて、脳卒中を発症する割合が12%低く、アジア人に限定すると約33%低かったと報告されました。(Qinglin Feng, et al. Medicine 2018)。
アジア人は、欧米人と比べて脳卒中を起こしやすく、脳卒中に対して高血圧が影響しやすいことがわかっています。また、アジア人は、同じ量の食塩を摂取しても、欧米人と比べて、血圧が上がりやすいともいわれています。こうしたことが、DASH食がアジア人の脳卒中リスクを下げやすい理由と考えられています。

減塩よりもまずは適塩

DASH食では、1日の食塩の摂取量を5.8gにすることが推奨されています。ただし、和食は洋食と比べて食塩量が多く、すぐに推奨値まで減らすことが難しい場合もあります。
そこで、まずは「適塩」を意識してみましょう。調味料を減塩タイプのものに替えて、少しずつ薄味に慣れていくのがおすすめです。また、汁物を食べるときは、野菜を多く入れると、食物繊維の働きにより、腸から食塩が吸収される量を減らすことができます。

血管性認知症対策はアルツハイマー型にも有効

DASH食や適塩などの脳卒中対策は、血管性認知症だけでなくアルツハイマー型認知症の対策にもなります。特に高齢者のアルツハイマー型認知症は、脳卒中や“隠れ脳卒中”を合併しているケースが多くあることがわかっています。隠れ脳卒中は、脳卒中の症状は現れないものの、小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)や小さな脳出血が起きている状態です。

アルツハイマー病とラクナ梗塞が起きたときの脳のMRI

こちらの脳画像では、脳と頭蓋骨の間に黒い隙間が目立ち、脳全体が萎縮していくアルツハイマー病があることがわかります。

拡大した脳画像

脳画像を拡大すると、脳に小さな点(丸で囲った箇所)が複数あることがわかります。これが「ラクナ梗塞」です。
アルツハイマー型認知症と診断された人の脳を調べた研究では、約8割の人に脳卒中や隠れ脳卒中の病変があると報告されています。(Toledo JB, et al. Brain. 2013)
アルツハイマー病による脳の萎縮だけでは認知症を発症しないことも少なくなく、高齢者の認知症の多くが、実はアルツハイマー病と、脳卒中や隠れ脳卒中の両方によって発症している「合併型」と考えられます。
アルツハイマー病による脳の萎縮が始まると、それを止めることは困難です。でも脳の萎縮が始まっていても、脳卒中や隠れ脳卒中の発症や再発を防ぐことができれば、認知症を発症せずに天寿を全うできることもあると考えられています。DASH食などの脳卒中対策は、そのまま隠れ脳卒中対策にもなります。さらには、アルツハイマー型認知症にも効果を及ぼします。食生活など、「認知症予防のために血管を守る」ことを意識しながら、皆さん過ごしてください。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年3月 号に掲載されています。

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