椎体骨折(圧迫骨折)の治療、予防のための背筋運動

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加齢とともに増加する椎体骨折

椎体骨折

椎体骨折は背骨の椎体が押しつぶされたようになって骨折するもので、圧迫骨折ともいわれます。
椎体骨折の発生率は男女とも年齢と共に増加します。男性より女性の方が多く、80~84歳の女性の場合は1000人中37人、つまり1年に約4%も骨折していることになります。

椎体骨折の発生率

椎体骨折の原因 骨粗しょう症

椎体骨折の原因として最も多いのは、「骨粗しょう症」です。高齢者、とくに女性の高齢者に椎体骨折が多いのは、そのことが関係しています。
他にも「高所からの転落や交通事故などの激しい外傷」「がんの骨転移」「感染症」なども椎体骨折を引き起こす原因となります。
骨粗しょう症の人は、転倒して尻もちをつく、重いものを持つなどの動作で椎体骨折をおこします。転倒などのきっかけがなくても椎体骨折することも多いです。
実は椎体骨折の3分の2は、特別な原因がなくても起きているとされています

また、背骨に1つ骨折があると、新たな骨折が起こりやすくなるというデータがあります。
1つ以上骨折があると、次の1年では約22%の人が新たに骨折するリスクがあるというのです。骨折が増えていくと痛みも強くなりますし、日常生活が困難になり、最終的には寝たきりになってしまう恐れも出てきてしまいます。可能な限り早期から椎体骨折を予防する必要があります。

椎体骨折の症状

急性期の症状は「背中や腰の痛み」です。特に転倒など原因がはっきりしている骨折の場合は、直後から強い痛みが生じることが多いです。骨折部に血腫という血の塊ができたり、炎症が起きて痛みが生じます。
椎体骨折の場合、骨折したばかりの時期には、立ったり座ったり身体を動かしたときには強い痛みがあるものの、安静にしていると楽という特徴があります。骨折して3か月くらいたつと、骨がつぶれた状態で固まり、徐々に痛みはなくなっていきます。

痛みは骨折している部分にだけ出るのではなく、背骨から離れた場所にも出てくることもあります。

椎体骨折かも!?自分で気づく方法

知らないうちに骨折していた、そのままにしていたら痛みもなくなっていく・・・と聞くと「自分で椎体骨折に気付くのは難しい」と思われるかもしれませんが、簡単に椎体骨折に気付ける方法があります。

意識して欲しいのは…ずばり「身長」です。
目安としては、若い時からの身長低下が4cm以上、女性の場合は、閉経後の3年間の身長低下が2cm以上あった場合は、椎体骨折が生じている可能性が高いと考えた方がよいでしょう。

椎体骨折は、1つ骨折があると新たな骨折が起こりやすくなるので、連鎖して何か所も骨折することがあります。すると、背中が丸くなって身長が低くなります。
骨折自体はしばらくすれば治りますが、つぶれた椎体の形は残るので、骨折した椎体の数が多いほど身長が低下し、さらに背中が丸くなっていきます

背中が曲がったとしても、痛みもないため、そのまま過ごす人も多いです。しかし、放置するのはよくありません。立った時のバランスが悪くなり、転倒のリスクが上がりますし、おなかの臓器が圧迫されて胃食道逆流症が生じやすくなるなど、日常生活にさまざまな支障ができます。

椎体骨折している場所を知る方法

ポイントは、「①隙間」と「②ろっ骨と骨盤の間」です。

①隙間

立ち上がって壁に背中をつけて立ったとき、壁と後頭部に隙間が空いている場合は、胸の後ろにある「胸椎」を骨折している可能性が高いです。姿勢を意識すれば後頭部を壁に付けられるというのであれば心配ありません。椎体骨折がある場合には、意識しても後頭部を壁に付けることができません

壁と後頭部に隙間がある場合、胸椎骨折の可能性が高い

②ろっ骨と骨盤の間

真っすぐ立って腰に手を添えたとき、ろっ骨の最下端と骨盤の間に指が2本以下しか入らない人は、腰椎を骨折している可能性が高いです。

腰椎を骨折している可能性が高い場合

なるべく早く椎体骨折に気付くために、これらのポイントを覚えておいていただき、気になる点があったら早めに受診することをお勧めします。

椎体骨折の診断

椎体骨折の診断は、背中の動きや背中の骨を軽くたたいて痛みがあるかを確認したうえで、X線検査を行うことが基本ですが、場合によってはCTやMRI検査を行うこともおすすめします。X線では椎体骨折が前に生じた古い骨折なのか、最近あらたに生じた骨折なのかを見分けることが難しい場合がありますが、MRI検査であれば古い骨折なのか新しいものなのかを簡単に見分けることができます
さらにMRI検査では、がんによる骨折、あるいは感染症による骨折などとの鑑別もできますし、手術が必要なのかどうかの判断もできます。また、骨粗しょう症が疑われる場合には骨密度も測定します。

椎体骨折の治療

治療法には、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。
重度の骨折が認められず、神経麻痺がない場合は、コルセットやギプスで腰回りをサポートしつつ、痛み止めや骨粗しょう症の薬をつかって治療を進めていきます。
特に骨粗しょう症による椎体骨折には、骨粗しょう症の薬を使うことが重要です。骨を強化することで、すでに椎体骨折があったとしても、新たに椎体骨折が起こるのをおさえることができます。実際の研究からも、新規椎体骨折のリスクが40~80%程度減少することがわかっています

保存療法だけでは痛みが治らない場合は「手術」を行います。
骨折箇所が1か所で、軽度の骨折の場合には「椎体形成術(BKP)」が行われます。
骨折部分の背中の皮膚を2箇所、5mmほど切開して針のように細いチューブを挿入し、これを通して骨折している椎体の中でバルーン(風船)を膨らませて、潰れたかたちを矯正した後、骨セメントを注入して固めます。

椎体形成術(BKP) 細いチューブを挿入
椎体形成術(BKP) 椎体の中でバルーンを膨らませる

椎体形成術(BKP) つぶれた形を矯正
椎体形成術(BKP) 骨セメント固める

この手術であれば、早期に痛みを軽減することができる上に、手術による身体的負担も軽く済みます。傷口は小さく、手術時間も30分程度で終了します。ただし、手術に伴う合併症のリスクもあるので、医師から十分に説明を受ける必要があります。

骨折している箇所が複数あって背骨がかなり曲がっているなど重症の場合には、金属スクリューなどの機器を用いた背骨の再建術「脊椎固定術」が行われます。

脊椎固定術

他にもいろいろな手術方法がありますが、骨折の状態や骨がもろい患者さんには、適応できない場合もあります。
手術はあくまでも最終手段ととらえていただき、身体に負担がかかる手術を受けなくても済むよう、可能な限り早期からの予防が大切です。

予防に効果的な背筋の運動

椎体骨折を予防するために効果的なのは「運動療法」です。特に大切なのは、「背筋力」をつけることです。背筋力が低下してしまうと背中の曲がりが強くなり、椎体への負担が大きくなり、さらに椎体骨折がおきてしまう、ということになりかねません。そこで脊柱が曲がらないように背筋力を維持することが大切なのです。

おすすめの運動は「等尺性背筋運動」です。関節などを動かさずに、少ない動きで背筋を鍛えることができます。ただし、背中がひどく曲がり、うつ伏せが出来ない場合や椎体骨折の急性期の時は、行わないように注意してください。

①うつ伏せに寝て、おなかの下に座布団などを挟む。

うつ伏せに寝て、お腹の下に座布団などを挟む

②気をつけの姿勢で背中に力を入れて、上半身を10cm程度ゆっくり持ち上げる。

気をつけの姿勢で背中に力を入れて、上半身を10cm程度ゆっくり持ち上げる

③そのまま5~10秒止めて、ゆっくり下ろす。

そのまま5~10秒止めてゆっくり下ろす

この運動は、1日10回行っていただくとよいでしょう。実際に1日10回を週5日、この運動を行った患者さんのデータによると、4か月で背筋力が約25%増加したという研究報告があります。
大切なのは運動を習慣化すること。寝た状態ですぐにできるので気づいたときに行っていただきたく思います。

骨粗しょう症のチェックも重要

椎体骨折の予防のためには「背筋力を鍛えること」だけでなく、「骨粗しょう症の重症化を防ぐこと」も重要です。早いうちから骨密度検査などを積極的に受けて、自分の身体の症状をチェックしてみてください。
現在、国内の骨粗しょう症検診の受診率はわずか5%程度にとどまっていますが、特に女性の方は骨粗しょう症になりやすいので、積極的に受診をして欲しいと思います。

その結果、骨粗しょう症だと診断されたら早めに骨粗しょう症治療薬を使って治療することが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年2月 号に掲載されています。

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